『接待 灰の傷痕(哲学の階)』
Part18 - 51ビナー「ふむ……灰の剣の担い手、まさか私が実物を見ることなろうとはな」
ソロモン「……調律者だと?いや、そうか……大方アンジェラの誕生の阻止を企てたか」
ビナー「自らも同じ経験をした故、理解が早くて何よりだ」
ソロモン「そして、貴様が此処にいるということはものの見事にしくじったという訳だな。長話と油断災いしてカーリーに叩き斬られたか?」
ビナー「左様。当時は私もE.G.O.についての造詣が差程無かったのでな、対処に遅れた結果、深く永い眠り付くこととなった」
ソロモン「流石は赤い霧。……それで?一体何のつもりで貴様は図書館にいる。お前をその様にした者とアンジェラは決して無関係でもないだろう」
ビナー「アンジェラ、光を造り出す揺りかごから産まれた機械仕掛けの赤子。アレは私が見出だした愉悦の遺した存在。その末路を見届けることこそが今の私の愉しみなのだよ、嘗ての不純物よ」
ソロモン「……調律者というのはどうしてどいつも趣味が悪いんだか。脳改造のせいで趣味趣向がねじれたか?」
ビナー「それは私の知る限りではない。だが過去にお前が屠ったエルザはそう度し難い性格では無かっただろう」
ソロモン「人の妻子を元が人とすら思えない怪物に改造してくれたクソ女がまだマシな類いとは、冗談としては0点だ。……アレの知人ということは、お前はレティシアか?それともガリオン?」
ビナー「ガリオンという名は既に死人の物だよ」
ソロモン「成る程、奴が言ってた"頭のイカれたサディスト女"の方か」
ビナー「否定はしない。……さて、灰塵の王。一度は変革の力と意思を抱きながらも、全てを諦めた灰滓の男。今更再び立ち上がるとは、どういう風の吹き回しだ?実に興味がそそられる」
ソロモン「歳を取って色々と考えるようになった、それだけさ。幸先短い身なら、残りの人生はやりたいことをやりながら派手にくたばる方がいいだろう?」
ビナー「その行いが都市の循環にしかならないとしてもか?特異点によって在り方を歪められた五万の仲間の命をその手で灰にし、剣を持ち込んだ貴様を排除するため派遣された調律者一人と爪三人を使い魔にし、勝利した末に出した結論を簡単に覆すことはそう容易いことでは無かったろうに」
ソロモン「歩いてきた道を振り返り、別の道へと踏み出すのは簡単なことではなかった。だが必要なのは一歩目を踏み出す切欠と勇気
それだけで十分だった」
ビナー「心に被せた蓋を開き、自らの望みと向き合った成果がそのE.G.O.なのだろうな」
「…………長話が過ぎたな」
ソロモンが形容し難き無数の怪物が刀身に刻まれた灰の大剣を抜き放つ。その動作と同時に彼の背後に次々とかつて敵だった存在が付き従うように姿を現した。
「灰色の軍勢。壮観だな。私の力で果たして何れ程持つのやら」
変わらず皮肉気な笑みを浮かべながら、ビナーを取り囲む柱と鎖、そして彼女の掌に集まる光。
劣化したとはいえ過去に調律者として振るった力を最大まで稼働させる。そうしなければ狩られるのは己だと理解しているが故に。
「此度も再び燻り眠るといい、諦観者よ」
「ならばもう一度燃え上がるだけだ、死に損ない」