慰労会

慰労会


「~~あなた達のこれからの活躍を祈って乾杯」

「「「「カンパーイ!」」」」

形式だけの短い挨拶が終え杯を掲げるとみんなも合わせてくれる。

勤労感謝の日、本来タレントには祭日など関係ないのだけれど

偶然子供たちも、有馬さんとMEMも仕事が入っていなかった。

そこで慰労会というと大げさだが、事務所で簡単な懇親会を開く事になったのだ。


「いつ以来だろ、全員同じ日にオフなんて」

「有馬の卒業ライブ以降だと初めてじゃないか?」

「でも良かったんですか、私たちまで読んでいただいて…」

「そうですよ、こう言うのって家族水入らずの方が…」

有馬さんとMEMが少し申し訳なさそうに聞いてくる

「いいのよ、あなた達はいちごプロの大切なタレントだし、何よりあの子達だって貴女たと一緒の方が嬉しいでしょう。

出来合いのケータリングしか無くて申し訳ないけど、楽しんでちょうだい」

実際ルビーは2人によくなついているし、アクアは有馬さんがいると普段が嘘のように多彩な表情を見せる。

この2人は、子供たちに取って掛け替えのない存在だ。…親として少し嫉妬してしまうが。


「ほら先輩、MEMちょ早く食べようよ、七面鳥の丸焼きなんか初めて見たよ!」

「有馬取り分けてやる、ももと胸どっちがいい」

「…ほら、呼んでるわよ。遠慮しないで楽しんできなさい」

「「はい、ありがとうございます。」」

一度楽しむと決めたら後は早いようで、4人とも楽しく騒ぎながら食事を始めた。

この光景を見れたのだから、十数年の子育てが報われる思いだ。


「…じゃあ後は楽しんでね。私は奥の部屋で仕事してるから何かあったら読んでちょうだい」

「え、ミヤコさん仕事有るの?せっかく久しぶりに家族全員でご飯食べられると思ったのに…」

「手伝おうか?」

「ごめんなさい、今日中に片付けないと行けないのよ、まあ難しい事は何もないから、あなた達だけで楽しんでちょうだい」

……嘘は言っていない。

経理の仕事なんて難しい事は何もない。

とは言え月末が近いこの時期に貯めこんだ量は洒落にならないが……楽しむ若者達の前で泣き言を言うのは野暮だろう、

少し心配そうな目で見る4人達を残して、奥の部屋に引っ込んだ



……数時間後


ふと仕事の手を止めて時計を見ると

もう21時を過ぎていた。

「さすがにお腹がすいたわね…」

まあ、もう作業は殆ど終わったし、残りは明日空いた時間でいいだろう。

もう食べ物は残って無いだろうが、買い置きの何かは有るだろう

そう思って席を立とうとした時、ノックが聞こえた

「社長、今いいですが」

「いいわよ、有馬さん」

返事をすると、手にお皿を持った有馬さんが入ってくる。


「お仕事どうですか?」

「ちょうど終わりにする所よ」

「あ、ちょうど良かったです。余り物で申し訳ないですけど…」

差し出してくれたお皿には十分な量の料理が綺麗に盛り付けられていた。

2本しかないはずの七面鳥のもも肉が乗っているので

余りではなくわざわざ取って置いてくれたのだと分かる。


「ありがとう。…向こうはどうなってるの?」

「あー…

 実は、騒いでたルビーが急に寝ちゃって小休止です。

 やっぱり疲れてるんですね。」

一時期よりは大分マシになったとは言え、今でもルビーはこの事務所で一番忙しい。

それに楽しむ時も一番全力を出す。

急に充電が切れるのはいかにもルビーらしく思えた。

「そう…面倒をかけるけど、これからもよろしく頼むわね、ルビーのことも……アクアのことも」

「い、いえ面倒なんて… むしろ私の方が迷惑掛けてるというか…」

焦って否定する彼女をみて少し悪戯してみたくなる。


「…そうね、一度物凄く迷惑掛けられた事も有ったわね」

そう言うと瞬間的に彼女の顔から血の気が引く。

「あの時は…その……本当に申し訳有りませんでした…本当に私どうかしてて…」

「…冗談よ、気にしていないわ」

罪悪感一杯の顔に直ぐに白旗を上げる。

もしこれが演技なら、まさに天才役者だ。

「あなたが、普段から頑張っている事はみんな理解しているから」

「…ありがとうございます。」

「でも、今度何か有ったら早めに相談して頂戴ね」

「は、はい。事務所に迷惑かけない様にすぐに相談します」

「もちろん、それも有るけれど…」

ここで彼女に目を合わして

「あなた、私の娘になるのでしょう?」

「へ……?……//」

一瞬きょとんとした顔が意味を理解して真っ赤に染まる。

「む、娘だなんてそんな…」

「あら…、アクアの事は遊びだったの?」

「あ、遊びじゃないです!

私はあーk…アクア君の事が真剣にす、好きなんです!!」

「なら、娘になるんじゃない。

あの子たちは中々甘えてくれないんだもの、あなた位からは甘えて欲しいわ」

どういう感情なのか赤くなったり、白くなったりを繰り返す顔を見ながら言う。


「一時期壊れそうだったアクアはあなたのお陰ですっかり元気になった。

ルビーだって本当の姉の様になついてる。

あなたになら、あの子達を任せられる。

「……ありがとうございます、社長

私頑張ります、役者の事もアクアとルビーの事も」

「よろしく頼むわね。… それはそうと、娘になる子で今日はオフよ。社長は無いんじゃないかしら?」

「へ…、えーとじゃあ、お義母さ……

ごめんなさい、まだ恥ずかしい…せめてミヤコさんで…」

「…まったく、うちの子達は誰もお母さんって呼んでくれないわね」

言って軽く笑う。

つられたように有馬さんも笑った。


「さあ、せっかくお料理持ってきてくれたんだし頂きましょうか。折角だからあなたも付き合って頂戴」

「あ、はいお付き合いします」

「そうね、ついでにお酒も少し飲んじゃいましょう」

そこで少しだけ笑ってこう言ってみた

「冷蔵庫にビール有るはずだから取って来てもらえる?…かなさん」

「…は、はい!」

また真っ赤になって部屋を出ていく新しい娘に笑みを浮かべる。

この後はアクアの子供の頃の話をしてやろうかそれともルビーの失敗談か。

いや、いっそ現役時代の男を落とす悩殺法を伝授してアクアにやらせてみようか。

表情豊かな顔を想像すると、年甲斐もなくワクワクしてしまう。

その夜、新しい母と娘との会話はかなり遅い時間まで続いたのだった。


……後に悩殺法を試みた結果、両者真っ赤の相打ちで終わった現場を

ルビーとMEMが目撃するが、それはまた別の話。


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