扉の向こう
・転載禁止、閲覧注意
・留学後、捏造多々
・任意←アオ←スグ
・アオイのソロプレイ
あの日、別れの挨拶もできなかったことを今さらながらに謝ろうと思った。
アオイがブルーベリー学園への交換留学生としてやってきて数日。既に彼女の活躍はめざましいものとして学園中に知れ渡っていた。スグリはそんなアオイを初日から遠巻きに気にかけながらも、なかなか話しかけるチャンスが来ないでいた。いっそ彼女がブルベリーグを勝ち上がり、四天王も倒して自分の元へ来てくれたら、と願った。だが、ただそれを指をくわえて待っているのは話しかけてくれたり察してくれるのを一方的に求めていた以前の自分のようで歯がゆくもあった。
(……ここが、アオイの部屋)
放課後、学生寮でアオイに割り当てられた部屋の前にやって来たスグリはもう一度深呼吸をした。何を話せばいいのかは考えれば考えるほど分からない。アオイは林間学校で一時期会っただけの自分のことを覚えているかさえ分からない。それでも自分は変わったんだと何度も自身に言い聞かせ、スグリはドアをノックしようとした。
「……っ」
少しの躊躇が生んだ間隙に、かすかに、ほんのかすかに少女の声が聞こえた気がした。
中に誰かいるのだろうか。アオイと話すのに他の誰かがいるのは嫌だ。後にしようか。
そう思ってスグリはあまり褒められたことでないのは理解しつつもアオイの部屋の扉に耳を付けて中の様子をうかがった。
「……っあ、はぁ……っ」
「……?」
確かに中からはアオイの声がする。しかし誰かと話しているような声ではない。声というより吐息に近かった。
「んっ…、ぁ……ふ……っ」
「……!!!」
押し殺したようなその吐息に、スグリは頭の中のギギギアルがガチャリと符合した。スグリも年頃の少年であり、異性にもそういうコトが存在するのは聞きかじりで知っていたのだ。
(あ、アオイが……いま、この向こうで……?)
顔に集まる熱とこんらんする頭をグローブをした手で押さえ、考えをまとめようとする。
自分はアオイに謝りに来た。アオイは今たぶんそれどころじゃない。アオイもこんなことすんだ――。
思考はまとまるはずもなく散らばり放題になり、その代わりに自分の脳は恨めしいことにそんなアオイの姿態を勝手に描きだす。
交換留学生としてやって来た日も林間学校の日と同じく愛らしく笑っていたアオイが、この扉の向こうで痴態を演じている。紅潮した頰のアオイ。自分の部屋と同じ間取りの部屋のベッドで同じブルーベリー学園の制服をはだけているだろう。息を荒くするアオイ。いつもはきっちりしている三つ編みを乱れさせ、自身の体をしだきながらシーツにシワを作って――
(…………き、聞いたらだめなのに……っ)
スグリは扉から耳が離せなくなっていた。それどころか、手は自然と快楽を求め、下半身をさまよいかける。
アオイはきっと、快楽から身をよじるように背を丸め、ハーフパンツの中に手を入れて自身の秘部をなぞっている。もしかしたらこれでも、声を押し殺そうとシーツで口を押さえながらしてるのかもしれない。そんな妄想が後から後から涌いてくる。
(こんな廊下から聞こえるようにシちゃだめだべ……っ)
他の誰にも聞かせたくない。けれど自分が聞いていることをアオイに伝えるわけにも行かない。スグリはただただアオイの声を漏らすまいと聞き続けた。寮の廊下に他に誰も来ないことを願いながら。
(アオイ……っ)
「ぁっ……はぁ……んっ」
今まで聞いたことのない声色で喘ぐアオイは、残酷なほどに官能的だった。その声が、かすかな音量の中でも高ぶりを迎えたかと思った瞬間。
「――っ」
「………っ!」
アオイの声は、確かに人の名前を呼んだ。その後、しんと静まりかえった扉に、スグリはアオイが官能の果てに到達したのだと察した。
「……っ」
中のアオイが起き出す前に、スグリは結局その場を後にせざるを得なかった。一つは高ぶってしまった己自身を鎮めるためにだが、もう一つはアオイの呼んだ名について理性も感情も追いつききらないためだった。
(アオイ……)
これから後、スグリはアオイとの決戦までアオイの前には立てなかった。