拓海とララ 短編まとめ

拓海とララ 短編まとめ



【①子供】


「たくみ」

「うん?」


缶ジュースを飲んでいたらくいくいっと裾を摘ままれた。

行儀は悪いが缶を口にくわえたまま振り返ると、ララが神妙な面持ちで立っていた。


「どうした?」

「たくみは子供は何人欲しいルン」


ブホォ、と盛大に口に含んでいたジュースが噴出した。


「おっ…な…! 急になんだよ!?」

「ちょっと…気になっただけルン。それで、どれくらい欲しいとかあるルン!」

「そっ、そんなの考えたことねえって……。オレまだ中学生だぞ……」


この年齢でそんなことを考えている奴なんてまずいない。結婚だってまだ視野にすら入らないというのに。


「じゃあ今パッと浮かんだ数でいいルン!」

「えぇ……」


そう言われても……。なんて思って手にしている缶ジュースに目が留まった。

缶ジュースにはいろんな表記が書かれていて、その中には数字も含まれている。なんとなくそこから視界に入った数字を思わず口に出してしまう。


「ご…5人…とか?」

「5人!?」


ララの驚愕の声に自分で言って自分でも驚く。なんてことを口走ってしまったんだ。


「あ、いやっ、ちがっ! 今のは違う! たまたま缶の数字が目についただけで……!」

「5人……5人って、ひかる、わたし、まどか、えれな、ユニとプリキュア全員揃う数ルン……」

「おい、聞いてるか……? 今のは……」

「がっ、がんばるルン!」


何を。と、ツッコミそうになったけど、まだ喉につっかえていたジュースに咽てできなかった。

微妙に気まずい空気が2人の間に流れて悶々としてしまう。






それを遠くで見ていた、あげは・アスミ・ゆかりは、


「青春してるねぇ」

「命を育むのは素敵なことです」

「うふふふ」

「ゆかりちゃん?」

「うふふふふふふ」

「どうしたのでしょうか?」

「う~ん…たぶん、ときめいてるのかなぁ?」






【②おにぎり】


「ん~! ひかるのおにぎりは本当においしいルン!(ぱくぱくもぐもぐ)」

「えへへ~! いっぱい持ってきたから、いっぱい食べてね」

「ルン!」





「で、おにぎりが好きだとは聞いて用意したけど……」

「…………(もぐもぐ)」


明らかに勢いが違う。ひかるの時は両手に一個ずつだったのに対して今は両手で一つのおにぎりを持ち、ハムスターのようにちびちびと食べている。


「う~ん、やっぱり星奈のおにぎりの方がよかったか?」


ララ達がおいしーなタウンに遊びにくるということで、ゆいや他の皆の提案からおにぎりを用意しておもてなしをすることになったのだが、どうも様子がおかしい。

やっぱり親しい相手の作ったものだから好物なのだろうか。それならそれで別に問題はない。でも、作った側としては食の進みが悪いところを見ると気にはなってしまう。


「ち、ちがうルン! ちゃんとたくみのもおいしいルン」


ララは慌てたように首を振った。だが、やっぱりおにぎりの食べるスピードは遅い。なんだったらいつもの食事と比較しても明らかに遅かった。


「そうは言うけど……食欲なかったら無理しなくてもいいんだぞ? 顔もなんだか赤いし、もしかして体調悪いんじゃ……」


拓海をじーっと見つめているララの表情が妙にボーっとしてて熱っぽい。ような気がする。


「普通に元気ルン。食欲だってちゃんとあるルン。ただ……」

「ただ?」

「ひかるのおにぎりはいくらでも食べれるけど、たくみのおにぎりは不思議と一個でお腹いっぱいになるルン」

「えー……なんでだ?」

「わからないルン」


ぱくぱく食べながら小首をかしげるララに拓海も首をかしげる。


「うーん……」

「うーん……」


2人して悩む。

もぐもぐと、その間もララは拓海を見ながらおにぎりを食べていた。

そんな2人を横から見ていたひかるは、


「キラやば~」


いろんな気持ちを込めてそう言った。




【③におい】



「この星では『におい』でその人との相性がわかるって聞いたルン」

「あーあるねそういうの。遺伝子レベルで相性がいいとかなんとか」

「わたしでもそうなのか試したいルン」

「いいね。やってみよう!」


実験のために用意したのはみんながよく使ってるハンカチ。

呼ばれたのはひかるをはじめ、あげは・ゆかり・アスミだった。



ひかるのにおい

「大好きなにおいルン!」

「えへへ~照れちゃうなぁ」


あげはのにおい

「なんだか元気がでるルン!」

「いいね! アゲてこう!」


ゆかりのにおい

「甘いにおいがするルン……!」

「ふふっ」


アスミのにおい

「なんだか落ち着くルン~」

「ありがとうございます。私もララのにおいは好きですよ」



一通り終えて。


「じゃあ次はこれを嗅いでみて」

「ルン?」


ゆかりに差し出されたのこれまでの女性物ではなく男性が使っていそうなデザインのハンカチ。


「だれのルン?」

「いいから」

「?」


促されてとりあえず嗅いでみる。

吸って。吸って。また深く吸い込む。他よりもちょっと長い。


「ララ?」

「どうかしら?」


首をかしげて様子を伺うひかると何やら含みのある笑みを浮かべるゆかり。

ララはいつのまにか耳まで真っ赤にして、ハンカチを口元に着けたまま、そっぽを向きながら、


「な、なんだかわからないけど……ドキドキ……する…ルン」

(((あぁ、そのハンカチって……)))


察した3人はハンカチの持ち主を思い浮かべる。

ただ1人ララだけはよくわかっていない様子で、だけどハンカチを手放せなくて目をグルグルとさせながらにおいを嗅いでいた。

仕掛け人であるゆかりは満足気に拍手をしていた。




【④意味は大好き】



それはある日。


「あ! ひかるちゃんたちだ! おーい!」

「あっ、ゆいちゃん!」


とある街中でゆい達一行とひかる達一行がばったり出会ったときのこと。

久しぶりの再会に盛り上がる女子達を少しだけ距離を取って見守っていた拓海のもとへ、とっとっとっ、とララが近寄ってきた。


「ルルルルン」

「うん?」


地球の言語ではない。恐らくララの星の言葉。

いきなりのことに拓海は一瞬脳の処理が止まる。その間にララはすぐに盛り上がるひかるたちの元へと戻っていってしまった。


「…………え?」


あまりにも突然だった出来事に、拓海は何も反応できなかった。




そしてまたある日。


「う~ん……」

「さあ、どっちにするのですか?」

「悩みどころですね…」

「……ただのババ抜きなんだからそこまで真剣にならなくてもいいんじゃねえか。もう10分ぐらい悩んでるぞ」


多くのプリキュアやプリキュア関係者の集まりで拓海が子供達の遊び相手になっていたときのこと。

カーペットの上で小さな子たちと円を描くように座りながらトランプと睨めっこをしていたら、食事を運ぶ手伝いをしていたララがペタンと隣に座ってきた。


「うん? 羽衣も一緒にトランプやるか?」

「…………」

「? どうかしたか?」

「ルルルルン」

「え?」


またもララの星の言葉。意味も理解できず、状況を飲み込めきれず、瞬きを数回繰り返してるうちにララはそそくさと帰っていく。


「……え?」

「なんだったんでしょうか、今のは」


隣にいたツバサも疑問符を浮かべる。


「今のって……」

「あの感じはまさしく……」

「そういうこと……」


一緒にいたちびっ子たちの方がまだいろいろと察していた。





そして今度は戦いを終えた一時に。


「助けに来てくれてありがとうみんな! 助かっちゃった!」

「困ったときはお互い様だよ!」


プリキュア同士の助け合いに拓海もブラックペッパーとして助力し、一足先に撤退しようとした時だった。

ぎゅっ、とマントを掴まれた感覚に振り返る。


「ミルキー?」


掴んでいた相手はキュアミルキー。少しだけもじもじとして、上目遣いでこちらを見ていた。


「ルルルルン」

「……なあ。そろそろなんて言ってるか教えてくれ。それ、おまえのところの言葉だろ? オレにはなんて言ってるかわからねえって…」


さすがに何回も言われれば気になってくる。ララの人柄的に悪口とかを言っているわけではないだろうけど、いきなりやってきて意味の伝わらない言葉を言うだけで去っていくのは少しばかり印象が悪い。

邪険にするとはまではいかなくともそろそろ気分がいいものではなくなってる。ここらへんではっきりとしておきたい。


「…………」


けれど、ミルキーの反応はどこかぎこちない。

言いかけて、とまって、恥ずかしそうに俯いたと思ったら決心したようにまた見上げてきて、また途中で視線が明後日の方向に向かってしまう。

どうしたいのかわからず、どうしたらいいのかと拓海も途方に暮れていたら、ちょうど近くで見ていたキュアマカロンが意味深に笑いながら言った。


「言葉の意味が気になるんだったらその子のロケットにでも聞いてみたらどうかしら?」

「マカロン!?」


マカロンの言葉にミルキーが驚きに震えた。


「ロケット? あーあのAIってのに」

「だだだだだだだ、ダメルン! 絶対に聞いちゃダメルン!」

「わっ!? 急にマントを引っ張るな!」

「聞いちゃダメったらダメルン! 絶対ルン!」

「わかった! わかったからマントを引っ張るな! 破けるからやめろって!」

「うふふふ」

「マカロン。楽しそうだね…」


2人のやりとりにときめきを感じるマカロンにショコラは困ったように笑うしかなかった。




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