懇願
黒ルフィの持つ巨大な船に閉じ込められたロビン。手首には能力が使えないように海楼石の腕輪がはめられている。彼女は一味のいないうちに脱出しようと船内を歩いていたのだが、広い船内だったため出口が見つからずにいた。
しばらく歩き回っていると下に繋がる階段を見つけた。
「階段…下に何かあるの?」
彼女は階段の下から漂う異様な気配に吸い込まれるようにして降りていった。
降りてみるとどうやら地下室のようであり、細長い一本道の廊下が続いている。
「不気味だわ…」
壁を伝うようにして歩いていくと、奥に鉄でできたような金属製の扉があるのを見つけた。
(重そうな扉…)
扉の前に立って、手を伸ばして開けようとするも鍵がかかっていて開けない。
「ダメね」
諦めて戻ろうとした時だった。
「ア~~~ウ!その声はスーパー考古学者のロビンだな!!」
「その声…フランキー!?」
ロビンが驚く。声のする方向を見ると天井にスピーカーがあり、そこから聞こえるようである。
「ルフィから話は聞いているぞ!このワシはずっと前に死んだ。だが、死ぬ前にベガパンクの設計図を元にしたコンピューターに意識を複製(バックアップ)したのさ!そして、このスーパーな戦艦はワシの身体を改造してできた船だ!その名も戦艦フランジィ!」
フランキー、もといフランジィは生前の彼の口調そっくりに自己紹介をする。
「じゃあ、貴方はこの世界のフランキーなのね」
「おう!もっとも、今はフランジィという名前だがな」
「それじゃあフランジィ、ここは何の部屋なの?」
「ここはかつて死んで行った仲間の棺がある場所だ。扉の鍵はルフィが持っている」
「棺って…」
「ああ、この世界の麦わらの一味が生きていた証の骨が入っているのさ。ルフィは時々ここに来て棺越しに『会話』する。傍から見れば独り言なんだが、まるでその場で生きている人間と話すかのようにアイツは笑ってる。いつも笑顔のないアイツがだ」
「……」
「今だけでいい、ロビン。しばらくアイツの傍にいてやってくれ。ルフィの心はもう修復が不可能なほどにボロボロなんだ。アイツにとって海賊王になることは夢から義務へ変わってしまっている…!ワシはこうして皆を見ることしかできない。船になってしまった以上、人間の頃のように出来ることがねェ…!頼む、ルフィを助けてくれ!」
顔は見えなくとも彼の悲痛な表情が伝わり、ロビンの顔が曇る。
「貴方の言いたいことは分かった。でも、私がいないと自分の世界の仲間が困るわ」
「そうだな、お前には帰る世界がある。だが…」
その時、会話に割り込むかのようにドタドタという足音がこっちに近づいてきた。
「誰!?」
「ぼくだよ、キャベンディッシュだ」
「キャベツ君…!?」
ロビンが驚く。26年経っても若い頃の美しさはあるが、顔は窶れていて疲弊しているようだ。それにカールのある綺麗なロングヘアーをばっさり切っており、目の前に現れても一瞬誰なのか分からなかった。
「安心して、君をここから逃がす!」
「で、でも…」
「いいから!」
そう言い切らないうちに、キャベンディッシュはロビンの手を繋いでどこかへ行ってしまった。
彼女は後ろを振り向く。例の扉の前には何も無かったが、そこにフランキーが立っているような気がした。