押してダメなら
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告白は男のコからさせるが吉、なんて雑誌の占いを信じたわけではないけれど。連絡先を聞いたのは私。メッセージを送るのも私から。デートに誘ったのも私。となれば相手の気持ちを知りたいのは人情というものでしょう。
「私に言うことがあるでしょう?」
別れ際、混雑した駅のコンコース。行き交う人々が私たちをちらりと見る。いつものこと。歳上の彼は難しい顔で逡巡して、意を決したように口を開く。
「今日はありがとう」
順調ね。続く言葉も期待できるわ。
「こうして会うのはやめにしよう」
どうしてそうなるのよ。
「どうしてそうなるのよ」
思ったことがそのまま口に出ていた。そこは告白か、せめて次のデートに誘うところじゃないかしら。
「君と俺とでは何もかもが違う。もの珍しさで近づいたところですぐに飽きるのがオチさ」
「私の気持ちを勝手に決めないで」
頭にカッと血が昇る。昂る感情のままに声が響く。
「なら今日はつまらなかった? 迷惑だったかしら」
「抑えて。周りの人が見てる」
「いつだって見られてるわよ」
生まれた時からずっと注目の的なのだから今さら十人や百人に見られたところで変わりはしないわ。
「頼むよ」
「……わかったわ。ごめんなさい」
この人は自分とは違う。レース以外で注目されることには慣れていない、シャイな人だ。怖がらせたいわけではないのよ。
「答えを聞かせて。私のことは──嫌い?」
「君はとても魅力的だし、今日は楽しかった。俺が……俺は立て直さなくちゃいけないのに。こんなことをしていないで」
「それはトレーナーさんのご指示?」
「トレーナー……は、息抜きしてこいって。上手い断り方を聞こうとしたら逆に送り出されちまって」
「あら。話がわかるじゃない」
トレーニングに支障はない、彼も楽しんでいる。つまり時たまデートする分には何も問題はないということね。
「今日はこれで勘弁してあげる」
なんだか細かいことを気にしていたようだったけれど万難を排してでも付き合いたいくらいに惚れされてしまえばいいのだ。押してダメなら更に押せ、と母さんも言っていた。
「また誘うわ」
トレーナーを口実にすれば私は諦めたかもしれないのに。嘘が吐けないところも素敵ね。なんて簡単に上機嫌になって私は改札のゲートを抜けた。