我らは星野あかねの代理人

我らは星野あかねの代理人


「・・・子供、か・・・」

「どうしたの?」

吐息のように呟いたアクアの声に、あかねが即座に反応した。

よくあるラブホテルの一室。

先程まで愛し合っていた二人は、産まれたままの姿で向かい合うように横になっていた。

先程まであかねを味わい続けており、今は小休止中だ。

「この前さ。幼稚園の保父さんの手伝いをするって番組に出たんだけど・・・それがまぁ大変でな」

「わたしもテレビで見たよ。アクア君ったら女の子に凄い懐かれてたよね」

無尽蔵の体力を持った子供にもみくちゃにされるアクアの姿を思い出したのか、あかねが笑う。

「ちゃかすなよ。本当に大変だったんだぞ? すぐに泣くし、叫ぶし、蹴るし・・・」

「フフ・・・アクア君、理詰めで話そうとしてたもんね。見事におちょくられてて、可愛かったよ?」

アクアを見るあかねの瞳は、獲物を見つけた猫のそれだ。なんとなく腹立たしかったので、彼女の髪を乱すようにそっと撫でていく。痛くも雑にもしないその手を求めるように、あかねがじゃれついてくる。

「それで? 子供達にもて遊ばれたアクア君はどう思ったのかな?」

試すような、引き出すような彼女の言葉。アクアは彼女を撫でながら、心の中を整理する為に想いを吐いていく。

「俺とルビーは、割と特殊だった。未来は夢見ても現実に沿うことはせず。かと言って空想と思う必要がない位には現実味があった」

産まれも育ちも特殊すぎて、ゴローのままで居すぎてしまった。

本来、芸能界で生きていくと言うのは、想像の産物だ。それを夢と見る必要が無いほどに、双子は歪な立ち位置にいた。

「だから、あんまり想像できなかったんだ・・・親になる自分って奴を・・・いや、違うか想像したくなかったんだ」

瞬間脳裏をよぎったのは、彼の実の父親。自分とよく似たその姿に、思わずあかねを撫でる指に力が入る。

あかねは真剣な眼差しで、アクアを見続けてくれていた。

「いや、もっと前からなのかもな・・・親の愛を確信できない・・・だから、俺は今でもアイを・・・お、お・・・お母さんって、呼ぶのに抵抗がある」

自分は、欠けているのかもしれない。

「だから、そんな半端な自分が、親になれるのか。そもそも、なる資格があるのか分からなくて」

「なるよ。私が産むもの」

自虐に近い自己分析に、即座にあかねが解を出した。

その表情は、とても優しい。

「アクア君と結婚して。たくさん愛し合って。ケンカもして。話して。過ごして」

その表情は、どこかアイの最後を思わせる程の愛情に満ちているが、違う。

あかねのその表情は、母親の愛ではない。

「それで、私が君の未来を紡いでいくの」

そっと、あかねは自身のお腹に手を当てる。それが何を意味するか、察せぬ程アクアも愚かではない。

「アクア君は傲慢だよ? 人は子供を作れば親になるんじゃないの。子供を育てていく内に、親になっていくの。完璧主義のアクア君には辛いかもしれないけど・・・未熟でいいんだよ」

そう言うと、あかねはコツンとアクアに額をくっつけた。

伝わる熱が心地よい。

「あとさ、アクア君って自分が思ってるほど完璧じゃないよ? 割と穴だらけだし、節穴だし、隙だらけだし、ずさんだし、ガサツな所も多いんだよ?」

「いや、俺は完璧でもなんでもないだろ?」

そもそも、自分の不甲斐なさにしか自信が無いとさえ思っている。

だが、あかねはそれを否定した。

「自分にできる事は、十全にできると思ってるもん。割と君はポンコツなんだよ?」

おちょくる言葉に「そんなもんか」と返すが、アクアの心に不快感も劣等感もない。

ただ、この恋人が側に居てくれればそれでいいと思うだけだ。

「うん。だって・・・私がどれだけ君の子供を産みたいかわかってないもん」

とろけるような、その瞳に魅せられる。アイのような母親の無償の愛ではない。女が男に魅せつける、恋慕の情だ。

「そうか・・・そうかもな・・・やっぱり、男は女には勝てないな」

「フフーン。どうだまいったか・・・あれ? アクア君? なんでいきなりやる気なってるの? え? 孕ませたくなったから、我慢する為にむちゃくちゃにする? え? ち、ちょっと待って! 私まだ腰が抜けてて・・・いや、動かなくていいじゃなくて! したくないわけじゃないよ? なんなら孕ませてくれてもいいよ? 生むのはいいし、種付けもバッチこいだよ? そうじゃなくて! また私の尊厳がアクア君に蹂躙されるんだよ! だからお願い! 後少しだけ待ってもらって・・・んんんん!」






余談だが、あかねは今回も負けた。

あと、結婚前なのでちゃんと避妊はした。

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