図鑑や戦力よりも、大事なもの
「分かってた。でも、諦めきれなかった」
オーガポンは譲れない。図鑑のためにも、オーガポンのためにも。
でも、スグリ君が見てられないくらい可哀想。何とかして手を差し伸べてあげたいな
「鬼さま、おれん家だったらいつでも住まわせてあげんのに」
「一緒に住もう!」
「え!?アオイも住むの?あ、空き部屋あったかな…」
これだ。あの時は冗談だったけど、多分これがいい
「スグリ君」
「…」
返事はない。そりゃそうだ。自分から全部奪っていったやつの話なんて聞きたくないはず。だから
「一緒に住もう。君も、オーガポンも、私と一緒に」
「…え?」
思いもしなかった事を言ってあげると、驚いて顔を上げてくれる。
うん。やっぱり見てられないくらい、酷い顔
「オーガポンを君に譲ることは出来ない。でも、君も『私のもの』にしちゃえば」
「やだ」
「お?」
「見たくない。アオイと、鬼さま、仲良くしてるの」
「そっか」
手に入るのはどっちかだけ
「だったら」
私はスグリ君とオーガポンを天秤にかけ、
「オーガポンはいらない」
「「え?」」「に!?」
スグリ君を取った
「このままでもオーガポンにとってはいい思い出で終わる。でも、君がこのままだと多分、壊れちゃう。そして、それを防げるのは、多分私だけ」
「ちょっとアオイ!アオイだけって何よ!私にだってそれくらい」
「できないよ」
「え?」
「だって」
姉であるゼイユでも、スグリ君を救えない。その理由は
「スグリ君、ゼイユのこと見えてないでしょ」
姉なんかよりもっと強い、超えるべき壁ができたから。
実際、今もスグリ君は私のことをずっと見てる
「話を戻すよ。スグリ君は、私と二人なら、どう?」
「…おれ、弱いよ?連れてって、なんになる?」
「それは、私と一緒に作り上げるんだよ。だって」
そうか。向こうの学校だとバトル特化だから
「人やポケモンの価値は、バトルだけじゃ決まらないでしょ?」
こんな当たり前のことも、頭から抜けてるのか
「…じゃあ、答えて」
「なに?」
「このまま一緒に住んだとして、おれはアオイの、何?」
これ、凄く重要な質問だ。スグリ君の、心の本音だ。だから、慎重にいかないと。
多分、スグリ君と私って、年齢同じくらいだよね?だから、スグリ君が欲しがってる答えは
「彼氏、もしくは夫、とか?」
こうじゃないかな
「…ん」
ああ、やっとスグリ君が手をとってくれた。私はスグリ君を救えたんだ!
「さあ、行こうかスグリ君!」
もうオーガポンなんてどうでもいい!
「ちょっと待ちなさい」
なのにゼイユが、いい雰囲気を邪魔してきた
「一緒に住むなら、お互いの学校にちゃんと話を通してからにしなさい」
「「…」」
「さて、あの二人は順調なのかしらね」
結局、2週間も経たずにパルデアに住むことに決まった。
どうしてそんな早いかって?向こうの校長先生曰く『スグリ君がほっとけないって、物凄く切羽詰まった感じに迫られましたので』とのことだ。
そこから数か月経って、まとまった休みが出来たので私ゼイユ、二人の住まいにアポなしで突撃かますところです。さて、どんな感じになってるのかな?
「邪魔するわよ」
「え!?姉ちゃん!?」
「おや、こんにちは」
「…え?」
いやいや、こうなるとは思ってなかったわ。
まさかスグが割烹着きて家事してるなんて。しかも結構可愛いし
「私も、スグにお世話してもらおうかしら」