持ち主のイメージで変化する黒いスライムの持ち主が、日々のストレス解消のために、スライムの中に入って巨大な怪物になって暴れ回る話。

持ち主のイメージで変化する黒いスライムの持ち主が、日々のストレス解消のために、スライムの中に入って巨大な怪物になって暴れ回る話。

2023/05/06

「はぁ……」

スーツを着た男が、一戸建ての家に帰ってきた。その顔はくたびれていて、とても疲れた様相を見せていた。

「全く……課長ときたら……」

カバンをその辺に放り投げ、着替えもせずに畳の上に寝っ転がる。そして思い出すのは、くだらないストレスを抱える日々。

(全く、お前は何を考えているんだ!? 俺がその日まで仕上げておけと言えば、その日まで仕上げるの当然だろう! 何、その期日では他の仕事もあって無理? つべこべ言わずにやれ! 命令だ!)

あるときは仕事場での上司の無茶ぶり。

(あの人ってさあ、キモいよね~)

(そうそう、なんかこっちのこと性的な目で見てそうよね~)

(ヘンタイ! クソ野郎って感じ~)

あるときは町行く女子高生達の罵詈雑言。

(ああ君か、また会ったね。君はまだ独身なのかい? まあ、僕の方は美人の妻と子ども達のために一生懸命やらなくちゃならないからねえ……ま、君みたいな低レベルの人間と結婚したいような人間がいるさ、多分ね)

あるときは自称友人の自慢話と貶し。

他にも様々なストレスが頭の中を駆け巡り、今まで人前で我慢してしていた分が爆発しそうになる。

「あーっ! ムカムカする!」

男は多大なストレスを抱えていた。このストレスを解消する術は、男にとって一つだった。

「"アレ"を……使うか」

男は、家の奥へと入っていく。そして、一番奥の部屋にあったエレベーターに乗って地下へと降りていく。

大分地下へと降りて行き、扉が開いた。何もない白一色の部屋中心に、巨大なガラスケースがある。その中には、男なんかよりも大きな光沢を持つ不透過の黒いドロドロ、いわゆる『スライム』というものだった。

ガラスケース越しに、男はスライムに話しかける。

「お前も、俺を求めていたのか? だよなー、俺もお前と一緒になりたくて来たんだぞ」

男の言葉にびぐっ、びぐっと反応するスライム。男はガラスケースの前にある通信機を手に取り、どこかに連絡する。

「あー、もしもし? 最近怪獣出てないよな? 最近イライラして、コイツもやりたがってる。いいよな? どうぞ」

「了解、B地区で暴れることを許可する。好きなだけ暴れてこい。以上」

通信は切られた。それを聞いて、男はにいっと邪悪な笑みを浮かべる。

「だってさ。思い切り暴れてやろうじゃないか」

男は服を全て脱ぎ捨て全裸になると、ガラスケースの扉を開けて中に入る。すると、スライムは大口を開けて男を飲み込み、咀嚼するようにぐちゃんっ、ぐちゃんっと動く。中の男はこの感触を感じていた。

(ああ……この感覚。俺は今から全てをぶち壊す。このスライムの力で、俺をムカつかせる何もかもを……!)

スライムの動きが止まると、スライムの中からずぼっと音を立てて男が顔を出す。

「さあ、行くぞ……!」

飛び出ている男の顔がスライムを引っ張るように動き、穴の中へと入っていく。そして、穴の中をどんどん進んでいき、終着点である広い部屋にたどり着く。

「今回の怪獣は、ゴラーガだ!」

男がスライムの中に顔を埋め、スライムがぐにゃぐにゃと動くと、翼を持つオオトカゲのような怪獣となり、巨大化していく。そして天井を突き破り、ギィエエエエッと叫び声を上げる!

「うわあああっ! 怪獣だー!」

「助けてくれー!」

人々が怪獣の出現に慌てふためき、恐怖を感じる。そして、手や尻尾を振るえばビルや建物が壊れる。この光景を、男は怪獣の中から顔を出して見る。

(すっげぇなあ……俺が手を振るえばビルは壊れ、人々は悲鳴や泣きべそかいて逃げ回る……こんな気持ちいいことが他にあるかよ……!)

よがる男。そして、空の向こうから戦闘機などがやってくる。

(おっと……そろそろ怪獣討伐隊の出番ですか。ストレスも大分解消されたし、もうそろそろ潮時か)

男は怪獣の中にまた顔を埋める。

戦闘機から出される機銃が怪獣に直撃する、それを抵抗するように怪獣は手や翼などを振り回すも、戦闘機は余裕で躱し、機銃を掃射される。そしてとどめにミサイルを四方八方から撃たれ、ミサイルが爆発し怪獣は木っ端微塵になった。その破片の一部が飛んでいき、べしゃっとその辺の地面に落ちた。その中から、裸の男が出てくる。

「ハァ……相変わらず、俺を殺す気かっつーの!」

男が指をパチンと鳴らすと、破片は男の元に一斉に集まって一つになり、近くの穴から地下へと潜っていった。


ここは男の家にある地下室。穴から男の顔が出ているスライムがガラスケースの中に入ってきた。ガラスケースの外には、黒服の男がいた。スライムの中から男が出てきて、ガラスケースの外に出ると、黒服は男に話しかける。

「ありがとう、怪獣として暴れてくれて」

「どうも、黒服さん。そっちも大変だねえ、怪獣対抗組織を維持するのに大変だねえ」

この国は以前、怪獣達の攻撃を受けた。それに対抗する組織を作り、なんとか怪獣を全て倒して守り抜いた。だが、その組織に莫大な金を使ったのと、その組織がまだ存続すれば国家の金食い虫となるため、どうしようかと悩んでいた時、以前スライムに取り込まれて怪獣になった男が、逆にスライムを操っていることが発覚し、男に怪獣になってもらって暴れてもらうことで、組織が必要であることを世間にアピールすることが目的であった。同時に男もストレスを解消できる。お互いにWin-Winの関係だった。

「それじゃあな、ばれないようにまた上手くやれよ」

「そっちこそ」

黒服は去って行った。男は服を着直して、ご飯を食べて就寝した。


翌日。男は自身が壊した場所を見た。自然と心の底から愉快な気持ちが湧き上がって、フンと笑った。

「さて、一週間頑張るか」

男は会社へと向かっていった。

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