憧れの中で
「おーい、ウター! ルフィー! 大事な話があるからちょっとこっちこーい!」
二人の子供に声をかけるのは麦わら帽子を被った赤い髪の男、シャンクス。
彼は赤髪海賊団を率いる大頭であり、声をかけた二人の内の一人、ウタの父親でもある。
これから探検の旅に出かけようとしていた二人は出鼻をくじかれて少し不満げではあるもののシャンクスの呼びかけにすぐ応じる。
「なあにシャンクスー? これからルフィと出かけるんだから用件は早くね」
「そうだぞシャンクス! 冒険とウタとの勝負! これは全力でやる必要があるんだから邪魔すんなよ!」
それぞれ別の形で生意気な口をきくが、当のシャンクスはいつもの事とどこ吹く風。だが、これから二人に伝えなければいけないことを考えると申し訳なさは感じてしまう。
「あー、その、なんだ。その冒険だがな。今日は中止にしてくれ」
「なんで!?」
「なんでだよ!?」
突然の爆弾発言に二人同時に抗議の声を出す。二人にとっていつもの楽しみを奪われたのだから当然だ。
やっぱりこうなるよな、と内心ため息をつきながらシャンクスは説明を続ける。
「それがどうもなあ……フーシャ村の人が言うにはお前らがいつも探検してる方でいろいろあったらしくてな。海沿いはがけ崩れがあったし、森の方は村の人も見たことがないような獣がでたかもしれないってんだ。だから今日は……というよりしばらく村からでちゃいかんってことだ」
娘とその友人。大切だからこそ危険な目にあってほしくない。そのために呼び止め説明したのだが当の二人はというと……。
「ふん、でっけー獣なんてへっちゃらだい!俺は森の獣にだって勝ったことあるんだぞ!」
「崖崩れは確かに危ないから避けるとしても、動物の方はいざとなったら私とルフィならなんとかなるんじゃない?ウタウタの力もあるし」
と、やはりそう簡単には聞き入れてくれない。理論的に説明してもそう簡単に納得してくれないのが子供というものだ。
だからシャンクスは用意していたとっておきの切り札を披露する。
「まあまてお前ら。……そこでかわりといっちゃあなんだが、ルフィ!」
突然名指しされたルフィはおう!と元気よく返事をする。良くも悪くもこの少年は単純で、なにより素直なのだ。
「お前に俺達の船、レッド・フォース号を探検する許可を与えよう!」
もったいぶるように大げさにその権利を進呈する。いわれたルフィは飲み込めてないのかポカンとした表情だがやがて――。
「うっひょーーーー!! やったーーーー!! シャンクスの船に乗れるぞー!! ひゃっほーーーーう!!」
今まで何度も何度も船に乗せてくれとせがんでは駄目だと一蹴され続けてきたのに、思わぬところで望みがかない飛び跳ねて歓声を上げる。
そこにまったをかける一人の人物。ウタだ。
「ねえシャンクス……? 今までずっと断ってきてたのに急に許可するなんてどういうこと……? それに、赤髪海賊団である私には船を探検する許可も関係ないわよねえ……?」
自分の愛娘が初めて向けてくる冷ややかな目と口調に内心では大焦りなのだが、そこは大人の余裕でもってウタにも外での探検をあきらめざるを得ない権利を進呈する。
「まあ、ウタにとってはそうだな。だから! ウタには”ルフィに船を案内する権利”だ!」
な、悪くないだろ?と得意げな顔をするシャンクスだが、ウタは見知った船内の探検に魅力を感じないのか不服のようだ。
「あー、ちょっとわかり辛かったか。おいルフィ。ウタを説得するからちょっとまっててくれ」
「おう、いーぞー! でもなるべくはやくな!」
頭の中が船の事でいっぱいのルフィは満面の笑顔だ。これなら内緒話も聞かれないだろうが、一応用心してちょっと離れたところで声を潜めてウタを説得する。
「なあウタ。お前は当然ルフィより長く船に乗っているだろ?」
「そうね。でもそれが?」
「つまり、お前が”先輩”としてルフィに船を案内してやるんだ。年上のお姉さんとしてな」
先輩。年上のお姉さん。そのキーワードにウタの後ろ髪がぴょこぴょこ揺れる。
ここはもう一押しとばかりにシャンクスは続ける。
「船の探検を許しはしたが、正式な船員と認めたわけじゃない。いわばルフィは客人なわけだが、その客人を一人ほったらかしにするというのも……立派な海賊(おとな)のやることじゃあないし、俺としてはウタなら安心してルフィを任せられるんだが……?」
立派な海賊(おとな)。ウタな安心して任せられる。
ルフィに対して年上であること、姉であることをことあるごとに主張するウタにとってはまさに甘美なる悪魔の囁き。
「わかった、しょうがないからやってあげる!」
落ちるのは一瞬だった。我が愛娘ながら信じやすさはどうなんだと少し不安になるが、そこもまたウタの魅力の一つとして今は心にしまっておく。
「悪いなルフィ、待たせた」
「ウタは説得できたのか? なら早く連れてってくれよ!!」
戻ってきた二人の様子を見るに無事に話が済んだことをさっし、待ちきれないと言わんばかりに今にも走り出しそうだ。
「だーまてまて! 村の子供であるお前を海賊船に乗せるんだ。村長に事情を説明したりせにゃならんからついてこい」
「えぇー! シャンクスだけでいーだろそんなの!」
「そーいうわけにもいかないでしょ! それに、お泊りセットとか用意が必要でしょ?」
興味があるものができると突っ走るのは子供のいいところでもあり厄介なところでもある。
事前にある程度話は通してるとはいえ、その時に挨拶しないのは誘拐を疑われてもしかたがないから本人と一緒に村長に説明するのは必須事項なのでどうしたものかと悩むが……シャンクスの悩みはウタの発したお泊りという言葉であっさりと解決した。
「え? お泊りセットって……シャンクス達の船で寝ていいのか!?」
「ん? おう、いっただろ。村の人も見たこともない様な獣が出たかもって。お前は森の動物も殴り飛ばせるくらい強いが、それでも子供だ。俺の船で子供を保護するって意味でも、今回の探検許可ってわけさ」
この村には現在ルフィ以外の子がいないので、実質ルフィを守るためということだ。
それは村の大人達の愛情であり、大人としての務めでもあるのだが当のルフィ本人はというと……。
「子ども扱いするなよ!」
ご立腹である。
まあ、子供ってこういうもんだよなと思いつつ、それは表に出さずルフィをからかう。
「ぶぁ~か! どうみたってこどもじゃねーか!」
「ぐぐぐ、シャンクスー!」
「ねー。はやくしないと探検の時間減っちゃうよー?」
そんな子供と子供じみた大人二人に呆れながらウタが忠告する。
まったく、私が一番大人なんじゃないかしら。なんて内心思っているが、ルフィをおねーさんとして船内を案内することやルフィが船に泊まるという事で後ろの髪はぴょこぴょこ挙動不審だ。
大人なんて、どこにもいないのかもしれない――。
そんな、場面が場面ならシリアスになる台詞だが、ここは子供らしい子供が二人と大人げない大人が一人いるだけなのでシリアスでも何でもない。
諸々の準備を終え、レッド・フォース号に着いた三人だったが、船内に乗り蜘蛛時にも一悶着あった。
まず船長であるシャンクスが先に乗り込み後からくる二人を待っていたのだが……。
「船長のシャンクスの次は当然赤髪海賊団音楽家の私よね!」
といって梯子を上ろうとしたウタだったが、足をかけたところではたと止まる。
「? おーい、ウター? 早く上がってこーい?」
「ウタ、どうしたんだよ。早く上ってくれないと俺船にのれねーじゃん!」
シャンクスが姿を見せない娘を心配し、ルフィは後が使えてると催促する。それでもウタは動かない。いや、ちょっとぷるぷる震えている。
「……ねえ、ルフィ。ここは譲ってあげるから、お先にどうぞ!」
「え? なんで? そのままウタがあがればいーじゃねーか?」
一件尤もな意見を言うルフィだが、ウタにとっては尤もでも何でもなかった。怒りのあまり顔を真っ赤にして怒鳴り返す。
「うううウルサイ! バカ! エッチ! いいから! ほら、シャンクスまってるし!!」
顔が赤いのは怒りが理由だけではなさそうだった。
「えぇー……なんだよぉ……ま、いっか!」
「……空が青いなあ……」
そんな二人の微笑ましいやり取りを聞きながら空を仰ぐシャンクス。同年代の友人ができたことはいいのだが、こうした異性を意識した言動は心臓に悪い。
ウタが幸せであることが何よりも大事ではあるが、もし10年後等にウタが結婚しますとなったら……祝福はしたいが、複雑だなあ……と今から愛娘の結婚に気を重くする。そんなシャンクスを現実に戻したのは甲板に上り切ったルフィの叫びだ。
「おおー! ひれぇーー! これがシャンクス達の船かー!!」
「ふふん。そうでしょ、すごいのよこの船は!」
胸をそらし自慢げに肯定するウタもまた可愛らしく愛おしい。その宝物を守るためにも、自分にはやることがある。
「ようこそルフィ。歓迎するぞ、俺達の船、レッド・フォース号へと!」
シャンクスが少し仰々しく挨拶をするといつの間にか集まっていた船員達が雄たけびを上げて答える。
その怒号にも似た迫力にルフィも両手を突き上げ叫んでいる。
「じゃ、皆解散。持ち場に戻れよー。ウタ、ルフィの案内頼んだぞー」
先程までの盛り上がりが嘘のようにあっさりと解散して、シャンクスは桟橋に降りていく。
「ええっ、なんだそれ!? シャンクスは一緒に案内してくれねーのかよ! 船長だろ!?」
「俺は例の獣対策だよ。日ごろお世話になってるからなこういうときくらいは、な。案内ならウタに任せてある。何年もこの船に乗ってるベテランだぞ?」
「ルフィは私じゃ不服?」
「いや、そういうわけじゃないけど……いや、うん。よろしくな、ウタ!」
予想と違う展開にルフィは少々戸惑ったが、ウタが案内してくれるとのことで先程感じた不満は一気に消え去った。
そんなやり取りを見てシャンクスは思う。
ウタもそうだが、ルフィもルフィでウタという同年代の友人に対してだいぶ打ち解け仲良くしてくれている。
年の離れた男ばかりの海賊団の中に居ては、本来得られるはずのウタの幸せが遠いところにあるとどうしても感じてしまう。
なるべく早く彼女を表の世界に返してあげたいが、この時代は荒れている。
ここだという島を探しているうちに、彼女ももう9歳。とっくに離れがたい愛娘だ。
「いっそのこと、ルフィとこの村に残ってもらうのも手かなあ……」
この村はこの時代にしては平和な方だ。世界政府加盟国の領土ではあるが王国内では辺境だからか国家の手がほとんど入っていない。
ただ、ウタの人を惹きつける歌の魅力と才能を考えると……安心とは言えないだろう。ウタがその才能を伸ばしていけば天竜人が確実に目を付けてくる。歌を封印して生きろなど絶対に言えない。
それでは歌が大好きな彼女は半身をもがれたも同然だし、自分達も彼女の歌声が大好きだから気兼ねなく歌っていてほしい。
彼女が安心して歌っていられる場所を探し、そこで降ろす。別れはつらいが、彼女の幸せが一番なのだ。大人の自分達が我慢しなければならない。
「……しっかり探して、決めてやらなきゃなあ……」
愛娘の未来を憂う一人の父親の呟きは海の音にかき消され、誰にも聞こえない。
「いーい、ルフィ? まずは一通り案内するから、ちゃんとついてきてよね! 勝手にどっか行って迷子になっても泣いてもしらないよ!」
「俺は泣かねー! でも、ウタに案内してもらうの楽しみだからかってにどっかいかねえ!約束するよ!」
お姉さん然としてルフィを指導するレッド・フォース号先達のウタ。それに応えるルフィはワクワクが止まらないといった様子で満面の笑み。まるで仮面のようにニコニコが崩れない。
「……えいっ」
「にししし、なんだよー はやくいこうぜー!」
思わずその頬をつっついてしまうウタだが、ルフィは意に介さず表情も変わらない。
そのもちもち笑顔をしばらくつついていたいが、それで機嫌を損ねられたら色々勿体ないので案内を開始する。
「まずはここ! 待機所?っていうのかな。その日お仕事の当番がなくて暇な人が何かあった時すぐ動けるように居るところね」
「へぇー……戦闘とかなったらこっから出ていくのか!」
甲板から内部に入ってすぐ、狭くもなく広くもなくといった部屋だ。
誰かが遊んでそのままなのか、カード等のちょっとした小物が散らばっている。
「戦闘以外でもなにかあったら、ね。まあ大抵は外に出てる人がなんとかしちゃうから、遊んでることも多いけど」
まったくみんなだらしないなー、と言いつつ部屋を出て次の部屋へと向かうウタ。
「その次はこっち! ホンゴウさんの診察室! ……薬品とか器具とか、触ったら怒られるのあるから中には入れないけどね」
「ちぇー残念。……こっそり入ったら?」
自慢げに紹介されたものの、入っては駄目だというウタにルフィがバレなければ平気と提案するが……
「だ、ダメダメ! 怒ったホンゴウさんはほんとこわいよ……? いや、私が怒られたわけじゃないけど? 人の命を左右するもんをヘタに弄るな! ってすごかったんだから。……いやほんと、私じゃなくて他の船員さんが、だけどね?」
なんだか妙に自分ではないけどと繰り返すが、船医として仲間の命を預かるホンゴウの言い分は正しいものだ。特に、注意してなかったがために子供が怪我をして……なんてのは以ての外だろう。
人の命を左右する。その言葉の意味は、幼いながらもルフィはわかっていたのですぐに了解する。
「……そっか、そうだよな。わかった!」
わかればよろしい、と神妙に頷くウタは次案内する場所を思い浮かべニンマリと笑う。
「それでね、次はー……ふふふ、ルフィが一番気に入るんじゃないかしら? 食堂よ!」
「うおー! 広い! マキノんところよりひろいんじゃねーか!?」
「ふふーん。当たり前でしょ! 赤髪海賊団全員で宴してもまだスペースあるんだからねっ」
自分のステージも用意されてるため、ウタにとってもかなり上位のお気に入りスポットなのだが、それは言わずに案内する。
この広い場所で過去に幾度も繰り広げられたであろう宴を想像し、目を輝かせるルフィ。
「ちなみにあっちがキッチンで料理担当はルウがやってるよ。すごくおいしいんだから! 今夜はアンタの歓迎の宴かもねー」
「えぇっ、ほんとうか!? たのしみだなー肉」
「肉以外も楽しみにしなさいよ!」
その目の輝きの中に追加で肉が映えるが、そこはまあ、子供なのだから仕方ない。
「それでね、次はー……」
と、船内を巡っていく小さな二人は騒がしくも微笑ましく思い出を共有していく。
「はー、こんなにじっくり船内歩いたの久しぶりー!」
「ありがとなウタ! 楽しかったー!」
案内が終わる事にはすっかりと日が暮れており、あたりは青から夕陽の赤に染まっていた。
そんなルフィの横顔を見つめ、意を決して声をかける。
「……ねえ、ルフィ。最後に一か所だけ、案内してない場所があるんだけど」
「えっ、まだ知らないところがあるのか! すげーなシャンクス達の船は!」
「そう、すごいの。シャンクス達も、この船も。それで、今から案内する場所は私のとっておきの場所なの。だから」
ついてきて、と手を出すウタ。ルフィはその手をじっと見つめ……。
「ちょ、ちょっと! 案内してあげるってんだから早く繋ぎなさいよ!」
沈黙に耐えられずウタがツッコミを入れる。
「にししし、たのんだ、ウタ!」
そっと、だけれど力強くウタを手をつなぐルフィ。ドキドキしているのは案内と探検で疲れたからだし、顔が赤いのも夕陽が照っているせいだろう。
ルフィの手を引きウタが案内したのはレッド・フォース号の船主像。
「特別な場所ってここか?」
なるほど、船を正面から見たときにジョリーロジャーと共に目に入る船主像はいわば船の顔。特別であるといえよう。
だが、ウタにとっての特別な場所はそこではない。
「んー、まあ半分正解ね。こっちこっち」
手馴れた感じで船主像の上へと上り、ルフィを引っ張り上げるウタ。
「ここから見る景色が私にとってお気に入りなの。だから、ここがその特別な場所」
船主像をぺちぺちと叩くウタだったが、ルフィから返事はなかった。
おや? と思って目を上げるとそこには――。
「……すっげー……」
夕陽に照らされキラキラと光る水面、夕と夜が入り混じった空。その光景に目を奪われ、立ち尽くす友人の姿だった。
その感動を邪魔しないように、自分も一緒に楽しむように並び立つ。
聞こえるのはさざ波と、時折聞こえるのはどこか遠くの海鳥の声だろうか。
しばらくその心地よい静けさに身を委ねていたが、ルフィが興奮もひとしおといった感じではしゃぐ。
「すっげーなここ! ほんとすっげー……! ウタ、こんないいばしょありがとな!」
両手を握り上下に振る。ウタを振り回さないよう手加減されたそれだが、どうしようもなく興奮しているのが十分伝わってくる。
「きょ、今日はちゃんと案内されてたし、わた、私も、その。楽しかったから、そのお礼ってだけよ!っていうか落ち着いて、落ちたらあぶないでしょーがっ」
本当はただルフィとここから見る景色を共有したかったのだが、あまりにも喜んでいるのでついつい照れ隠しでお姉さんぶってしまう。
はしゃぐルフィの手を解き、先に行ってるからねーと降り始めるウタであったが、動揺が出たのか足を滑らせてしまう。
「きゃっ…… え?」
一瞬の浮遊感にぞわりとした悪寒が走り、何かに引っ張られたかと思ったら暖かい何かが自分の下にある。
「よ、よかったぁ~無事で」
その下にある、暖かくて柔らかい何かからルフィの声がする。
「な、なあウタ。悪ぃけどちょっと上からどいてくんねーかな……」
これはどういうことだろう。転んで怪我をするところだったが、たぶんルフィが庇ってくれて助かった。それは素直に嬉しいし感謝してる。
「う、ウタ? もしかしてやっぱどっか痛いのか!?」
でも、この、私のお尻に感じるこれは……?声のする方を見る。ルフィだ。心配そうな顔だが、私が動いたため怪我はなさそうと判断したのかほっとした表情をする。
うん、私のお尻の下にルフィが居る。
「な~ウタ~。そろそろ俺も起きあがりたいんだけどよ~……」
ボッ! と音と共に火が出てもおかしくない程一瞬で真っ赤になる。ウタ自身にもわかるほど顔が熱を持っていて、非常に熱い。
「あああうんごめんねルフィありがと! るルルフィこそ怪我してない!? ごめんね、重くなかった!?」
パニックになりそうながらも助けてくれたことへのお礼と、物理的に尻に敷いてしまったことへの謝罪。
せっかく共有したきれいな景色の想いでも残念な記憶が結びついてしまいウタはへこんでしまうが、ルフィはなんてことないという様子だ。
「俺は強いから怪我なんてないぞ! ウタにも怪我がなくてよかったー!」
「うん……。本当に、ありがとね。あ、お日様も全部沈んじゃったし、そろそろシャンクス達も返ってくるかも。夜ご飯……というか、宴だね!」
「シャンクス達、獣しとめたのかなー。その肉とかどんな味すんだろうなー」
想像だけで涎が止まらないルフィを気が早いっと窘めつつシャンクス達の帰りを待つのだった。
「それじゃあ野郎どもー! 今日はルフィのお泊りを歓迎して、宴だー!!」
船長シャンクスの音頭の元、男共の咆哮とグラスを突き合わせる音が響く。
ウタとルフィもそれぞれジュースを入れたコップをカチリと合わせ、仲良くおぉー!と大はしゃぎだ。
ルウの作る料理はどれも美味しいし船員達による出し物もルフィにとっては新鮮だ。ヤソップの何度聞いたかわからない彼の息子の話もなんだか目新しく聞こえ……たりはしなかったが、やはり船の中でという特別感は大きかった。
そうして宴もたけなわとなった頃にウタがステージに立つ。
手馴れた様子で場を整え、静寂になりその歌声をまつ聴衆達、そうして響くウタの歌声。
小さな彼女の、無限の広がりを持つステージが終わり――彼女をたたえる歓声や口笛がどっと沸きあがる。
いつも褒めてくれる皆に笑顔で手を振り、てこてことルフィの元へ戻ってくるウタは感想を求める。
「ど、どうだった? マキノさんのところとここでちょっと聞こえ方とか違うと思うけど……」
「……」
「……? ルフィ?」
ぽけーっとした表情でかたまるルフィをつんつんとつつくも、反応はない。
「……えいえい」
反応がないならばと頬や腕やらつんつんしまくっていると、我に返ったルフィがウタの手を掴む。
「ひゃわっ!? え、なにどうしたのルフィ?」
「やっぱウタの歌ってすっげー!」
初めて彼女の歌を聞いた時同様、感動に脳と体が置いて行かれていたようだ。
それが追い付いた今、全身で感動をウタに伝えてくる。
「あ、うん。ありがと? そ、そんなに喜ばれると、ちょっと……恥ずかしいね? えへへへ」
シャンクスや他の赤髪海賊団の皆、村の皆にも褒められることはあるし、素直に嬉しかった。
ただ、自分のホームたる赤髪海賊団の食堂兼宴会場。そこで歌った歌をルフィに褒められるのは、それらとはまた違ったこそばゆさというか、何か別の感情が湧き上がってくる。
「ね、ねえルフィ。ちょっと二人で外……」
そのトクントクンとした温かい気持ちのままルフィと満点の星空を見たいと思い提案するが、ルフィは眠くなってきたのか頭がカクンカクンと揺れ動いている。
さっきまで普通に動いていたのだが、子供特有の電池切れだろう。
「もーしょーがないなあ。まあ、結構船の中動き回ってたしね……しょうがない、か」
星空は惜しいが今日しか見られないわけじゃない。また今度誘えばいいと思いないし、シャンクス達に声をかける。
「ねー。ルフィもう眠いみたいだから連れてくよー?」
「なぁにぃ~? もうお眠だぁ~? だっはっはっはっ、まだまだガキだなールフィは!」
すっかり出来上がっている、大人げないシャンクスがそこに居た。……これではまた酔っぱらって裸で寝るコースかな。
「はぁ……それじゃあベックマン、私達もう寝るからね。ちゃんと伝えたよ! ……あと、どうせ止まらないだろうけど、シャンクス達にもほどほどにねって」
「おう、おやすみウタ、ルフィ。……まあ努力はするが、お頭はとまらんだろーな」
そうよね……。そうだな……。そんな無言の諦めを目で共有し、ウタとベックマンは別れる。
「ほらー、ルフィー。もうちょっとでベッドだから歩いてー」
「おー……うん……まだ肉くえるぞー……」
もごもごと口を動かしながら寝ぼけた返事をよこすルフィにやれやれと呆れるも、煩わしいとは全く感じられない。むしろ、可愛らしいと感じてしまう。
「ふふ、あの時は頼りになったのに」
そうして寝室にたどり着き、ルフィをベッドに転がすウタ。
唯一の女の子だから、という事で特別に設えられたウタの資質だ。
思いついた曲を書き留められるように机と楽譜やインク等もあるし、作曲途中の歌を気軽に練習できるようにちょっとした防音も施されている。
「……うん、皆宴に夢中だし、ここは音は漏れにくいし……チャンス、よね」
部屋の扉を少し開け、周囲を伺うウタ。食堂からはいまだにはしゃぐ皆の声が聞こえてくるし、近くの部屋に誰かいる気配はない。
自分の部屋以外は結構物音がもれやすく、また船員はたいていいびきをかいて寝ているので何も聞こえない以上は誰もいない。
「……それじゃあ、お邪魔しま~す」
ベッドに転がして毛布の中に放り込んでいたルフィの隣にもぐりこむ。
「んへへ……温かい……」
隣にいるルフィの温もりを感じ、ご満悦のウタ。
だが、目的はそれだけではなく……
「ん、しょ……ふふふふ」
おもむろにルフィのズボンの中に手を入れ、彼の陰茎を握る。
そのぐにぐにとした感触を楽しみつつ、握っては離し握っては離しを繰り返していると……。
「あはっ♡硬くなってきた……よ~しよし」
自分の手に反応するソレにいたく満足しているとルフィが目覚めてしまう。
「なんだよウタぁ~……」
普通であれば年下の友人の寝込みを襲っていたと本人にバレたら憤死ものだが、ウタは冷静だ。
「あ、ごめんごめん起こしちゃったね。そのまま寝ててもいいけど……どうする?」
ある時をきっかけにしてこの二人はひそかに"そういうこと"をする仲になっていた。
「したい……けど、ねむぃ……」
ルフィはちゃんと起きていたしたいようだが、眠気というどうしようもない魔力に抗えないでいる。
「んー……してたら目が覚めるかもだし、なんなら寝ちゃってもいいよ。今日は、私がしてあげたい気分だし」
「やだ……おれも……ウタ、を……」
「ふふ、あんまり無理はしないでね。」
どうにか眠気を振り払い応じてくれようとしているが、ルフィの年で一度訪れた眠気を振り払うのは尋常じゃないだろう。ウタ自身は彼が眠ってもしょうがないと考えているので、優しく手でこすっていく。
「ほ~らほらルフィ~、気持ちいでしょ~。ゆっくりと力抜いて~」
耳元で囁きながら扱く。ウタが喋るたび耳に吐息がかかるのか、それとも下からの快感ゆえかルフィはぴくぴくと体を震わせる。
「んぁ……む……ちゅ……」
眠気に抗いつつも快感に身を委ね脱力するルフィがかわいく、またとても愛おしくキスをする。
これまで何度も唇を重ねてきたのでディープキスもとっくにしっているのだが、今はルフィが半分寝ているので念のためしないでおく。
寝ぼけて噛まれたら痛いじゃすまないのだ。
そうしてしばらく唇と手に感じるルフィを堪能しているとルフィがビクリッと体を震わせる。一度目の絶頂だろう。
「ふふ、気持ちよかった~?」
今日も自分の手でルフィをイカせた。その事に充実した感覚を得るウタが優しくルフィに問いただすも、ルフィの返事はあやふやだ。
「ぅん……うたぁ……おれ、も……」
おれも。の後はなんと続くはずだったのかはもうわからない。
もともと眠かったのもあるだろうが、絶頂による疲労感がとどめになったのか完全に寝てしまったようだ。
「ふふ、今度こそおやすみ、ルフィ。……私は、もうちょっと味わっちゃうね♪」
気分が乗ってしまったウタはとまらない。そのままもぞもぞと毛布の中にもぐり、ルフィのモノを口にくわえる。
「ほーいうほひほほふぇんひゅうひょ」
口にくわえたままもごもごと喋り、頬の内側や舌で舌と顎の間などでなぶっていく。
「……♪」
その刺激を受け早い復活を遂げたことにご満悦のウタはさらに攻めを継続してく。
最初はチュルチュルレロレロといった比較的可愛らしい音だったが、今ではジュルジュル、ジュポジュポとかなり卑猥な音が響ている。
唾液で濡れるそれの根本は指で作った輪で細かく上下に動かし、他の部位には舌を這わせ、時折甘噛みする。
口で感じるその感触は病みつきで、より一層激しい口淫へと発展していき……そろそろかな?と感じたウタが縊れ部分を唇で挟み込み、先端を舌でべろべろと舐めた瞬間ルフィの腰がまたもや震える。
本日二回目。
いつもより短いペースで果てたのはレッド・フォースでの情事だからだろうか。それとも、ウタの自室という状況だからだろうか。あるいはその両方?後者だけが理由だったらいいな、とウタは思う。
もしも逆に自分がルフィが普段寝ている場所でするとなったら……やっぱり、いつもより早く達してしまうだろうから。
「ふぁ……私も、ねむくなっちゃった……」
ルフィの下半身と自分の口や手を綺麗に後始末してから改めてルフィの隣にもぐりこむ。
すかーくかーと静かな寝息を立ててルフィは寝ている。
「おやすみルフィ、またあした……」
そのルフィを胸に抱きながらウタも眠りにつくのだった。