挙式当日

挙式当日

詳しい時空は考えてません。幸せになって……


「キャプデ……花婿衣装カッゴイイ……ひっぐ…ほんとによが…っ…」

「なぁ、肉まだか!?」

「妾もその内ルフィと……♡」

「アッ、ミホちゃんもう酒飲んでる!?」

「テメェが結婚たぁ、世も末だなァおい」

「ファッファッファッ」

「御祝儀って全部で幾ら貰ったのかしら」

先に言っておくが、本日の主役である花嫁は未だ入場すらしていない。そんな中、もう既に幾人か泣き出しているウチのクルー共はまぁ……許そう。迷惑掛けたからな。だが、それ以外の奴らは駄目だ。既に酔っ払いの馬鹿共に、上品さの欠片もなく競い合って食事を詰め込み始める麦わら屋とユースタス屋。それ以外の輩も伊達に海賊を名乗っちゃ居ない。当然の様に新郎に対しても野次に揶揄いに冷やかしが飛び、ともすれば客同士で喧嘩どころか殺し合いすら始まり出す始末。そんな外野が非常に騒がしい華やかな会場で、眉間に皺を寄せ晴れ舞台には全くもって相応しくない溜息を吐く男が一人。

(……どうしてこうなった)

其れが、バージンロードの先で花嫁の入場を待つ新郎であり、ハートの海賊団船長『死の外科医』トラファルガー・D・ワーテル・ローの現在の正直な思いであった。

そう、当初の予定ではもっとささやかな挙式だった筈だ。それこそ参加者なんか、己と彼女含めたハートの海賊団のクルー達と花嫁の養父たる海軍大目付役の計23名だけの予定だった。

何故こんな事に成ったのか。まず、ハートの海賊団に専属コックという役職持ちは居ない。料理に関しては当番制なのだ。故に皆ある程度の料理の腕はあれど、麦わら一味の黒足屋の様な一流の腕を持つ者は流石に居ない。だから『折角のキャプテンとその愛しい人の挙式を少しでも良いモノにしたい』との思いで、ベポが挙式で振る舞う料理について黒足屋に相談したのだ。尚、後にベポはこの事をベショベショに泣きながらコラさんに謝る事になるのだが、それ自体は決して悪手では無かった。ただ一つ問題があったとすれば、ベポが相談をしたその場には麦わら屋が居たという点だろう。それが全ての原因である。せめて彼等が、麦わら屋の『宴か?』という問い掛けを否定すればまた結果は変わったかも……いや、そんな訳が無いか。

ともかく、この時点でDの一族と元天竜人のささやかな挙式という幻想はぶち壊されることが確定した。『ルフィが行くなら妾も』とは某蛇姫の台詞だが、だいたい全員そんな感じのノリだった。可笑しいだろ。まぁそんな訳で、気付けば海賊も海軍も革命軍も関係無く百等優に超える人数が参加を表明していた。予定ではポーラータング号の甲板で挙式を行う手筈だったが、百以上の人数が乗る訳が無い。だが、参加表明を貰った以上はどうにか捌き切らねばなるまい。ハートの海賊団のクルー達は急遽場所と人手を借り、想定の数百倍にもなった予算を他の海賊から奪って捻り出し、改めて何ヶ月も準備し直して、ようやっとの事で今日の晴れ舞台に望んでいた。そら感動だってさもありなん。

良い加減始めるぞ、なんて本当に挙式か?とツッコミ気質持ちからツッコミが入りそうな程の雑な開始宣言を新郎がした事で、ようやく新郎新婦が神の天敵と神の末裔という歴史を揺るがす其の結婚式は始まりを告げた。


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地に墜ちた天竜人、元海軍中佐にして究極のドジっ子属性持ち。そんなあたしの身体は当然の如く傷跡だらけであった。それは決して恥ずべき事じゃないし、恥ずかしいと思った事も無い。寧ろ誇らしいくらいだ。ローだって、あたしの身体なら傷跡すらも愛おしいのだと言ってくれたし、この身体の傷跡全てにキスを贈ってくれた事だってある。

だけど、一度は血筋によって諦めた幼い頃の夢物語。一生に一度の花嫁姿。出来ることならば、あの日夢見た綺麗な花嫁になりたい。恥じた事は無いけれど、挙式の時くらいは身体の傷跡を晒したくない。そんなあたしのささやかな願いを叶えてくれたのは、童話に登場する魔女では無くてハートの海賊団クルー。心優しいあたしの先輩達であった。

首筋から手首まで違和感無く傷跡を隠すレースと、39歳という年嵩を美しく魅せるマーメイド型ドレスという二つの暖かな工夫が施された純白のウエディングドレスに身を包み、養父であるセンゴクさんにエスコートされてバージンロードに足を踏み入れる。

「……ふふ」

嗚呼全く、ローの知り合い達は本当に騒がしくて。いっそ酷く愛おしい。思わず微笑んだ花嫁に対し、今この時ばかりは嘘偽り無く世界で一番美しいと息を飲んだのは誰だったか。まぁそのうちの一人は間違いなく、13年間も初恋を拗らせようやっと高嶺の花嫁を手に入れた新郎なのだが。



ごめんなさい、続きません……

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