戦後の尊氏×直義♀ です。

戦後の尊氏×直義♀ です。


戦後の尊氏×直義♀ 


私はこの時代をきちんと調べてませんので、なんちゃってでお願いします。




婚約披露のホテル会場で、直義は体を硬く強ばらせ、ただ青白い顔をして、夫となる自分の父よりもずっと歳上の男の傍らに立っていた。

憂いのある晴れないその表情が、この婚約が直義の本意ではないと告げている。

隣に立つ男は、そんな直義の心の内など気にせず、御満悦に笑っていた。



戦後に没落した家の令嬢が、その家名や尊い血筋を目当てに、ただ箔をつけるためだけに、成り上がった男の妻になる事はよくある話だ。妾にされなかっただけ、良い方なのだ。

男には直義よりも歳上の子供が何人もおり、邸宅に妾はおろか、外にも何人もの愛人や遊び女を抱え込んでいてた。

その女達は艶っぽい肉感的な女ばかりで、着る物も派手やかな、直義の夫となる男の好みにあわせた物ばかりだった。夫となる男が女に求めるものは、肉感的な性の魅力だけだった。

直義の家柄にしか興味の無いない男は、婚約披露に当たって直義にドレスメーカーの吊るしのドレスの中から、好きな物を選ぶようにとだけ言った。

この値段の物の中で、好きな物を選べと。

男好みの品のない華美な、この夫となる男から見れば豪奢なドレスや装飾品ではなく、直義の好みに合う、品のある、極力華美を抑えたドレスと装飾品を選び隣りに並び立った直義に、男は

「貧乏くさい、金なら充分くれてやっただろう」

と吐き捨てた。

男からすればゴテゴテと飾り立てた派手やかな装いこそが、自分の財力を示す、豪奢な装いなのだろう。

だが別に男の評価などどうでも良かった。寧ろこの男に好まれる為の装いなど直義はしたくはない。

直義の姿形は、男の好む女の好みとは合わなかったが、高貴な家柄に生まれた品の良い、美しい直義の純潔を散らす事には、期待と愉悦を覚えているようだった。

ジロジロと不躾に、ネットリと舐め回すかのように直義を上から下まで眺めた。

「胸も尻もないが、まあ良い」

ニヤニヤと笑いながら、華族の姫君の穴蔵はどんな具合かと、下卑た言葉を投げかけられゾッと寒気がした。

腰に手を回して会場へエスコートされそうになり、嫌悪と恐怖から必死で抗った。

「おやめください!」

身を捩り触れられそうになるのを避けると、男はむっとした表情を一瞬浮かべる。だが次には下卑た笑みを浮かべ、汗ばんだ肉厚な手で直義の手を握った。

「夫婦になるのに、つれない事を言うな。そんなにこの結婚が嫌なら、ワシは別に破談にしても良いのだぞ?まぁ、その時は今まで支援してきた金と結納金はちゃんと返して貰わんとならんがなぁ」

男の口からでた言葉に、直義は顔を蒼白にして俯かせた。

そんな莫大なお金が家にあるわけがないのだ。

零落する家を建て直すべく手をつくした父は、何をやっても上手くいかず失敗を繰り返し、詐欺にあい騙されて、家を破産寸前にまで傾けていた。土地や屋敷を手放しても、家財や家宝を手放しても、もうどうにもならない。

父を、何より、歳の離れた可愛い弟、直冬。あの子にひもじい辛い思いはさせたくはない。

男の手に握られた自分の両手を見て、なんて汚いと、直義は強く目を瞑った。



今世、直冬が生まれた時に、直義は前世の事を思い出した。

とはいえ記憶は朧げで、歴史を調べても、そうだっただろうかという疑問などが多く、あまり実感がない。

ただ兄の、足利尊氏の事を調べた時に、どうしようもない暖かな愛しさを感じた。

愛しい、逢いたいという思いは募ったが、何処にいるのか、ましてやこの大戦のあった中、いま生きているのかさえわからない。

愛しい我が子や、情愛深いかつての妻、可愛がっていた部下に出逢えただけで幸運なのだ。そう思い心を慰めた。



夫となる男に肩を抱かれ、悍ましくて全身に怖気が走る。

どうしても顔を強ばらせ、俯かせる事しか出来ず、こんな事ではいけないと、どうあれ、この婚約は自分の意思で決めた事なのだから、誇りと矜持を胸に堂々としていなければいけない。

そう思いながらも、直義は招待客に憂い顔のまま紹介され挨拶を交わした。




その時、パーティー会場の入り口の方から、少し遅れて来た招待客の訪れを告げる声が届いた.

不思議と人の気を引くその招待客は、通り行く先々の他の招待客に声をかけられ、軽く目礼して挨拶を交わしながら、愛想の良い笑みを浮かべ、主催たる男と直義の元に歩み寄って来た。

直義もなぜかそぞろ心惹かれ、そちらへと視線を向ける。

和装をした、長身の若い男性。

人好きのする笑みを浮かべた、秀麗な男らしい容貌。

直義はその人を見て、大きく目を見開いた。

(兄上…)

声には出さなくとも、唇が兄を呼んで呟いた。

懐かしい、愛おしい、あんなにも求めた兄の姿がそこにあった。

直義の視線の先の兄が、直義を見つける。

それまで人好きのする、気のいい笑みを浮かべていた兄の表情が、唖然として笑みを失い、大きく目を剥いた。

直義、と唇が動いたのがわかった。

(恥ずかしい…)

こんな惨めな、酷い姿を見せたくはなかった。

あんなにも逢いたかったのに、いま顔を合わせることが辛い。

直義は尊氏の視線に耐えきれず、瞳を涙で潤ませて顔を伏せた。

尊氏の顔が驚愕から、激しい憤怒へと変わる。

それに気づかないのか、男は尊氏を見つけ上機嫌に声を弾ませた。

「おお!これはよく来てくださった!この度は縁あって、年甲斐もなく若い嫁を貰うことに」

直義を紹介しようと、グッと肩を強く抱いて体を引き寄せようとした男に、直義は拒絶するように体を硬直させる。

「直義に触れるな!」

激しい憤怒を隠さず、尊氏は激情のままに足音も荒く歩み寄ると、直義の肩を抱く男の腕をにぎりつぶしそうなほど強く掴んだ。

そのまま、突然の痛みに悲鳴をあげた男の腕を捻り上げ、突き飛ばすように床の上へと放り投げる。

意味がわからず間抜けな顔をして男は床に転がり、周囲の招待客から悲鳴と驚愕の声があがった。

床に倒れた男を今にも殺しそうな表情で睨むと、尊氏はすぐに視線を今にも泣き出しそうな、幼子のような表情で尊氏を見つめている直義に向けた。

「直義…」

「あにうえ…」

呟いた直義の眦から、堪え切れず涙が一粒溢れた。

そして直義が気がついた時には、尊氏の力強い腕の中に抱き締められていた。

「大丈夫だ、直義!我がついている。我がお前を守る!」

直義の体を掻き抱いて尊氏が叫ぶ。

尊氏の広い胸に顔が押しつけられ、周りの様子は見えない。ただ、辺りがざわついている事だけはわかった。

だが、それよりも抱きしめる愛しい懐かしい兄の、

「あにうえ…、あにうえのにおい…」

きっと前世とは違うはずなのに、兄の匂いに愛しさが募った。

どうしようもなく愛おしくて、その温度に、匂いに、安堵を感じてしまう。

「直義」

思わず漏れた直義の言葉に、尊氏の腕が一層強く抱きしめる。

だが、周囲の…直義の婚約者である男の騒ぎ立てる声に、

「うるさい」

と、不快そうに呟き、直義からは見えなかったが、凍てつくような視線で男を睨みつけそれを黙らせた。

「直義、行くぞ」

尊氏が直義の手を引き、好奇の視線が向けられる中、足早に会場を歩く。

普段和装の為、ヒールのある靴を履き慣れてない直義は、尊氏の歩く速度に着いていく事が難しく躓きそうになった。

「あっ!」

「直義」

よろめく直義の体を尊氏は慌てて支える。

「すまぬ。配慮が足りなかった」

焦るあまり直義の事を顧みず急ぎ過ぎた事を謝ると、直義がそんな事は無いと否定するよりも早く、尊氏が直義の体を両腕に抱き上げた。

「あ、兄上」

「このような場から1秒でも早くお前を連れ出したい。急ぐゆえな」

尊氏はそのままドレスを纏った直義を腕に攫い、呼び止める声も振り切り会場を後にした。




ボーイに手配させ、ホテルの正面に車を回しそのまま乗り込む。

尊氏は運転手に言葉少なに邸へと戻るように告げると、会場から連れ去ってからずっと黙り込んでいる直義の肩を抱き寄せた。

「直義、大丈夫か?」

「兄上…」

あの男に肩を抱かれた時とは違う、温かさと喜びに、直義は気遣わしげに自分を見る兄の顔を見上げ、無意識の内に尊氏の体に縋り付いた。

「兄上、兄上、お逢いしたかった…、あっ」

直義の体を半ば膝の上に乗せるように強く抱き寄せ、尊氏はそのまま直義の唇を奪った。

驚き、硬直したのは一瞬のことで、直義は喜びのままにそれを受け入れる。両目を閉じ、何度も唇を重ねられ、呼吸を求めて薄く開いた唇に舌が差し入れられた。

戸惑い驚き、どう応じれば良いのかわからなかったが、ただ夢中になって尊氏の求めるままに、直義も同じように絡みつくそれを求めた。

ただ互いの求めるがままにくちづけを交わしあい、慣れないくちづけに呼吸を乱した直義は、くたりと力の抜けた体を尊氏に預け、上気した頬をその逞しい胸に寄せた。

ぼんやりと尊氏の顔を見上げ、その口元を見て直義は更に顔を紅潮させた。

「紅が…」

直義は恥ずかしそうにそう言うと、ドレス姿の為に手元にハンカチを持っておらず、オロオロとして尊氏の口元に指先を伸ばした。

「おお」

尊氏はどこか野生みのある表情で、楽しげな笑みを浮かべると、懐から手巾を取り出して直義の手に渡した。

そうして拭いてくれと言うように、軽く顎を突き出す。

直義ははにかみながら、兄の唇に付いた紅を優しく拭き取った。

綺麗に拭えたと、尊氏の口元から手巾を離す。そうすると、尊氏の腕が直義の体を抱き直すようにして頭を抱いた。

「お前をこのまま我の邸に連れて行く。あと事は全て我に任せておけば良い」

尊氏は直義の髪に唇を寄せて囁く。

「万事全て、我に任せておけ」

今更ながら、運転手の居るこの車中で、尊氏とくちづけを交わしあった事に激しく羞恥しながら、直義は安心させてくれる尊氏の温度に包まれて、良く理解できてないままであったが、ただ素直に尊氏の言葉に頷いた。




尊氏の邸はかなり広く大きな洋館だった。

門から玄関までも遠く、車で移動する。

元は名のある華族の邸宅だったと言う邸は、修繕され外壁は新しく塗られ、暗い中ではあったが一見すると新築と見紛う様相を見せていた。

内装の修繕も行き届いている。置かれた家財は舶来の品なのか美しかったが、この古い邸の雰囲気を損なう様な、興の醒めるような物では無く、品がよくそれでいて目を惹く華やかさがあった。


尊氏に案内され、リビングへと通される。

そうして2人がけのソファに並んで腰を下ろすと、尊氏は付き従っていた使用人を指で呼んだ。

夜会に招待され,出かけたばかりの主人がドレス姿の女性を邸に連れて帰った事に、出迎えた使用人は驚きを隠さなかったが、尊氏は気にした様子もなく

「茶となにか軽く摘める物を用意せよ」

と命じた。

それに頷いた使用人が下がろうとするのをまだ待てと手で制して、

「腹は減っていないか?何も口にしていないだろう?」

と、直義に優しく尋ねた。

直義はただ首を軽く振る。

「…今は、胸がいっぱいで、空腹など感じません」

尊氏と再会してからその事だけに心を満たされていて、今日の日の憂鬱さに、ここ暫くは殆どまともに食事も摂れていなかったのに、不思議と食欲を感じなかった。

微笑む直義に、なにか耐える様に尊氏は眉を寄せると、待たせていた使用人に

「早急に風呂の用意をしろ」

と強い口調で命じた。

普段穏やかな主人の、あからさまな命令に、使用人な「直ちに」と返して急いでその場を離れる。

「兄上?」

「それはあの男が選んだ物だろう。このドレスを着た直義をもう見たくない」

眉を寄せ、少し難しい顔をしているように見える尊氏に、直義は戸惑うように少し顔を俯けた。

「…このドレスを選んだのは私です。お気に召さなかったでしょうか」

昔から趣味の良かった兄とは違い、自分の選んだ物はつまらないのかもしれない。

そう打ち沈んだ思いで尋ねると、違う、と尊氏から短い言葉が帰ってきた。

「そのドレスは良く似合っている。だが金を出したのは彼奴であろう。それが気に食わん。彼奴の物を直義が身に纏っていると思うと腹に据えかねる」

尊氏の素直な嫉妬の言葉に、直義は嬉しくなり笑みをこぼした。

「兄上がお嫌でしたら、直ぐにも着替えます。…でも変わりの衣装はございますでしょうか?」

「うん?そういえばこの邸に客人を招いた事が無かったからなぁ。客間はあっても客人用の替えの服などの用意はなかったな。まして女物となるとなぁ」

失念していたと言うように、尊氏が唸った。

「我の替えの浴衣でも構わんか?」

「兄上がそれでよろしいようでしたら」

尊氏の提案に直義が頷くと、尊氏が破顔し直義の肩を抱いて抱き寄せた。

「では風呂を終えたらそれに着替えてくれ。用意させよう」

「はい」

抱き寄せられ、素直に尊氏に体を凭れさせる直義の髪に尊氏は唇を落とす。

そのまま、直義の顔を覗き込むようにして唇を求めると、直義は頬を染めて顔を俯けた。

「…いけません」

消え入りそうな小さな声で拒み、尊氏の腕の中から逃れようとするわけでは無かったが、その広い胸に両手を置いて少しだけ体を離す。

「…嫌か?」

「…はしたのうございます」

先程の車中ではくちづけを受け入れたではないかと言われてしまえばその通りだが、あの時の、再会したばかりの時の尊氏を強く求めてしまう激しい衝動は、今こうして尊氏の腕の中の確かな温もりに包まれていると、安らいで落ち着いてしまっていた。

尊氏と触れ合いたくないわけでは無いのだが、羞恥が優ってしまう。

「我が怖いか?」

尊氏の大きな手が直義の頬を包み、親指の先が直義の唇をなぞる。

「先程は強引だった」

「いいえ」

瞳を覗き込む尊氏に、直義はゆるゆると小さく首を振った。

「嬉しゅうございました」

「んんっ」

グッと何かを堪えるように喉を鳴らすと、尊氏は直義の体を抱きしめ、その髪に顔を埋めた。

「…あの男に、何か酷い事はされなかったか?」

声を顰め尋ねる尊氏に、直義はその腕の中でビクリと体を震わせた。

「…彼奴がどのような男かは噂で聞いておる。隠さず申せ」

問いただす尊氏の声に、嫉妬と怒りから、仄暗い感情が潜む。

あの時の嫌悪と悍ましさが甦り、直義は悲しげに声を震わせた。

「…肩を、抱かれてしまいました。両手を握られて…。あのような男に触れられるなど…、私は汚されてしまった」

「んんっ」

喉の奥で堪えるように唸りながら、尊氏は嘆く直義の体を強く抱きしめた。

「直義が汚れてなどいるものか。我の直義があの男に汚されるなどあり得ぬ」

尊氏の唇が何度も直義の頭に、こめかみに、額に、瞼に落とされる。

唇へのくちづけを拒んだ直義に、唇へのくちづけこそ無かったが、優しく顔中にくちづけを落とした。

「触れてみよ直義。直義のどこにも汚れなどない」

尊氏の手が直義の両手をとる。そうしてその手を自分の頬に導き、直義の両手に頬を包ませた。

「兄上…」

「直義が汚れておると言うのならばそれでも良い。汚れておろうと我は直義に触れずにはおられぬ。一緒に汚れるのみだ」

頬を包ませた直義の手のひらに尊氏がくちづける。手を取り指先に手の甲にくちづけていく。

「直義、我の妻になってくれるか?もう離れたくはない」

「兄上…」

「もうお前と離れて生きていく事などできぬ。我と結婚してくれ。妻となり、我と生涯を過ごしてくれ」

「兄上…、私は…」

求婚する尊氏への返答に口籠もり、直義は瞳を伏せる。

直義の返答を見定めるように見つめながら、尊氏の唇が直義の手のひらにくちづけ吸い付いた。

手のひらに吸いつかれ、直義は伏せていた瞳を上げ尊氏を切なく見る。

その眼差しに、隠すことのできない尊氏への愛情があり、尊氏は少し眼差しを和らげた。

「…私は、あの男と正式に婚約をしておりました。結納金だけではなく、私が嫁ぐ事を条件に、家に金銭の援助も受けておりました。それが破断のなれば、どれほどの…」

「そのような物は我がどうにでもする。見てわかると思うが、我は彼奴には負けず劣らずには裕福なのだぞ。それとも直義、お前は金の為に我が身を犠牲にして、我から離れると言うのか?」

言葉を繋げながら、だんだんと悲しげにうなだれていく直義の顎を掴み、尊氏は潤んだ直義の瞳を覗き込んだ。

直義が離れていく事を許さない,剣呑さを瞳に宿して尊氏が問いかける。

「…できません。兄上のお側を離れるなどもう、私には…。でも、私のような身の上の者を妻にすれば、兄上に醜聞が…、名誉に傷がつきます。それが私には辛いのです」

「直義!」

尊氏が直義の体を抱きしめ、そのまま重ねるだけのくちづけをした。

押しつけられた唇はすぐに離されたが、直義は手のひらで唇を覆い、

「…いけません」

と、頬を染めて目を逸らした。

「許せ、嬉しいのだ!」

尊氏は喜色満面に叫ぶ。

「我は醜聞など気にはせぬ。名誉も要らぬ。我が本当に欲しいモノは直義だけだ。我の側を離れぬと言ったな?それは我の妻になると、求婚を受け入れると、そういう事だな⁈」

問いただすように確認する尊氏に、直義は小さく頷き返した。

「本当に、私でよろしいのですか?」

「直義以外はいらぬ」

キッパリと言い切った尊氏に、直義は瞳を潤ませ、幸せそうに笑みを浮かべた。

「求婚をお受けします。どうぞ末永くよろしくお願い申し上げます」

「直義」

直義を抱きながら、尊氏がソファの上へと直義の体をそっと押し倒した。愛しげに顔中にくちづけを落とされ、直義は恥じらい擽ったそうにしている。

「必ず幸せにする。お前に二度と辛い思いなどさせぬ」

「兄上のお側にいられるだけで幸せでございます。これ以上の幸せなどあるのでしょうか?」

幸せそうに微笑みながら、純粋に不思議そうに尋ねる直義に、尊氏は愛しくて堪らぬと言ったように目を細めた。

「…直義、愛しいぞ」

尊氏の唇が直義の首筋に落ちる。覆いかぶさっていた尊氏の手が、直義の着ているドレスの上から直義の体を撫で、そこまできて直義はようやく自分の今置かれている状況に思い至った。

求婚され、尊氏の妻となりずっと側にいられる、その幸せにふわふわしていた直義は、尊氏の求めるものに気づいて我に帰り慌てて身を捩る。

「っ、いけません、兄上」

尊氏の体の下で、その先の行為を拒みだした直義に、尊氏は覆いかぶさったままの体を少しだけ離した。

「嫌か?」

尋ねると直義は恥じらい、困ったように首を振る。

そうして、こんな事を言うのは恥ずかしいと言うように口籠った。

「…正式に夫婦になる前に、そのようなふしだらな事はしてはいけません、…恥ずかしゅうございます」

「んんっ!」

尊氏は喉の奥で唸り声を上げると、ガクリと力を落として、直義の頭の横に顔を伏せた。

「…兄上?」

大きな息を何度も吐いて、逸る気持ちを何とか落ち着かせようとしている尊氏に、直義は不思議そうに声をかける。

「…ダメか?」

「兄上?」

「どうしてもダメか?」

伏せた顔を少しだけ上げて、尊氏が直義を横目に見る。

尊氏の尋ねる言葉の意味を理解して、尊氏に見つめられていた直義は一気に顔を真っ赤にして、尊氏の視線から顔を逸らした。

「……正式に夫婦になれた時には、どうか…可愛がってください」

「んんんん!」

直義は顔を真っ赤にして、恥じらい照れながら、それでも精一杯、尊氏の求めに応じられるその時までは待ってほしいと伝える。

尊氏は余りに可愛い事を言って、無意識にずっと尊氏の雄を刺激して誘ってくる直義に、喉から血が出るのでは無いかと言う程に、激しい唸り声を上げた。

「兄上?」

このまま事に及んでしまっても、直義はきっと受け入れてくれる。

例え無理矢理でも、最後には許して受け入れてくれるだろう。

どうして夫婦になるまで待ってくれないのだ、酷い、あんまりだと嘆かれても、ただ許してくれと謝り、甘い言葉を囁き、優しく甘やかせば、後々にこんな事もあったなという艶めいた甘やかな思い出話になるだろう。きっと、たぶん。

だがもう、一時でも直義を悲しませたくはない、怖がらせたくはない、一瞬でも尊氏と言う男を軽蔑されたくはない、信頼を損ねたくはない。

「………わかった、それまではちゃんと待つ」

激しい葛藤の末に、尊氏が絞り出すように言った。

「はい」

自分の事を思いやってくれる尊氏に、直義は嬉しくなり笑みを浮かべた。

「…これからも抱きしめるのは構わんよな?唇でなければくちづけもよいな?」

「…はい、それは、あの、たくさんしてください」

「んん!」

はにかみながら答える直義に、尊氏はまた顔を突っ伏して唸る。

ああ、可愛い。煽る事ばかり言いよる!どうしてくれようか!

「…覚えておれよ」

低く、唸る様な声で聞き取れない程に小さく呟く。

聞こえなかった直義は、どうしたのだろうと尊氏を見る。

直義の気持ちを汲んで、これだけの我慢をするのだ。

いずれ迎える初夜の時、自分の理性がどれだけ保つのか。

それがわかっておらず、今もまだ無邪気に自分の腕の中に収まる直義に、尊氏は愛らし過ぎて困ったものだと、眉を困らせながらその頬に唇を落とした。






使用人は空気読んで部屋の外で待機してた。

お茶冷めちゃうよ。

お風呂も全力で沸かし中。

薪をくべろ。薪をよ。


書いても書いても終わらないので、キリの良い所で終わりました。

ちゃんと書くと長い。

この2人出会って即プロポーズしてるけど、まだ現在の自分達の自己紹介してない。

ここまでロミジュリ並みに展開早い

このまま直義は実家に帰らず同棲スタートし、兄上の財力が唸る展開になります。


転生後の名前はつけない方向です(どうしても私が違和感を感じてしっくりしないので)

方針決める前の長子様だけ転生名ありで。



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