戦闘!箱入り娘vs.天夜叉
………ハァ…、ちょっと油断した。
今置かれている現状に対して思わずため息をついてしまう。
いろいろと小さな不幸が積み重なった結果なので仕方がないのだけれど。
ルフィ達にあった後空島に行くまでを見送ってからしばらくして。
私はこのジャヤという島で少し待ちぼうけを食らっていた。
というのもこの辺の海賊は基本的に向上心がないので、なかなか私にとって都合のいい方に、すなわち偉大なる航路の先には船を走らせてくれないのだ。
そして、さらに悲しいことにここは無法地帯なのでいつものように完全に覇気を遮断しているとその辺の有象無象に絡まれてしまう。
だからこそ、いつもよりもコントロールをあえて甘くしていたのだが、今回に関しては裏目に出てしまったようである。
やっと都合のよさそうな船を見つけてひっそり乗り込むため気配を完全に遮断しようとした矢先の出来事。
こんなところでこのクラスのやつとばったり出会うというのはすこし想定外だった。
目の前に立つは金髪にサングラスをかけた派手な男。
名は”ドンキホーテ・ドフラミンゴ”、七武海の一人。
目の前の男はすでにこちらを目でしかととらえている。
こうなっては私の能力では丸く収めるのは難しそうである。
「フッフッフッ………こんなチンピラの吹き溜まりにお一人様とは。
何の御用かな?“赤髪”の箱入り娘」
しかも私の正体もどうやら割れているらしい。
まぁ、わざわざ私にじっくりと目を止めているのだからほぼ確定していたようなものなのだが。
仕方ないか、少し動揺していた心を静まらせて答える。
「ふぅん………私のことをちゃんと知っているんだ。
流石に七武海ともなればちゃんと全世界に蜘蛛の“糸”を張り巡らせているんですね」
言葉の応酬だけで引いてくれればいいんだけど、どうだろうか。
「それで、天夜叉さんは私に何か用?
私たちの間に特に因縁も何もないような気がするけれど。
それとも、赤髪海賊団に宣戦布告でもしたいの?」
「フフ………フッフッフ!!
いやっ、赤髪海賊団の娘に傷をつけるつもりなど毛頭ねエさ。
ただ………傷をつけずに生け捕りできるなら価値はあるかもしれないが」
「ハア」
残念。ダメか。
体を動かそうとしても動けないことに気が付く。
全く、実に面倒くさい。
「………フフッ、フフフッ…。
じきに“新時代”がやってくる」
その男の言葉を聞いて自分の心がひどく冷え込んでいくのを感じる。
あぁ、この寒気もよくよく考えれば久しぶりだ。
「………フフフッ、手に負えねエうねりと共に豪傑共の“新時代”がな!!
実はちょうどいい供物を探していたんだ!!
フフフッ………まさか、こんなところに………ウッ」
こちらへと向かってくる男が何かに躓いたかのように蹲る。
………。
何か言いたいことがあるのだろうか、そのままこちらを見上げてきているが………。
私としては特に話したいこともないので無視しておこう。
そのまま十秒ほどたったであろうか。
ピッ
そんな音とともに私の体に自由が戻る。
つながりが切れたことで向こうにもこの寒さが伝わることはなくなったのだろう。
弾けるように飛び上がり、こちらと距離をとってにらみつけてくる。
「ハァ…ハァ、ハァ…」
「急に動くのは体に良くないよ?
いい年なんだから体はいたわってあげなくちゃ」
まぁ、ひと先ずはこれで何とかなったかな?
本当に直接遣り合えばさすがに私も無事じゃすまないし、それじゃあみんなに心配をかけてしまう可能性がある。
この辺が引き際だろう。
後は………、後処理だけだ。
「フフッ、それにしても本当に赤髪海賊団に仕掛けてくるなんて思わなかったからビックリしちゃった。
流石に七武海とはいえど私たちを相手取るのは分が悪いと思うんだけどなぁ。
もしかして、世界政府以外のバックでも手に入れたのかな?
例えば………私たち以外の“四皇”とか」
あえて周りで様子を見ていた海賊たちにも聞こえるぐらいの声で呼びかける
これはカマかけだ。うまくいってもうまくいかなくてもどちらでもいい。
「………!!」
でも、表情を見る限り概ねうまくいくだろう、私の手間をできるだけ省いてくれると嬉しい。
「さてと。
この場の後処理はお願いしようかな?
私、今焼き鳥が食べたい気分なの。
私にも事情があるし、あなたにとってもそっちの方が都合がいいでしょう?天夜叉さん?」
ゆっくりと鼓動が戻ってきたことを確認しできたので立ち去ることにする。
これ以上情報を仕入れて確定させるのもよくないし、会話を続けて状況が良くなることもないだろう。
………能力を切ってしばらく後にいろいろと悶えたのは内緒の話。
♪
後日、世界経済新聞にこんな見出しが躍った。
『七武海 ドフラミンゴ ジャヤ島の海賊の街モックタウンを壊滅!!』
この記事に読者はクロコダイルのような悪い七武海もいるが、しっかりと仕事をする七武海もいるものだなどと喜びの声を上げるものも多かったのだとか。
だが、一部の読者からは疑問の声も上がっていたようである。
というのもこの記事は普段の別の記事に比べて内容が薄く、一次情報ではなく二次情報をベースに書いたのではと感じたのだとか。
最もそんな意見はすぐに時代の波に押し流されてしまうのであったのだが。