捨身月兎(2)

捨身月兎(2)


戦車に鎧われた触手の出現は兎たちを瞬く間に危地へと追い込んだ。

無限軌道は動かず、機構が壊れているのか放たれる砲弾の速度は遅い。

だが触手そのものが砲弾となったそれは破壊力という点では申し分なく

可能な限り距離を取って避ける必要がある上に何より厄介なのは


「堅すぎるだろ……!!」


RABBIT2が呻くのも宜なるかな。

兎たちの愛銃であるSRT特殊学園謹製の銃火器どころか

持ち込んだ重火器にさえ悠然と耐えるその装甲は

かつて超無敵鉄甲などと無理やり命名されたのも伊達ではない事を痛感せざるを得なかった。


ましてや触手戦車に焼夷の壁を消し飛ばされたが為に

触手生物たちがじわじわと包囲を狭めてきている以上、

触手戦車の攻撃を避けようとすれば一般の触手生物たちに、

一般の触手生物に気を取られれば触手戦車の砲弾の餌食になりかねない。


無論それを手をこまねいてみている兎達ではない。

空で待機していたRABBIT3の戦闘ヘリが降下して触手戦車への攻撃を試みる。

対戦車戦のセオリーである装甲厚の薄い上からの攻撃はしかし、

触手戦車の“正面装甲に”受け止められた。

戦車の底面に蠢く触手たちが戦車の前面を無理やり持ち上げた事による力技の不条理な対処。

お返しとばかりに放たれた触手砲弾をヘリが全力で回避。

無線に響くRABBIT3の引き攣った笑いにRABBIT1が退避を促す。

地上にいる兎たちが全滅しても先生の脱出手段であるヘリを失う訳には行かないのだ。


とはいえこのまま触手戦車に対処しなければ

先生の脱出の際に狙われるのは目に見えている。

包囲が狭まる中、RABBIT1が取り出したのは2つの手榴弾。

便利屋たちと装備を分け合った際に屋内では使えないからと兎達に渡されたものだ。

それを今まで使わなかったのはその威力の高さと、

何よりこの系譜の兵器が彼女たちと彼女たちの先達にとって因縁深いものだった故の躊躇だ。


他の兎達に周囲に他の生徒が居ないかを確認する。

返答は肯定。

先程までの焼夷弾の熱に苗床が傷つくのを恐れたか、

今近くに来ているのは触手たちのみだ。

触手戦車も搭乗口が触手でみっしりと埋まっているのをRABBIT3が確認している。


それを聞いて、RABBIT1は葛藤を呑み込む。

手榴弾……アリウス謹製のサーモバリック手榴弾を使う事を味方に伝えれば、

小隊の誰もが息を呑み、しかしすぐに頷く。

空中ドローンを呼び寄せ、手榴弾をセットして射出。

更に小隊3人でのフルオート射撃で触手戦車の注意を引き付ける。

触手戦車の砲口が彼女たちを向き再度砲撃を加えようとした所で

ドローンが到達、手榴弾が投下されたその瞬間、兎たち三人が伏せる。


光、音、熱、そして衝撃。


放たれた熱が触手たちを焼き、続く爆風が触手たちを打ちのめす。

周囲の触手たちが吹き飛ばされる中、悲鳴を挙げつつもなお触手戦車は耐える。

だがそれも、遅れて放たれた自走ドローンが二つ目の手榴弾を起爆させるまでだった。


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外套ごと爆発で吹き飛ばされてきた触手を払い落として、伏せていた兎達が身を起こす。

触手戦車は半壊し、周囲の触手たちも爆発で吹き飛ばされて散り散りとなっている。

どれもこれもヘイローは消えているが、気絶しただけなのか、それとも。

今更ながらに兎たちの胸に募る後悔は、規模こそ違えどかつて止めたものを使った事か、

姿こそ違えどヘイローを持つモノにそれを向けた事にか。


暫しの沈黙は、RABBIT3の焦りの籠もった声に打ち破られた。

指示された方向の空を見れば多数のヘリがゲヘナ学園に近づいてくるのが見える。

慌ててスコープ越しに確認すれば、カイザーコーポレーションのロゴの入ったアパッチ戦闘ヘリ。

更にはRABBIT4が悲鳴とともにそれらが爆装が施されているのを報告する。

何をしようとしているのかは一目瞭然で、そしてカイザーがそれを平気でやる事も彼女らは理解している。

そしてそれが行われた場合、生徒たちはまだしも先生は……。

だが、最早手が無い。

RABBIT3のヘリとRABBIT4の狙撃だけではあの数のヘリを対処しきれない。

絶望と諦念が彼女たちの胸に渦巻いたその時、先頭を飛ぶアパッチの翼が突如爆発した。


何事かと目を凝らせば日の傾きかけた空を碧の光条……機関銃から放たれた銃弾の軌跡だ……が貫いていく。

光条はそのまま他の戦闘ヘリも薙ぎ払うように撃ち抜き、次々と地に落とす。

射撃の発生地点である風紀委員会本部の屋上をスコープで覗き込めば

そこにいるの裸身を晒しながらも果敢に銃撃を続ける少女の姿。

かつてスランピアで共闘した、風紀委員会の委員長。

触手に襲われながらも無事だった?

否、違う。おかしい。

彼女はあんな風に怒りの感情を表に出さなかったはずだ。

彼女の角や翼はあんな葉脈のようなものは無かったはずだ。

何より、機関銃の弾倉へと吸い込まれているのは弾帯ではなく彼女の髪だ。


それを確認した瞬間、RABBIT1がRABBIT3に全力で、建物等を壁にして学園外に退避するよう指示を出す。

続いてRABBIT2とRABBIT4にも全力で近くの建物まで走るよう指示を出して走り出す。

アレは、先程まで戦っていたものと同じモノだ。

ならばカイザーのヘリを落とせば次に狙われるのは……!

ヘリの音が消え、機関銃の音が消え、一瞬の静寂が訪れる。

こちらを視認できないよう地面に煙幕手榴弾を叩きつけて煙の中を走るそれは、しかし無駄に終わった。

煙幕ごと薙ぎ払う掃射はRABBIT1を、RABBIT2を、RABBIT4を、強かに打ちつけ地面へと叩き伏せる。

身につけていたガスマスクやボディアーマーは今の射撃で打ち砕かれ、

身体にへばりついた触手は速やかに彼女たちを絡め取っていく。

かろうじて無事だった無線から聞こえるRABBIT3が安否を確認する声を聞きながらも、もはや身体に力が入らない。

そのまま下着を剥ぎ取られながらも月雪ミヤコの頭に走馬灯のように駆け巡るのは

かつて先生と共に過ごしたあの日々と、仕事を果たせなかった事の悔しさ、そして……


(ごめんなさい、先生)


そうして、兎達は大切な誰かに捧げるべき純潔を無惨に食い破られた。


サラ丸よりミカの方が耐久力あるように見えるけど、まぁミカなので。

そして正義に立つ側が使うべきでないサーモバリック爆薬を使用せざるを得なかった兎に曇りポイント+1、

カイザーの戦闘ヘリ群を止める事が出来なかった事で曇りポイント+1、

先生に捧げたい処女を無惨に散らされた事で曇りポイント+1、

兎小隊、モエを除いてゲームセットです。

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