所作
>>51で語った食べ方きれいなエピ概念です 知り合って1~2カ月ぐらいの話だと思います「ご飯、できましたよ。」
生まれて初めてかもしれない。人に料理をふるまうのなんて。
トレセンに来てから自分用に料理することは何回かあったけど、家では一回も料理なんてしたことなかった。さっと食べる分には別に構わないけれど、人に出す、ともなれば(たとえそれがちょっと変な先輩であっても)かなり気を遣う。
とはいえ、別に何か替えたわけではない。ふつーに、いつも食べているのと同じようなパスタを、三人前。僕は育ち盛りで、これでもちょっと少ないくらいだけど、先輩はそんなに多くは食べないらしい。
「ありがとう、コンちゃん。もしコンちゃんが嫌じゃないなら、今度はぼくが作ろうか?」
どうしよう。正直まだあんまりこの先輩がつかめていない。この人は悪い意味で学園でも有名だ。暴れウマなんだ。僕も最初はすごく警戒していた。何かで抑え込んでおかないと溢れ出てしまいそうなその狂気に、僕の産毛は完全に針を突き立てていた。
だが、そんな針は、1週間足らずでへし折られた。
短的に言えば、先輩は僕にひどく懐いた。急所を晒して制空権に入ってくる人に、敵愾心を見せるほど、僕は人でなしじゃない。
え?逆じゃあないのかって?そうだね。普通はそうなるよね。
でも違う。合ってるんだ。理由は何もわからないけど、先輩は僕に懐いたんだ。
別に、先輩が嫌いなわけじゃない。でも、どこか変なんだ。
エピファネイア。この学園に来て一番最初にその名前を聞いたのは、噂話からだった。それもポジティブなものでなく、むしろネガティブなもの。
でも、噂話の先輩と僕の前にいる先輩は、違う人みたいに感じる。
キズナ先輩なんかにはつっかかってるのをよく見るけど、今僕の目の前にいるこの人は別にキズナ先輩を嫌っているようには見えない。
これは僕の勝手な妄想だけど、この人は人との付き合いに慣れていないのかもしれない。だからいろんな人といがみ合っちゃうし、僕に対しても変な態度になってしまう。
「コンちゃん?どうしたの?調子悪い?」
「ああ、すいません。ちょっと考え事を。」
「そう?ならいいけど・・・もし困ったことがあるなら相談して・・・いや、コンちゃんは友達も頼れる先輩も多いし、わざわざぼくに頼ることもないか。なんてったってあのディープインパクト先輩の一押しだからね。コンちゃんが一声かければ。多分みんな力に・・・「頼りますよ。もし何か困ったり辛いことがあったら、その時はあの人たちじゃなくてあなたに頼ります・・・」
「・・・ありがとう、コンちゃん。初めてだよ、頼る、なんて人に言われたの。」
「僕も初めて言いました。」
「・・・食べよっか。冷めちゃう。」
「そうですね。「「いただきます。」」
はっきり言います。僕はびっくり・・・いや、ギョッとした。悪い噂の絶えない先輩。僕の前では基本的にだらっとしてる先輩。その先輩の手合わせのポーズは、まるで菩薩様のようだった。
あんまりギョッとしてると、また先輩を不安がらせてしまう。フォークを手に取りとりあえず食べ始める。
またビックリ。フォーク遣いも美しい所作だ。正直、食堂でガツガツ食べているクラスメートと比べたって何が違うのかわからない。それでも、その所作は繊細で、それでいて大胆。普段感じるイメージとは一変して、まるで聖堂に佇む神父のよう。
「コンちゃん?ご馳走様するよ?」
そっちに気を取られて、気づけば完食していた。先輩の心から心配しているその目線が痛い。あなたのしぐさに見惚れていました、なんてクサいナンパさえ言わない。
「「ごちそうさまでした。」」
「洗い物くらいはやるよ。」
今日だけで先輩に対する知見が増えた。一つ目は、とてつもなく食べ方が美しい。
二つ目は、様子がおかしかったらすぐに気を遣ってくれること。この人のこういうところがもっと多くの人に知られれば、先輩はもっといろんな人と仲良くなれるはずなのに。
エピファネイアについて、知っていることが増えたコントレイル。だが、この人のこういうところを知ってるのは、僕だけであればいいとも思ったことを知るのは、もう少し未来の話・・・