探しもの
平安の世、蝦夷のとある村に一人の少女がいた。名をアヌシコ、後にモレの宿敵となる少女である。彼女は、不思議な道具を作ることに長けていた。都では術式と呼ばれているこの力、彼女は今はただ、道具を作って野山を駆け回るばかりである、そんな少女であった。
アヌシコの住む村のすぐ近くの山には獣がいるという。人の世を壊す忌み子が住んでいると言われていて、誰も近寄らなかった。
たった一人、アヌシコを除いて。
「やい!忌み子!!」
少女は今日も元気に叫ぶ。
武器を作っては、山を登って、武器を持たずに泣いて帰ってくる。
その繰り返しであった。
そんなある日、いつものようにアヌシコと一悶着した場に物が落ちていることにモレは気づいた。
アヌシコが落としたのだろうか。
触らないように気をつけながらよく見てみると髪留めのようで、地べたに落ちているには不似合いな程精巧に作られている。
モレはしばらく考えたあとおもむろに立ち上がり、その場を去った。
アヌシコは泣きべそをかきながら夜の山に立ち入った。
家で髪の手入れをしていたら髪留めがないことに気づいたのだ。探し回ったがどこにもなく、残るは忌み子の山だけであった。忌み子の山には誰も近づかない。
しかし、あの髪留めは宝物である。諦めきれるものではなかった。
「ない、ないよぉ、ぐずっ」
茂みを漁るが見つからない。目を皿にして探すも見つからない。
アヌシコは何度目かわからないため息を吐いた。
「……探しもの?」
顔を上げると、モレが物憂げな表情を浮かべてそばにいた。
アヌシコはモレの存在に驚くあまり、しばらく黙っていたが、ややあって答えた。
「あぁ……髪留めを……」
それを聞いたモレは一言「来て」と呟くと森の奥へ進んでいく。
アヌシコは慌ててモレを追いかけた。
やがて開けた花畑に出る。
モレは立ち止まり、少し先を指差した。見ると、髪留めが花に囲まれるにように落ちていた。
「うおぉ、あったぁ!!」
アヌシコは目を輝かせて髪留めに飛びつく。
モレはアヌシコをじっと見つめた後、ゆっくりと口を開いた。
「綺麗だね」
アヌシコは、笑顔で答えた。
「これは、おっとうが作ってくれたんだ。礼を言うぞ!忌み子!!」
モレは微笑み返すと去っていった。アヌシコは髪留めを大事に持つと、家路に着く。
そして、次の日、また武器を持って山を登っていくアヌシコの姿を村人達は見るのであった。