『接待 橙色の羅針盤』

『接待 橙色の羅針盤』

Part17 - 158-173

アンジェラ「開館した図書館、送られる招待状、お迎えするゲスト……いつも通りのサイクルが戻ったわね」

ローラン「どうしたアンジェラ、急に黄昏て」

アンジェラ「最近色々想定外ことばかりだったでしょ?そのせいで普段通りの出来事にちょっと安心感を覚えただけよ」

ローラン「まあな。招待したゲストが当然のように負けても帰るわ、送ってもいない招待状で来訪されるわ、無断で侵入されるわ……図書館のシステムを見直した方がいいんじゃないか?」

アンジェラ「裏技や力業に一々対応していたらキリがないわよ。それに、光を集めていけば何れ図書館は実体を持ち始める。その時になったら理論上物理的な破壊行為によって図書館に侵入される可能性が出てくるわ。ある意味予習だと思えば───」

(遠方から聞こえるけたたましい破壊の音)

アンジェラ「………………」

ローラン「……なあアンジェラ、図書館ってもう実体化してたのか?」

アンジェラ「そんな訳ないでしょ……おかしいわね、まだ物理的な干渉は出来ないはず……」

(何かが呑まれるような音)

アンジェラ「……まずいわね」

ローラン「今度はなんだアンジェラ」

アンジェラ「図書館の一部が空間ごと削り取られた。相手は空間干渉の技術を持ってるみたい」

ローラン「マジかよ。途端に行きたくなくなってきたんだが」

アンジェラ「つべこべ言ってないで接待の準備をして。……それと、気を付けて」

ローラン「りょーかい」


 …………


ラケル「とぉーう」

(腕が変化した怪物の口が図書館の一部を捕食する音)

ラケル「もーぐもーぐ……うーん、ねじれと似たような味ですね。でもちょっと薄味かな」

アンジェラ「……ゲストの方、図書館に対する器物損壊は許可していません」

ラケル「あ、司書さんどもども~。『橙色の羅針盤』のラケルです!お邪魔していますよ!」

アンジェラ「……招待状を使わず無断侵入したのは、まあ貴女が初めてではないから見逃すわ。けれど、来訪して管理人に断りもなく破壊行為をするのはマナー違反ではないかしら」

ラケル「破壊行為じゃなくて食事ですよ~。それに味見みたいなものなので許してください!」

アンジェラ「は?」

ラケル「実は私も最初はちゃんと招待状を使って入ろうとしたんですよ?けど周りに招待状を持った人が誰も現れなくて……なのでちょっと色々食べて、混ぜて、無理矢理図書館の壁を食い抜いた所存です!」

アンジェラ「……まともに相手しては行けない類いね……それで、ここに来た理由は本を求めて、で間違いないかしら」

ラケル「もちのろんです!本ってどんな味してるのかなーと思って、とりあえず色々用意してくれたら助かるんですけど……あ、無限に食材が出てくる本とかあります?新鮮な人間の死体でも構いませんよ!」

アンジェラ「…………あなたの本が見つかりますように」


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ローラン「…………(苦悶の表情)」

アンジェラ「…………お疲れ様」

ローラン「あの女……ふざけやがって……次遭ったら必ず仕留めてやる……」

アンジェラ「聞きたいのだけれど、都市では彼女のような存在は珍しくないのかしら?」

ローラン「探せばいるだろうさ。まあ、アレほど極まった変態を目にしたいと思う連中は少ないだろうが」

アンジェラ「……人の肉、そんなに美味しいのかしらね……」

ローラン「ところでアイツに手とか足とか食われた司書はどうなったんだ?ちゃんと治せるのか?」

アンジェラ「すぐには無理だけど少し時間をかければ元通りになるわ。……まさか本の機能の一部ごと捕食してくるとは思わなかったけど」

ローラン「幻想体の力も真正面から食い千切りやがったんだ、今更だろ。……というか、アレ本当にE.G.O.なのか?俺にはねじれの一種にしか見えなかったんだが?」

アンジェラ「ねじれとE.G.O.の違いは自分の利己心と向き合い受け入れたか、目を反らして挫折し心がねじれたかの違いでしかないわ。私から見れば、彼女は己の本質を直視して普通に許容できていたと思う」

ローラン「……全員の心が綺麗で美しい訳じゃないってこったな」

アンジェラ「怪物のような心を持っていれば、怪物のようなE.G.O.を発現する。そう考えれば道理も道理ね」

ローラン「…………挫折、ね……」

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