慟哭Ⅴ:手紙の中の王子様(ChapterⅣ)

慟哭Ⅴ:手紙の中の王子様(ChapterⅣ)

名無しの気ぶり🦊

「ァアアッ!!」

「こんな虚仮威し、全部僕が釣り上げてやる!」


ダンクルオステウスが鱗かジャマト特有の植物か分からない棘状の物体による会場内の床全てを埋め尽くさんばかりの巨大刺突攻撃をかましてくる

しかしそうはさせまいとキューンに跨ったネーレ/シュヴァルがフィールドを駆ける。

レイズライザーロッドモードから放たれるアンカー付きの光糸が広く円形に渦を巻くように意識した疾走によりフィールドに敷くことで棘を出る側から釣り上げていく。

キューンと似た者同士であることや密かにフィッシャーとして慣らしたのがこのタイミングで活かせているのは行幸と呼ぶほかなかった。


「シュヴァルちゃん…うん、こんなもの!」

「はっ!」

細かく棘を避けながらそれを横目に目撃したナーゴ/祢音はその勇姿にやる気倍増、ブーストで疾走からの、膝スライディングでジャマトライダー/ダンクルオステウスジャマトに勇猛果敢に迫っていく。


「「逃すかアッ!!」」

「アガッ⁉︎」

『TACTICAL FIRE』

「ハアッ!」

「ェア゛ッ⁉︎」

それを見ればこちらもやる気倍増。キューンは変わらずカード型のプレートで、シュヴァルはレイズライザーの光糸でかく乱。

次いでキューンはプレートの一部と、シュヴァルは光糸先端の今回はサイズを上げた錨型のアンカーで即時的な祢音の足場を作る。それを祢音も見逃さない

差し出された足場に跳び乗り『タクティカル・ファイア』でダンクルオステウスに一撃。

この間、数秒にも満たず。素早く大ダメージを叩き込んだよ


「乗れ!」「祢音ちゃん!」


とどめに二人して祢音をキューンの背に乗るように促す。祢音のほうもそれを快諾、すぐに跳び乗った。


「「これを!」」

「…うん!」


『『SUPPORT MODE』』

『BOOST TIME』


そのままレイズライザーを祢音に手渡す、トドメは今回一番苦しんだ彼女に刺してほしいというキューンとシュヴァルなりの気遣い。

それを戦闘中の短い時間ながら確かに感じ取った祢音は二つのレイズライザーのサポートモード、そしてブーストバックルの必殺技モードを起動。


「祢音ちゃん、これで決めよう!」

「じ、自分が武器に変形したあっ!!??」


ベロバが驚いたことから分かるように、その瞬間二つのレイズライザーがシュヴァルを中心にして光り輝き、後に残されたのは穂先が延長可能な長槍、さながらレーザーレイズライザーランスモードでサブサポーターネーレランスモード。シュヴァルを意識してか釣り竿のように最先端に東西南北に短く伸びる鉤爪が付いている。カラーリングは黄色と青と白、キューンとシュヴァルとレイズライザーを意識したものだ。

動物への変形や巨大化がレイズライザーで可能ならば、武器への変形も可能だろうと、なんならサポーターと呼ばれる者達のイメージを合わせれば一人で組み上げるよりも強固で強力な変形もできるだろうと短い期間の使用ながらシュヴァルには思えたのだ。

彼女もまた、ここまでの日々で確かに精神的な成長をしていた。


「えいっ!」

「ア゛ッ⁉︎」


そのままレイズライザーランスモードを勢いよく振り回しその先端部分を引き延ばし、前方に待ち構えるダンクルオステウスの少し前に突き刺し、そこに潜んでいた実在したダンクルオステウスを模した巨大な化け物を勢いよく引き摺り出す。

自分が潜むことは隠し球としてもう使えない都合上、新しい隠し球としてそのジャマトでも一二を争う獰猛な頭脳を働かせダンクルオステウスジャマトが考えた。

ゆえにお披露目するより先に暴かれたことに原始的な驚きを見せずにはいられない。


『LASER CHARGE』

『BEAT BOOST GRAND VICTORY』

だからか開き直ってそのまま祢音・シュヴァル・キューンのほうに直進を始める。どちらが勝つにせよ、もう試合の先は長くないという自覚もそうさせた。

祢音の側もレイズライザーランスモードは本来必殺技発動に伴う副次的なシュヴァルの形態だという認識があるからか直後に短く響いたレーザーチャージとビートブーストグランドビクトリー、即ち二つの必殺技の音声に合わせるようにキューンに乗ったまま駆け出す。


──────ハアアアアアッ!!!!!」」」

「ッ! ァアアア゛ア゛ァッ!!!!」

両者が近づき、ゆえに互いの全力を振り絞る有様を示すようにかたや一体の、かたや三人の雄叫びが短くも確かに大きく響きあい──────


「ァ…アッ…!」


──────結果は見ての通り。

撃破まではいかなかったが、必殺技発動による超加速と威力上昇のまま祢音・シュヴァル・キューンの三人が直進し突き抉ったことでダンクルオステウスはジャマトライダーへの変身解除はもちろん、全身に大ダメージが奔りぼろぼろ。右腕周辺を失い倒れ、そのまま地面に潜りどこかへ逃げ去った。


「はあっはあっ…うっ⁉︎」

「祢音⁉︎」

「大丈夫、祢音ちゃん…⁉︎」


ただし全身に大ダメージが奔っているのは祢音も同じ。体力的にも精神的にも限界だったようで気を失ってしまう。もちろんキューンとシュヴァルもそれは戦いだした時点で理解していたが、いざ目にしてしまうと予想通りという安心感よりやはり怖さが勝ってしまう。その意味でも二人とも推しが大好きと言えた。


「引き分けか。勝負はお預けのようだね」

 「…でも良かった、祢音さんが立ち直れて」

(…つくづく悪行に向かない性格だよね、コパノさん。まあ僕から突き放すつもりはないけど)


試合自体はドロー。

ダンクルオステウスに重傷こそ確かに与えられたものの生死を別つような一撃とまでは行かず、結果取り逃し勝ち負けをはっきりさせられずに終わってしまったことに変わりはない。

それを大智もリッキーも理解していた。

ただしリッキーは未だに抱く人並みな罪悪感ゆえに今回の祢音ちゃん精神的な成長は喜ばしく、それを見ていれば悪人には決してなれない性格だと大智は感じた。

そして二人とも、試合が終わったということもあって拘束する意味はないと判断したからか景和とダイヤが閉じ込められた檻の鍵を檻の前、それも檻の隙間から二人がちょっと手を伸ばせば届く程度の位置に落としどこかへ姿を消したのだった。


「良かないわよ! ちっともゾクゾクしない!」

「ジャマグラ終了までデザグラとジャマグラに関する一切の情報のあらゆるパターンでの開示を強制的に禁じたうえで自宅拘束よ!」


「今回はキューンもよ!」

「「「うっ⁉︎」」」


後に一人ジャマトグランプリ側で残ったベロバはいたって不機嫌だった。まああれから試合に関して自分の思い通りになることは何一つなく第三試合を終えることとなってしまったのだから。

ゆえに、引き分けだった場合にルールとして設定していた処置を双方に、今回の場合はキューンも含めてヴィジョンドライバーを介して瞬時に課すことでせめてもの憂さ晴らしとした。

ちなみに措置を受けたこと自体には自覚的になるものとなっている。


「…気にするな、どうせこれ以上不幸に なりようが無いんだ。あとは幸せになるだけだろ?」

「キューンさん、相変わらず言い方…」


ヴィジョンドライバーによる措置の痛みは一緒。すぐ麻痺が解けたがゆえにキューンはとりあえず祢音を励ますことにした、まあシュヴァルの反応からも分かるように推しの前だとぶっきらぼうで辛辣な言い回しになる癖が出てしまったが。


「⁉︎ あっいや、今のは祢音を傷つけるつもりじゃなくて…」

「…二人とも、ううん、ここにいないシーナちゃんもブロスちゃんも、英寿もキタちゃんも…ありがとう」


「え?」

「本当のことを言ってくれて」


もちろんすぐ気づいたし、邪な意図は無いとすぐさま訂正もしたが。

とはいえそれで特に祢音が精神的ダメージを負うことはなく、それはもちろんキューンの癖を理解した後であるがゆえ。

今はただ、今回自分を立ち直らせるために奮闘してくれたあらゆる人々の善意が嬉しくてしょうがなかった。自分が他の誰でもない鞍馬祢音として生きていていいと思わせてくれたから。


(…今しか、ないっ!)

「祢音ちゃん……あのっ!」

「何、シュヴァルちゃん?……ってあっ!」


そしてシュヴァルもまた。

この状況を喜ばしく思うがゆえにある行動に移ることとした。彼女にとっては先程までとはまた違う意味で勇気を出せるイベントを。

祢音もそれが何なのかすぐに理解できた、自分に決して無関係ではないイベントだから。


「ベロバのせいで渡すのが一日遅れになっちゃったけど…お誕生日おめでとう!」

「これは…マリンちゃんとナーゴをイメージした指輪!」

そう、誕生日プレゼント。

ベロバの悪趣味なサプライズスクープのせいで中断されることこそなければ祢音の誕生日プレゼントとして彼女に渡すはずだった指輪、それもこの一年近く、こっそりお小遣いを貯めて数ヶ月前に知り合いの職人に依頼し制作してもらったものを渡すこととした。

シュヴァルの好きなマスコットキャラのマリンちゃんと仮面ライダーナーゴフィーバービートフォームをイメージしたものとなっている。


「使わない時はキーホルダー用の留め具に繋いでもらえれば…あっいや使わないことのほうが多いよね、ごめんなさい…」

「急にいつものテンションに戻ったな…」


万が一日常で指に嵌めて使われない場合に際しての対策もしっかり想定して制作してもらった。まあシュヴァルの性格上使われない場合のケースばかり強くイメージしてしまったが。


「……ありがとおお!」

「わわっ⁉︎」


「すっごくすっごい嬉しい…! …うん、シュヴァルちゃんが付けたい指に嵌めてくれない?」

「えっ僕う⁉︎」


無論祢音はそんなことはなく。ただひたすらに嬉しかった。彼女と出会ってから今年に至るまでの毎年、シュヴァルに誕生日プレゼントをもらっているはずなのに、不思議と嬉しかった。

いや、実のところ不思議ではない。

この状況がいかにしてもたらされたを思えば必然的で、しかしそれを気にさせないほど嬉しかった。

なのでこの場で贈り主である自らの幼馴染で親友で担当な彼女の手で嵌めてもらうことと決めた。もちろんシュヴァルは動揺してしまう。


「君の贈り物だろ、さっさと嵌めてあげなよ」

「うっ、うう……………わ、分かった! じゃあ左手の薬指に…君の願いが、叶うように…!」


「わあ…! うん、ありがとう! ぜったい、ぜったい、叶えてみせるよ、私の願い!」

「…うん、叶うよ、きっと! 僕も側でこれからも支え続けるからっ…!」

けれどキューンのツッコミで無理矢理だが冷静に戻り、もし自分で嵌めるならここと決めていた左手の薬指に嵌めてみせた。

その場所は、この指輪に限らず指輪を嵌めた場合に嵌めてくれた者と愛や絆を深める位置として、何より願いごとを叶える位置とされていてだからそれを令嬢として、一人の人間として聞き齧っていた祢音はそれはもうトプロのように言えばすごくすごい嬉しく、必ず本当の愛を手に入れてみせると改めてシュヴァルに誓う。

もちろんシュヴァルもそれが本当に我がことのように嬉しく、こちらも改めて祢音を側で支えていくと当人に誓うのだった



「なんかジャマトが急に逃げていったので!」

「来たぜ、無事で何よりだ」


「一緒に帰ろう。 祢音ちゃん」

「立ち直れたようで良かったです!」

そこへ英寿・キタサン・景和・ダイヤが合流。

四人とも三人の邪魔をしないようにと先程からの流れをしっかりと見届けてから入ってきたわけである。

皆一様に、祢音の再起が無事現実のものとなったことをキューンやシュヴァルと同じように喜んでくれていた。

そのうえで帰ろうと告げてきた。


「ありがとう。でも、私には帰れる場所なんて無いよ…」

「…うちに来る、祢音ちゃん?」


しかし祢音にはその気持ちだけでいっぱい。というよりは仮にも過去一番と間違いなく自分で言えるほどに厳しい形で鞍馬邸を飛び出してきてしまったのでその言葉に素直に甘えることはしたくなく。

けれどもそれを放っておくことは景和でなくてもできず、そんな折にシュヴァルはまたも勇気を出してグラン家に来ないか相談した。

もちろん最後には一人暮らしを始めるかもしれないことは想定しているが、ならばそこまでの準備は手伝いたかったというわけである。


「(シュヴァルちゃん…)…うん、そうだね。やっぱりそれがいいのかな。じゃあ…よろしく!」

「新生活の始まりですね、わっしょーい!」


「わわっ⁉︎」

「き、キタさん⁉︎」


その気持ちももちろん嬉しく、何より先程から自らの幼馴染で親友で担当な彼女にときめかされっぱなしということもあって今度は素直に皆の、正確にはシュヴァルの申し出を祢音は受けることとした。

それを見ていたキタサンはそれが我がことのように嬉しく思った衝動から祢音とキタサンを持ち前の怪力でお手玉でも扱うように軽々と腕と尻尾で胴上げ、二人も嬉しくも驚かされるのだった。


「眠っちゃダメだ! 眠っちゃダメだよーっ!」

 「あちゃー、これは重傷だね…祢音さんの決意の賜物だ…」


「リッキーちゃん、落ち着いてる場合じゃないよ! ああダンクルオステウス!  今…今、助けてやるからな!」

その頃ジャマーガーデンではアルキメデルが

ダンクルオステウスに水をかけて何とか命を繋ごうとしている。

リッキーはそれを横目に見つつ、まだジャマトという生物への愛着はそこまで無いからか助かることはないだろうという予想に辿り着いていた。アルキメデルはそれを聞いてなお助けようと慌てふためくことは変わらない。


「あっ♪」

「とっておきの肥料だァッ…♪」


「えっ……ええッ!!??」

(ま、まさか…⁉︎)

だからだろうか、普段なら決して思いつくはずもない解決策にも脳が目を向けてしまったのは。

その場では切りはしなかったが、自分の腕を見たアルキメデルは何かを思いついたように楽しげにそこに軽くノコギリを当てる。

そのある意味で健気で、またある意味で悍ましいまでの狙いになんとなくだが気づいてしまったリッキーはそれが現実のものとならないように願うしかないのだった。


「ベロバ。なぜ君は鞍馬祢音のスクープを知っていたんだ?」

「そうね、知るチャンスは無かったのにあらかじめ知っていたような発言…何をしたの?」


大智は祢音の正体の情報をなぜ知っていたのかとベロバに尋ねる。一見すると無関係というか少なくとも彼女が知る術は無いように思える他所のスポンサーの家族事情、なぜ知り得ているのかどうしても気になってしまう。


「フフフ…知ってたのは私じゃなくて、それよ♪ そのドライバーは、歴代のゲームマスターが見てきたあらゆる記憶を宿す、真実の目」


するとベロバは知っていたわけではなく、ヴィジョンドライバーから情報を得たのだと言う。

ヴィジョンドライバーは指紋認証式かつデザイアグランプリのプロデューサーとゲームマスターしか使えない代物ゆえに翻って歴代のゲームマスターが見た記憶を保存することが可能、言ってしまえばベロバの言うように『真実の目』とでも呼べる機能があった。


「ヴィジョンドライバーが?……でも原來係咁。言われてみれば女神にアクセスできる機器、確かにできなくはないのかな…」

「これはこれは…興味深い♪」


そう言われてしまえば確かにとなるところがクラウンと大智にはあり。

未来人が生み出した神にアクセスできる一品、となれば特定の人間の記憶を複数人ぶん宿すことぐらい、転じてそれを別の人間に見られるようにすることぐらいは確かに造作もないのだろう。

二人してそんな結論が浮かんだ。


「──────くだらないな。ベロバ、お前とはもうやってられない。ここまでだ」

「…でもそうね、それを理由にやったことが姑息な暴露や余計な茶々、しかも余さず失敗してれば世話ないわよ」

けれど、それを使って実行したことが悉く陰湿でくだらないもので、しかもそれら全てが最終的に失敗に終わってしまっている。

ならば道長とクラウンがベロバの精神面での底を見たような気になるのも無理からぬ話で。それだけベロバという女は隙を誰彼問わず晒していた。


「⁉︎ まっ、待ちなさいよ! クラウンはともかく、ミッチーは知りたくないの、ギーツの弱点?」

「!……」


そのままヴィジョンドライバーを持って去ろうとする道長とクラウンをベロバは引き止める。ジャマトグランプリ側の戦力としてはベロバが最強だが、だからこそ道長に対して向ける感情は推しと接する際のそれで。

ゆえに焦ってそんなことを口走った。道長には決して無視できはしない、そんな情報を仄めかす。

もちろん道長もそれに足を止めた、合わせてクラウンもだ。


「特別に見せてあげるから」


「これは…?」

「ヴィジョンドライバーが見せている記憶…?」


ベロバさんは英寿の弱点を見せると言って道長にヴィジョンドライバーを装着させ指紋認証装置であるバイオメトリクサーを押し、ある記録映像を宙に浮かび上がらせる。


「そう。歴史的瞬間よ」

「歴史的瞬間…どういうこと…?」


ベロバがそう告げクラウンがその発言にそんな疑問を返した直後、空間そのものが切り替わって、再現される過去のゲームマスターの記憶。


『女神となれ…ミツメよッ!』


「──────ん? 待てよ、ミツメ…?」

「そう、ギーツの母親こそが創世の女神よ♪」

そこで繰り広げられるのは創世の女神誕生の場面。仮面の男は『奇跡の力』とやらを宿したらしいミツメを、数人の未来人と取り囲みながらヴィジョンドライバーを使い荘厳な雰囲気の石像、即ち創世の女神に造り替えてしまった。

こうして創世の女神は造られたというわけで。そして道長はその名に覚えがあった。この陣営に与したばかりのころ、英寿の母親だということも含めてベロバが語っていたのを覚えている。


(あ、哎呀…女神、女神なんてなんて名ばかり…こんな、こんな蛮行…許せるわけがない!)

「…でも、なにか理由があるのかしら…いやでも…?」


対してクラウンはそりゃもう名前に覚えはあったが、そんなことより目の前で再生されている出来事の非道さに目を疑った。

神とは名ばかり、実際のところは英寿の母であるミツメをこの仮面の男が神のような石像に変えたことが事実で、ともすれば彼女を歴代デザ神の願いの成就やデザイアグランプリの秘密保持のために酷使している可能性も高いのだから。英寿自身が母を痛めつけているとさえ、会えなくしているとさえ定義できなくもないあたり本当に衝撃的な映像だった。


「…♪」

(ふふ、いい感じに混乱してるわね。ただ事実を見せただけでこのありよう…ついでにあれも見せてやるか♪)


「ねえクラウン、あんたこんなことで驚いてちゃキリがないわよ。これを見たなら…ね♪」


ベロバはそれを見てほくそ笑む。

道長を引き止めるために起動させたこの記録、ただそれはそれとして自分がどうにもウマが合わないこの女にまた嫌がらせをしてやれないものかと最近考えていて、今回それが結果的に実ったのだから。

そして少し高揚した気分のまま、ベロバはさらに別の映像を再生する。ともすればクラウンにはこちらのほうが衝撃的に思えるだろうそんな映像を。


『ウ、ア、アアあああゝ嗚呼ーーーーーッ!!!!????』

『ほう、ガタがついに来始めたか。…‥‥む?なんだ、このウマ娘の赤子は?』

『おぎゃあおぎゃあ!!』


「⁉︎ も、遊得傾(あり得ない)…あり得ないわ、まさか、そんな…」

「幼いながらも聞き覚えがある…⁉︎ そうか、じゃあこいつは…」

切り替わった瞬間に流れ出す慟哭する女神、いやミツメ。それを見る仮面の男はどこか人ではなく物を見るように冷徹な雰囲気を放っていて。

いや、そんなことより驚かされたのはミツメの苦しむ様に合わせて彼女の目の前に生成されたウマ娘と思わしき赤子。まだ毛も生えていないその子になぜかクラウンは見覚えがあった。彼女もよく知る仲のいい誰かに。

道長も同様で、自分の予想が当たっていることにここまで驚くとは思わなかった。


「ああアア────

『消えた…いやなるほど、誤作動ついでにギラギラを消費して無造作に願いを叶えたというわけか。それも現代換算で約一年後の未来を確定させるタイプの』


その間も映像は続く。仮面の男の前に突如現れたウマ娘の赤子はすぐさまその剥き出しの体を丸ごと、ミツメによりどこかへ飛ばされてしまう。これを男は長い間願いを叶え続けたことによる老朽化が引き起こしたバグにより無造作に叶えられた願いの具現化、それも赤ん坊が生まれるまでの約一年を確約するものと解釈した。


「ちなみにこいつはスエル、デザイアグランプリのエグゼクティブプロデューサー…名誉会長みたいなもんよ」

「んなことどうだっていい!」


そしてこの男の名はスエル、デザイアグランプリのエグゼクティブプロデューサーであり当然ニラムよりも上の地位の人間である。

とはいえそれはこの状況では大した意味を持たない。


「ええ、まさか浮世トレーナーとキタサンが女神の子なんて…通りで祢音さんの秘密を明かしたわけね」

「ギーツ、キタサン…!」


英寿とキタサンが祢音同様女神に生み出された可能性が高いという事実は道長とクラウンを大いに驚かせた。

そしてその事実を知ることはまだないまま、ジャマトグランプリはいよいよ最終決戦をこの数日後に迎えることとなるのだった。

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