捻じれて歪んだ五行論 設定
セイア「いやー疲れたな」
ナグサ「死にそうな雰囲気だったのに」
セイア「おいおい、頑丈なキヴォトス人がこの程度で死ぬわけないだろう?」
ナグサ「理不尽では?」
セイア「何を今更。ではこちらで集めた情報も含めて、入手した情報を纏めておくとしよう。後でモモイの台本に仕込んでおく必要があるからな」
自然現象のあらゆるものは木火土金水で表される法則を有する。
これらは助け合ったり抑制し合ったりする関係性であり、矢印で隣り合うものを相生、一つ飛ばしたものを相剋することによって世界のバランスが保たれている。
相生:木が燃えて火が発生し、火は灰を作ることで土を肥えさせ、土の中から金属が生まれる。鉱脈からは水が湧き出でて、水は木を育てる。
相剋:木は土の養分を吸収し、土は水を堰き止め、水は火を消し、火は金を溶かし、金は木を切る。
しかし『名もなき神々』によって作られた遺物の数々は、『忘れられた神々』に対抗するため、これら自然の流れに対抗して捻じれて歪んだ世界を内包している。
そのためこれらの遺物が関係する現象は、五行相生・相剋の流れに反転した動き方をする。
キヴォトスにおいて、これらの捻じれて歪んだ五行に対応する遺物として、以下のものが見つかっている。
木:百鬼夜行 狂い咲きの巨大桜
火:ゲヘナ ヒノム火山のアビス
土:アビドス 砂漠の砂
金:ミレニアム 廃墟の機械群
水:レッドウィンター 鎮静の雪
これらはキヴォトスで存在が確認された一例であり、全てではない。
本来の相生であれば『火』は『土』を肥えさせるものだが、反転した流れであるならば、『土』は『火』を支配下に置くことでより強化される。
作中にてホシノが純度の高い砂糖を精製するにはヒノム火山が必要と宣言したのは、この流れがあるからである。
また『土が水を堰き止める』という関係が反転しているからこそ、『水(雪)』が『土(砂)』への対抗策になりえるので、レッドウィンターの雪によって砂糖中毒の治療薬ができるのはある意味当然の流れである。
五行論には五行色体表という分類があり、身体の不調時に身体が欲する味、体調を改善するために必要な味として、それぞれの味覚に対応する五味が知られる。
その中で『土』に相当するのは『甘』であり、『水』に相当するのは『鹹(塩味)』である。
つまり『土』の属性を持つ砂が、『火』による加熱によってその力を極限まで高めて砂糖に変化するのは想定された挙動である。
逆にこの『土』を打ち消す流れとして存在する『水』には塩が対応しているため、熱を奪うことにより塩が生まれることも、捻じれて歪んだ現象としては正しいのである。
ホシノはこれら土、火、水の概念、捻じれて歪んだ五行論に気付いていた。
火により土が強化されることを知ったことで、ならば土によって強化される金を手中に収めれば土を制御できると判断して探したホシノだったが、あると想定はしても唯一見つけられなかったものがある。
それこそがアリス、名もなき神々の王女である。
砂漠の砂糖が存在する世界において、名もなき神々の王女であるAL―1Sと砂漠の砂蛇であるアポピスでは、王女の方が砂蛇よりも位が高いと明確に力関係が存在している。
『金』の属性を持つ王女と『土』の属性を持つ砂蛇では、金は土を支配し、手足として扱うことができる。
砂蛇が王女の追加兵装として製造されたコンセプトを考えれば、王女が正しく起動してアトラ・ハシースを使用していれば、砂蛇は従うしかなかっただろう。
しかし王女は長きの眠りにより兵装の制御権を失った。
アビドスとミレニアムという離れた別の自治区に封印された王女では制御することはできず、砂蛇は自分だけが残ったことで、やがて暴走を始めたのである。
これはアリスとして自我に目覚めた後も続いており、砂蛇の統括制御権を放棄しているが故に後々の事件につながる。
通常の生物とは違う砂蛇は頭が無いだけでは死亡することがなく、他者に憑り付いて依代に核を移し、一時的に頭に据えることで活動を開始した。
その依代こそが小鳥遊ホシノである。
頑強な肉体、優秀な戦闘センスを併せ持ち、砂漠でも長く活動できる。
自らを構成する砂漠と親和性の高い生存に特化した個体は、砂蛇にとって最良の対象であった。
そのホシノがポツリとこぼした願望を都合よく解釈し、叶えるためには必要だからとホシノの体に核を移すことで、キヴォトス全体を巻き込む一連の事件は開始することとなる。