手記 二 

手記 二 


「私の任務は神の騎士団の戦争犯罪の究明で、例えば生存者の保護、容態が安定し次第行う事情聴取、収容所の実地調査、収容所職員の捕縛等を行っていました。当然、筆舌を絶する程の光景を散々目撃する事になりました。生存者の境遇に過度に共感してしまえば私の心が持ちません。」


「とは言え、私も弱者を守り助ける海兵の端くれです。自分が心身共に打ちのめされるとわかっていても傷付いた者に対して無関心で居続ける事は出来ませんでした。例えその人がどんな人であっても。無関心や諦観があのような惨事を招いたのです。私にはドラゴン氏のような高尚な事は出来ませんが、出来る限り他者に目を向けて関心を持つ事が私や他の人達にも出来る事なのでは無いでしょうか。」


「私は保護した生存者の看護をする事になりました。申し訳ない事に訳あって手錠を外す事が出来ませんでしたが、治療の甲斐あって腐り落ちそうな惨状だった腕も膿が止まり腫れも引き始め見るに耐える姿になりました。戦争で医師も大勢死に、薬品や器具も不足した状態でしたが幸いドルトン王のご厚意によって生存者の保護、治療、看護が万全の態勢で行えました。」


「服も清潔な物に替えて、毎日着替えられるようにと予備を置いておきました。背中の奴隷の証を露出させる囚人服をずっと着せられていた為か、服で背中が隠れる事を認識した瞬間何処か安心したような表情をしたように見えました。すっかり廃人同然の有り様でしたがそんな情緒がその人に残っているのでしょうか?私の気のせいなのかも知れません。それとも、安心出来る環境に置かれた事で少しずつ心が治りつつあるのでしょうか?」


「暫く経ったある日、同僚達が殺風景な病室にも彩りがあった方が良いだろうと私達の野営の近くから綺麗な花を持って来ました。ふと思い返すと戦争が始まる前は私の任地も美しい花が咲き誇る美しい土地でした。今はもう無い美しい風景を思い出すと心に暖かい物と寂しさが満ちていき、傷が癒されるように感じられました。」


「ふと生存者の方を見ると、静かに涙を流していました。花を見て何か思う事があったのでしょうか?私と同じ様に香燐な花を見て暖かな思い出を思い出したのでしょうか。あるいはとても辛い地獄のような体験とトラウマに苛まれているのでしょうか。何かうわ言のように繰り返していました。とても大切な人に呼び掛けるように。あるいはどうする事も出来ない痛みに苦しみ、もういない誰かに助けを求めるように。」


「あの戦争で自然も、人間も酷く傷ついてしまいました。そして、誰もが平等にその痛みから立ち直ろうとしているのです。一方ではもう二度と立ち上がる事が出来ない程壊れてしまった物もあります。私達はどうする事も出来ない痛みや苦しみを少しずつ癒しながら生きていくしかないのでしょう。どうか私にも、他の人達にも痛みや悲しみを乗り越えた明るい未来がありますように。」

神の騎士団の残虐行為及び強制収容所の調査にあったある海兵の手記より








野営付近に咲いていた花達


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