(掌編) 三羽の兄鴉
ペイル寮の一室。
無機質な作りの会議室のソファに同じ顔が三つ並んでいた。
「ねえねえ、何してんの?それ」
「あんたには関係ない」
冷たく突き放されたものの、笑顔の青年は聞かなかったフリをして片割れの手にある手元の端末を覗き込んだ。
「『雛鳥ちゃんファンクラブ』のアーカイブ?…ほぼ盗撮じゃん」
怖〜!と笑顔のまま大げさに肩を竦める。
「写真のチェック?そもそも何で君がスレッタのファンクラブに入ってるのか理解できないよ」
「……」
「だってこんなことしなくても、彼女と出掛けたり、遊んだり…いくらでも出来るじゃないか。妹なんだもの」
反応はない。
この性格のよろしくない“天使の君”からちょっかいをかけられることに、無表情の青年はもうとっくに慣れているのだ。
それを面白くないと感じたのか、笑顔の青年はまさしく“天使”のように殊更にっこりと微笑む。
「ふ〜ん、そっか。なるほど、君は可愛い妹にお兄ちゃんとして特別扱いされているだけじゃ満足出来なくて、スレッタに近づく人間を牽制してなくちゃ気が済まないんだ!」
ね、会長?と付け加えてやれば、無関心を貫いていた氷のかんばせにぶわりと怒りの表情が浮かんだ。
そのままニタニタと笑みを浮かべる青年の胸ぐらを掴んでやろうと手を伸ばすが、すかさずもう1人から待ったがかかる。
「見え見えの挑発に乗るんじゃない」
1人だけスーツ姿の青年は呆れたように顔を歪めた。
「お前もさあ!わざわざ逆撫でするようなこと言うなって!」
「え〜?だってほんとのことじゃん」
「会長は、CEO達がやれって言ったからやってるだけだよ」
「じゃあ僕と替わろ?」
「本当にやめろ!!」
一触即発の2人を婆さん達から託された書類を机に叩きつけることで制止する。
あ、やべ。今度の運動会に関する結構重要な書類だったのに。慌てて掻き集め、あらためて机に広げた。
「婆さん達から伝言。ザウォートの貸し出しはOK、修理にかかる金は一部は出すけどあとは模擬店の売上とメディアからの映像使用料で賄えってさ」
「あと当日は観に来るらしい」
「お婆ちゃん達来るの?やだなぁ〜またお小言言われるじゃん」
「……あんたの素行が悪すぎるせい」
「そうだよ。今日もここに来るまでに3人の女の子に怒られたんだぜ。3人だよ3人!」
「だって最近運動会のせいでスレッタが構ってくれないんだもん、しょうがないよね〜!エラン様、女の子と喋れて良かったんじゃない?」
「お前…ほんと…!」
◆ ◆ ◆
氷の君:やべーシスコン。門限は絶対6時。どこか行く時は誰と何処に行くのか全部教えて。あと1時間ごとに安否確認するから。なんかこの子ヤバいわね…!ちょうどいいし会長やってもらいましょ!でCEO達に会長に任命されたが、ファンクラブは暴走する人間もあんまり居ないし意外と居心地がいい。大抵黙って他の会員の話を聞いているが内心では激しく頷いている。………結婚?まだ早いんじゃないかな。ペイルに婿に来てくれる人じゃないと許さないし少なくともベネリットグループ内の人間は絶対だめ。
天使の君:なんか2人ともスレッタを束縛しすぎじゃない?どうせ卒業したらずっと一緒に居られるんだもん、今は自由にさせてあげたらいいのに。もうちょっと“悪い子”になっても良いんだよ?妹と他の女の子は別腹。別腹だけど、よく2番目の兄と一緒に出掛けるスレッタに着いて行こうとして、既に他の子と約束している事をチクられ「ちゃんと女の子との約束を守らないと、ダメです!」と叱られてデートに送り出される。その時の次兄の勝ち誇った顔に殺意を抱いている。
エラン様:お兄ちゃん。普段は会社で頑張っているのでスレッタに優しく労って欲しい。妹からの毎晩のメールでお兄ちゃんはお仕事頑張れる。弟達に言うのは癪なのでCEO経由でスレッタの写真を送ってもらっている。たまにペイル寮に顔を出すと寮生からチヤホヤしてもらえて嬉しい。お付き合い?スレッタにはまだ早い…門限も絶対6時。え!?もう17歳???…こないだ13歳になったばっかりじゃなかったか??ちっちゃい頃はお兄ちゃんのお嫁さんになるって言ってくれたのに…