手袋の下の秘密
純粋な2人のつもりで書きましたが、人によってはCPっぽく見えるかもしれません
「くっ……アオイになら勝てると思ったんやけど……」
「うわ~っ、さすがにペパーには勝てないか……」
「へへん、これならオレが最強ちゃんだな」
「なに!?バトル!?」
食堂の片隅でひそひそと交わされる友人同士の会話。「勝ち」という言葉を含んだそれに引き寄せられたネモもやって来れば、いつもの4人組の完成だ。
「相変わらずネモいな……」
思わず笑いが漏れるボタンとペパーをよそに、アオイが事情を説明する。
「あのね、手の大きさ比べっこしてたの!ネモも手、貸して!」
ぺたりと手のひらを合わせて、指先の位置を比べる。アオイよりもずっと長身なネモは当然手も大きくて、関節一つ分の差が開いていた。
「う~ん、負けた!あーあ、もっと大きくならないかなあ」
「身長ならモーモーミルクっていうけど、手は知らないなあ」
のんきな会話を、スマホロトムの着信音が遮った。
「あっ、オモダカさんからだ」
一度ジムリーダーたちの査察を引き受けたことを景気に、調査を頼まれることが増えていた。
時間が空いたので、多忙でなければその報告をリーグで直接聞きたい。
丁寧な文体で書かれたメッセージはそんな内容で、現在進行形で暇人にしかできない遊びをしているアオイは素直に向かうことにした。
「ごめんねみんな、呼ばれたからリーグに行ってくる!」
手を振ってあわただしく駆け出すアオイに、3人は見慣れた様子で手を振り返す。
「そういえば、トップも手、大きいよね」
ネモの呟きが、食堂を出る寸前耳に届いた。
書類とモニターが並ぶ大きなデスク越しにアオイの報告を聞いたオモダカは、満足げに頷いた。
「……成程、参考になります。ありがとうございました、チャンピオンアオイ。ちなみに、貴女から何か提案や質問はありますか?」
その問いに、ふとネモの言葉がよみがえる。
机の上で緩く組まれたその手は、たしかに自分よりもずっと大きそうだ。
「どうかされましたか?」
「いえ、その、質問というかお願いというか……いやでも、ほんとにくだらないことで……」
手を組み直して、オモダカは柔らかく微笑んだ。
「構いませんよ。何でもとは言えませんが、私に応えられることならば」
その穏やかな眼差しに、恐る恐るながらも勇気を出して頼んでみる。
「えっと、その……手!見せてください!」
「手、ですか?」
目を瞬かせたオモダカは、突然ジャケットを脱ぎ始めた。中から現れた青いノースリーブのインナーには何もいけないところなんかないはずなのに、なんだか目のやり場に困ってしまう。
あわあわしている間に素手が晒される。どうやら、見やすいようにとわざわざグローブを外してくれたらしい。
丁寧に畳んで机に置かれた長いグローブに、視線が向いたのに気付いたのか、微笑みを向けられた。
「ふふ。グローブ、触ってみますか?」
一見柔らかそうな手袋は、思っていたよりもずっと重い。撫で回してひっくり返してグローブを眺めるアオイに、オモダカが説明してくれる。
「私の手持ちは、刃や毒などで直接触れてはいけない子が多いですから。特別丈夫な素材を使っているのですよ」
言われてみれば、手袋は随分硬くてぶ厚い。アオイの小さな爪では、傷一つ付けられなさそうだ。
「ドラゴンタイプの鱗や牙で傷付きやすいハッサクや、ひこうタイプの爪や嘴が危険なアオキも同じ素材ですよ。チリとポピーは泥や錆で汚れやすいので、手入れのしやすさを重視しています」
「へえ、一人一人に合わせてるんですね」
「ええ。チャレンジャーだけでなく、四天王たち自身にも輝いて欲しいですから。そのための準備は、当然のことです」
オモダカはこともなげに笑って、はたと首をかしげる。
「……ところで、グローブではなく私の手を見たいのではありませんでしたか?」
「あっ、そうでした!オモダカさん、手、パーにしてもらえますか?」
素直に掲げられた手のひらに、自分の手のひらを重ねる。体温が低いのか、少しひやりとした感触。
大きな手のひらと長い指は、アオイの指先から関節二つ分以上の差を空けている。今日比べたどの相手よりも大きな手だ。
皮膚の奥からかすかに感じる脈と、柔らかい肌の感触が少し名残惜しいけれど、そっと手を離した。
「満足されましたか、チャンピオンアオイ」
「はい!オモダカさんのこと、ちょっと知れたような気がします」
へえ、と目を細めて続きを促すオモダカに、指を折って今日の成果を報告する。
少し冷え性なこと、みんなのことを真剣に考えていること、わたしのくだらないお願いにもちゃんと応えてくれること。
「アハハ、面と向かって言われると、少し気恥ずかしいですね」
ちょっぴり目を逸らして、口元に手を添えて笑うオモダカを見てもう一つ、知ったことが増えた。
はにかむ笑顔が、とっても綺麗でかわいいこと!