捨てる神あれば拾う神あり
エアプターデイビットがカルデアに拾われる話
⚠︎暴力、暴言、リスカ、血、キャラ崩壊(エアプター)、下手くそなエミュ
Aチームのマスター候補であるデイビットが望んだクラスはバーサーカーだった。
理由は意思の疎通を必要としないから──正確には、自分が喚んだサーヴァントに心無い言葉を吐かれるのが嫌だから。
「サーヴァント、バーサーカー。テスカトリポカ、召喚に応じ来てやったが…オマエがオレのマスターか?」
「えっ…?」
しかし召喚されたのはバーサーカーとはにわかに信じがたい、普通の人間のように話すサーヴァント。
いつもお守りとして持っていた黒曜石の鏡が触媒となったのか、目の前に召喚されたのは彼にとっての憧れの神、テスカトリポカ。神霊を呼び出すためには力が足りなかったからなのか、実体ははっきりとしていないが、強大な魔力がビリビリと肌に突き刺さるのを感じる。
「その鏡、オレの時代のものか。なるほどな、それでオレが喚ばれたわけか」
そう言うと彼はデイビットが持っていたそれをひょいっと持ち上げて、そのまま手を離す。
鏡は割れ、破片が飛び散る。デイビットは困惑した瞳でテスカトリポカを見上げる。
「な、なんで…」
「すまんすまん、でもオマエにはもう必要のないものだろう?」
テスカトリポカは飛び散った破片の一つを拾い上げると、デイビットの頰を撫ぜるように切りつけ、溢れる血を舐め取った。
「魔力は悪くないな、オレたちうまくやっていけそうじゃないか、なぁ?」
「……そう、だな」
そんな会話が少し前。今ではすっかりテスカトリポカからの暴力や快楽を受け入れるようになってしまった。
(時計塔やAチームの時とは違う、ちゃんと認識されているんだ。あの憧れのテスカトリポカ神から!)
ゆえに生傷を増やしながらもデイビットはテスカトリポカから離れる事はなかった。
しばらくして、カルデア襲撃の日が訪れる。カドックには
「お前がいると足手まといだから来なくていい、でもお前の異聞帯のやつ…なんだっけ、オセロ何たらを何人か持ってこい。戦力は足りてるから、数百人も連れてくるなよ!」
彼の意図は計り知れないが、逆らうこともできないので数十人程度のオセロトルをカルデアへ送り出した。
それから三ヶ月経ったある日、キリシュタリアによってクリプターの定期会議が開かれた。
カルデアが虚数潜航から浮かび上がり、異聞帯の攻略を始めるらしい。
「きっと最初にカルデアの連中がいくのは南米異聞帯だ、そうなるように俺はお前の異聞帯のやつらを利用したからな。しっかりやれよ、」
あの時派遣しろと言われたオセロトルはそのためか、とデイビットは納得する。カルデアは襲撃してきた敵を楔として浮かび上がるはずだ、ロシア異聞帯の殺戮猟兵とオセロトル、カルデアが選ぶのは明らかに御しやすそうなオセロトルだろう。
みんなにとっての面倒事は自分に押し付けられる。彼にとってそれは幼い頃からの当たり前だった。
「……善処する」
そしてデイビットは、そのことが異常だと思っていないのだ。
そして、カルデアがやってきた。
「デイビット・ゼム・ヴォイド…!」
カルデアのマスターが立ちはだかる。
「君とオレとの間には話し合うようなことはない、そうだろう?」
多くの職員を失ったあのカルデアで人理焼却を回避してみせた彼。比べたら自分が劣っている事は自明の理だと、俯いてその場を去ろうとしたその時、感じ慣れた魔力の気配がした。
「こんなところで油売ってたのか、デイビット」
「あ、テスカ…」
「テスカ…?もしかしてテスカトリポカ神のことでしょうか…」
[多分そうだろうね、クラスは彼の要望が通っているならばバーサーカーかな]
「オマエがカルデアのマスターか。“オレ”のデイビットが迷惑かけたな」
強く肩を抱き寄せられる。人間の体を手にしても尚消えない嗅ぎ慣れた煙の匂いにデイビットは泣きそうになったが、今は敵対するカルデアの前。みっともない姿は晒せないと目を強く瞑って耐える。
「わざわざ俺に何の用だ」
「なんだなんだ、カルデアの可愛い後輩の前だからカッコつけたいのか?言わなくたってわかるだろ、いつものことだ」
召喚されてから幾度となく繰り返されてきた預金の使い込み。以前一度だけやめてくれと言ったら片目が見えなくなるほど殴られてしまったのでもうどうしようも無いものだと諦めている──が、これ以上は計画に響いてしまう。笑顔で応援してくれたベリルやオフェリアのためにも、失敗する事は許されないのだから。
「て、テスカ、流石にこれ以上の散財は、困る」
乾いた銃声が響く。銃弾は見事にデイビットの足を突き刺した。
「召喚者如きがオレの行動を制限するなんて、なぁ?」
「すまない…わかった、わかったから、ゆるして…ひっ」
無慈悲にも放たれた二発目もデイビットの足を掠めた。
「デイビットさん!?」
「すまんすまん、威嚇のつもりが外しちまった。おい、立てよデイビット、そんな辛そうに蹲られたらオレが悪いことになっちまう」
血が流れる足を掴みしゃがみ込んだデイビットの首根っこを掴みゆらゆらと揺らす。
(ああ、悪いのは俺。神に意見した自分が悪いんだ…)
瞳を潤ませながらふらふらと立ち上がる。
「そうだ、それでいい。じゃあな、カルデア。どうせお互い殺し合う定めだ、また会えるだろう?」
「……っ」
カルデアは誰も何も言わない。
(クリプターとして裏切った俺には、妥当な扱いだな──)
自嘲するような笑みを浮かべながらデイビットは去っていった。
残されたカルデアは酷く困惑していた。
「デイビットさん、大丈夫でしょうか」
「…すごく、辛そうだった」
不安げにつぶやくマシュや藤丸。
「うーん、あれDVだよねぇ…」
「ははっ、事実は小説より奇なりとは言うけれどここまで爛れた関係だったとはね」
想定外という顔をするダヴィンチちゃんとホームズ。
「助けに行った方がいいのかな」
相も変わらず藤丸は酷くお人よしだった。
「流石に考えが甘すぎるんじゃないのかね君ィ、あいつらはカルデアの敵だぞ!…もちろん私が言えたことではないが…それにあのクリプター、デイビット・ゼム・ヴォイドは時計塔伝承科の追放者、連れているサーヴァントもアステカ神話の神、テスカトリポカだ!お人よしも大概にすべきだと思わんのかね?」
魔術師視点の真っ当な意見を述べる新所長。それでも藤丸の意志は揺らがなかった。
「クリプターになったのも何か理由があるかもしれないし、あんなに辛そうな人、見殺しになんてできない!」
新所長を除いた全員はそれでこそ藤丸だと満足げに笑った。
「デイビットさん!いますか?」
メヒコシティの建物の一つ、街の喧騒から離れた少し豪華な家にデイビットはいた。
またテスカトリポカに暴力を振るわれたのか、血で汚れたベッドにぐったりと横たわっている。
視界はぼやけ、意識が朦朧とする中、彼は声の主に問うた。
「その声は…マシュか?」
「はい、私たちはあなたを保護しにきました」
カルデアにいた頃は人形のような少女だったマシュがデイビットの目の間に立っている。
その目には『絶対にデイビットさんを助ける』という意志があった。
「マシュ!できるだけ早く!」
外で待機する藤丸の急ぐ声が響く。
「はい、わかりました!デイビットさん、少し手荒にしますがすみません!」
彼女はそう断るとひょいっとデイビットを抱え上げ、駆け出した。
「なんで、マシュ…」
「詳しい話はシャドウボーダーで!」
体力が限界だったのか、そこでデイビットは意識を手放した。
「うわぁ!本当に無事に帰ってくるとは、さすがだね!」
「とても傷だらけだ…これもあのサーヴァントがやったのだろうね」
「…ん?」
ざわざわと騒がしかったせいか、マシュに抱えられたままのデイビットが目を覚ました。
「うぁ…っ!寝ててごめんなさい、何も準備してなくてごめんなさい…だから、ゆるして…」
そう泣きながらマシュの腕から逃げようとするデイビットにカルデアの人々は驚愕した。
あの伝承科を追放された異端の魔術師がこんなに弱々しいものなんて!
「落ち着いてください、デイビットさん!おはようございます。大丈夫ですか?」
「ごめんなさ…あれ、ま、しゅ?ここは…」
「やあ、君がデイビット・ゼム・ヴォイドくんかい?はじめまして。ここはカルデアの活動拠点、ストーム・ボーダーさ。私は技術顧問のレオナルド・ダヴィンチ、気軽にダヴィンチちゃんって呼んでね!」
「カルデアがなんで、俺を…カルデアを襲撃したのは、俺たちクリプターなのに…」
「それはこの彼、藤丸くんが君を助けたいって言ったからだよ」
ダヴィンチちゃんが誇らしげに藤丸の肩を叩くと、藤丸は恥ずかしそうに頭を掻きながら言った。
「だって、辛そうだったから…」
「え…?」
「はぁ…第一の異聞帯攻略からこんな爛れた関係を見せつけられるこっちの身にもなりなさいよ君ィ。ほら、私特製のホットミルクを飲んで落ち着きたまえ」
「…ご、ごめんなさ」
目を潤ませ、また謝るデイビットにマシュは慌ててフォローを入れる。
「デ、デイビットさん!所長は怒ってないですよ、ちょっと口が悪いだけです!ここにいる皆さんは全員あなたの味方です、大丈夫ですから…謝らないでください…」
「ありがとう、マシュ…立派に、なったな。藤丸も世界を救ったなんて、本当にすごい。俺とは…大違いだ」
湯気を立てるホットミルクをちまちまと飲みながら、傷だらけのデイビットは微笑んだ。
デイビットが保護されてから数日、彼にクリプターについて尋ねることとなり、マシュと藤丸は彼の部屋へと向かった。
「デイビット、入るよ」
部屋の中には、黒曜石の破片を握ったまま床にへたり込むデイビットがいた。
「寝ているのでしょうか…ひっ!」
デイビットに近づいたマシュが悲鳴を上げる。
それもそうだろう、ズタズタに切り裂かれた腕から滴る血が白い床を汚していたのだから。
「デイビット!?なんで、しっかりして…!」
二人に何度も声をかけられて、デイビットはゆっくりと目を開けた。
「あ、マシュ、藤丸…この腕は、その。ご、ごめんなさい…今俺は、捕虜で、カルデアにとって重要な存在で…だからこういうことは良くない、よな…敵なのに、優しくされて、それで、不安になって、必要と、されてないのかなって…ごめんなさい…片付けも、するから!だからっ、殴らないで…ゆるしてくれ…」
「…っ!殴るわけないじゃないですか!救護室へ運びます、デイビットさん、少し失礼します!」
二人は急いでデイビットを救護室へ運び、手当てをした。
「沁みて痛いだろうけど、大丈夫?」
「大丈夫だ、すまない、藤丸…」
救護室の扉が静かに開かれ、ホームズとダヴィンチちゃんが部屋に入る。
「デイビットがここにいるって…あっ、いたいた!うわぁ、痛そう…大丈夫かい、デイビット?」
「ダヴィンチちゃん、俺は大丈夫だ」
「そんなズタボロの腕で何が大丈夫さ!マシュ、包帯はどこだっけ?」
「確かこのあたりに…」
マシュとダヴィンチちゃんが慌てて救急箱を漁る中、ホームズはデイビットを見つめていた。
「こんな時に申し訳ないが、君に頼みたいことがあるんだ。Mr.デイビット」
「こんな俺でいいのなら…」
「君にしか頼めないことだ。何せ、クリプターについてのことだからね」
ホームズは笑顔でそう言うと、救護室の机を動かし一対一で話せるようにした。
「うーん、本当はもっとゆっくりと話したいんだけど、なにせ私たちには時間がないんだ。傷だらけの人を質問攻めにするのは心が痛むんだけど…ごめんね」
デイビットの手首に包帯を巻きながらダヴィンチちゃんが呟く。
「大丈夫だ、これくらい慣れているし…こうなったのは俺のせいだ。なんでも聞いてくれ」
「では、お言葉に甘えて──」
カルデアはたくさんのことを聞いた。デイビットはそれに時折涙を流しながら答えた。
昔からデイビットは気味悪がられて嫌われたり、暴力を振るわれることが多かったこと。
クリプターは魔術に優れた人が多く、オフェリアとベリルを除いてデイビットを日頃からいじめるような言動が多い、苛烈な性格をしていること。
バーサーカー、テスカトリポカはデイビットをはじめて認めてくれた人で、悪い人ではないということ。
彼の口から綴られる過去はどれもおぞましく、どうしてこんな境遇でも生きて行けたのかわからないほどだった。
「…ありがとう、Mr.デイビット。君が教えてくれた情報はとても有意義なものだった」
「こんな俺が役に立てたのなら、なによりだ」
デイビットは包帯だらけの腕を握りしめ、わずかに微笑んだ。
次の日の朝、デイビットは忽然と姿を消していた。
メヒコシティを探し回っても、ついぞカルデアが彼を見つけることはできなかった。
この後デイビットはテスカのところに帰ってくるんだけど、テスカに「カルデアは楽しかったか?」って聞かれて泣いちゃうぞ!テスカは帰ってくることを知ってるからデイビットをカルデアから奪おうとはしないんだ
そして怒ったテスカにもう二度と逃げられないように足バッキバキに折られて枷に繋がれるよ〜かわいい〜〜
痛いけどもうデイビットは痛みで支配されないと満足できないもんね…