慟哭Ⅵ:手紙の中の王子様(ChapterⅢ)

慟哭Ⅵ:手紙の中の王子様(ChapterⅢ)

名無しの気ぶり🦊

「ただそれはそれとして…戦えナーゴ。自分で勝つしかないんだ」

「祢音さんが自分を諦めたくないなら…戦って勝ち残るしかないんです」


そのまま地下道のモニターに映された祢音の苦しそうな様子を見ながら英寿とキタサンはそう独りごちる。

結局のところ、どんな精神的な難題も最後に乗り越えられるのは自分でしかないとよく分かっていたから。


「仮面ライダーが戦う原動力は幸せを求める思いの強さだ。彼女に戦う気力は残ってない」

──ううん、先生。それは違う、祢音さんは…諦めてないよ」

「ほう、君がそんなふうに僕に反論とは珍しい」


そんな祢音を見ているのは当然一人だけではない。昨日と同じ部屋から大智とリッキーも見ている。

道長と違って、この男は自分の願いが叶うなら他者の不幸は特に何とも思っていないからか楽しそうにしている。

そんな大智がデザイアグランプリのプレイヤーとしての仮面ライダーの原動力に基けば戦えるわけはないと言い、かたやリッキーはそれは違うと否定してみせる。


「うん。だって今の彼女、水じゃなく金と火の氣がその胸の内の内に強く動いてる」

「つまり…何かしらの希望を無自覚に抱きつつある、そういうことか」


その根拠はというとリッキーらしい風水の知識に基づいた専門的なもので、グランプリ外でよく知識を提供しあっている大智でなければ即座に信用はできなかっただろう。


「祢音ちゃんは本当の愛を求めてたんだ…だから幸せになる権利がある!」

「何より望んで、けれど未だ手に入っていないもの…いい加減それを手に入れてよいはずです!」

祢音を見ている者にはもちろん景和とダイヤだっている。二人がぶち込まれているのは檻の中ではあるが、かろうじて会場内の様子は伺える。つまりは今の一方的なリンチに近い戦いも見えるため、それもあって今の言葉を繰り出してしまう。

祢音が誰かの代替え品であろうと彼女は彼女、自分達にしてみれば良き友人、いつだって夢や目標、願いにクレバーに前進している鞍馬祢音その人以外に他ならないのだから。


『JYAMATO』

「ジュラピラ…変身ン…!」

そのままダンクルオステウスはジャマトライダーに変身。

あれからアルキメデルの技術も進化しまだ研鑽の余地はあるが、ポーンジャマト以外のジャマトにもジャマトレイズバックル・ディスコア・横流しされたデザイアドライバーを使わせられるようになったのである。流石にラスボスジャマトに使わせられるようになるにはまだ時間は掛かりそうだが、ともかくこの状況ではただただ脅威だ。ジャマトライダーの見た目のままにダンクルオステウスジャマトとしての武器や能力もそのまま使えてしまうのだから堪ったものではない。


『SET』

「変…しん…っ!」

振り返ってみると祢音の準備が(精神的にも)整わないのに始まってしまったファイナルラウンドは景和とダイヤの反応にも明らかなようにとても一方的。

祢音はもうぼろぼろで、高価なコーデがそれはもう細かい傷に溢れ顔も手足も傷だらけ。

ここに姿があるだけ奇跡と呼んで差し支えないほどの蹂躙がダンクルオステウスにより行われていた。

けれどなんとか身を守ろうとする意志くらいは ある祢音は、ダンクルオステウスがジャマトライダーに変身したこともあって防衛本能を働かせるように決死の変身を敢行。

全身が悲鳴を上げるほどのズタボロさゆえに流石にいつものように「へーんしん♪」とは言えないが。


『BEAT』

『READY FIGHT』

「ゔゔっ…! うあっ⁉︎」

しかし、立ち上がって防御するのが精一杯。

なんなら重体で変身しているからか時折警告のように負荷が赤いエフェクトと共に掛かってくるという流れが数秒続く。そしてついには、さながら格ゲーで乱舞技をくらったかのような猛攻撃を食らってしまう。

始まってまだそんなに経たないのに早くも満身創痍と呼べるような状況に片足どころか何歩も、それこそどっぷり浸かってしまっていた。


「ナーゴ、君が生まれた意味だって…俺達が生きる意味だって必ずあるはずだ!」

(それを俺に見せてくれ…!)


それでも祢音の様子を変わらず見守る英寿はそれでも彼女を信じることをやめない。特殊な出自ゆえに他者より祢音に共感できる彼は、彼女の生き様に対し勝手ながら期待をしていた。

望まぬ生き方や酷い不幸を他者に、世界に強いられた誰かがいたとしても、その誰かはいつかは自らの手と脚で、意思で必ず立ち上がれるはずだと。


「祢音さん…貴方は決して独りぼっちじゃない。あたしが、トレーナーさんが、そしてあの二人が…貴方が貴方だから生きていてほしいと願う誰かが見守ってるんです!」

(だから…負けないで!)


キタサンは決してそんなわけじゃないし、なんなら両親に望まれて生まれてきたという意味で出自からの共感は人並み程度。

けれど自分が持ち得ていた何かを全て失ってしまったような感覚、存在意義を全否定されたような感覚には覚えがある。

ゆえに出自よりももっと漠然としたもの、喪失感・孤独感という意味で強く祢音に共感できたからこそ、こんな理不尽な戦いに負けないでほしいという想いは強かった。


「ゔう……うわあああッ!!??」

ただそんな画面越しの想いは祢音には届かない。ジャマトライダー/ダンクルオステウスジャマトに首をもたげられ、これにより内から外から両方のダメージがついに限界に達してしまった祢音は、それはもうストレートに変身解除。

そのまま乱雑に投げ飛ばされ、床に伏してしまう


「ぁ…もう、無理、だよ…っ!」

心も当然折れてしまっている。しかし試合終了とはならない。ベロバはあわよくば本当に処刑する気だった。


「「「「……ッ⁉︎」」」」


英寿・キタサン・景和・ダイヤも祢音の様子を先程よりも心配そうに見つめる。


「! ふっ♪」

「待ってましたよ、二人ともっ!」

──────そこへ駆けつける二種類の足音。

背後から走ってくる足音が聞こえ、ふり返ると口元に笑みを浮かべる英寿とキタサン、あの二人が駆けつけた証拠だった。

 

「ァアッ!」

「っ…⁉︎」

(ああ…ごめんね、シュヴァルちゃん。ごめんね、皆…ここで終わりたくないのに私、わたし…っ!)

その間もダンクルオステウスがじりじりと獲物を見下すように迫る。

とどめを刺そうと祢音さんに大剣ラン・ド・クリーブを迫り、勢いよく振りかぶった。

これで祢音の命も尽きるかと思われた。


「ジャアッ⁉︎」

「…え?」

瞬間、響く熱い衝撃。

ダンクルオステウスがラン・ド・クリーブを振りかぶったところへ割り込むようにレーザーレイズライザーからしか放たれないカード型の光弾と光糸がダンクルオステウスをカード型のバリアで囲って閉じ込める。


「…遅れてごめんね、祢音ちゃん」

「シュヴァル、ちゃん…っ! キューン…!」

(神様も…人がいい、のかな)

そう、ようやくシュヴァルとキューンが推しの元に駆けつけられたのである。

自己肯定感がだだ下がりしてしまっている現状ながら、シュヴァルはもちろんキューンにさえ素直なありがたさを祢音は感じていた。


「──────俺は、君と同じようにデザインされた存在だ」

「! それは…


そしてキューンはこのために急ぎ組み上げた手紙を祢音の前にも関わらず読み上げだす。

変に見えて彼なりに真面目にしていることは分かるので祢音も黙って聞き入れ、なんならいきなり驚かされている。


「私たちの未来では理想の自分をデザインして理想の人生を謳歌する。それで誰もが幸せになれるかと言われればそうでもない」

「なぜなら、誰かの不幸で自分が不幸になることを私は知ったからだ。君の苦しむ姿が、私を苦しませると知ったからだ」

自身をデザインしても、自分以外の要因で起こる現象まで操作できなければ、思い通りに ならないこともままある、それがジーンやキューン、デザイアグランプリ関係者の暮らす時代=未来。

それによって誰かが不幸になることが、自分の苦しみに繋がる。未来に居た頃は、それを感じる事は無かったが祢音とシュヴァルと出会ってそれに気づかされた。

変わっていたと今日ようやく理解できた。


「なのに私は君にどんな言葉をかければよいかがわからない。もはや君のサポーターを名乗る資格なんて私には…」

(…そうです、そんな畏まったお行儀のいい言葉よりきっと…貴方にしか伝えられない想いがあるはずです!)


けれども、それでもなお遠慮や緊張、申し訳なさ始めとしたいろいろな感情が邪魔をし祢音を励ませないと決めつけていた、安堵してしまっていた。

ゆえに手紙には、その先にはサポーターを辞め、未来に帰るつもりである旨が書き綴られている。先程ああやって決意はしたが、それはそれとして長居することは失礼だとも考えているのである。

しかし、そこでキューンは言葉を止めた。

シュヴァルもこれは望むところなようで。


──────ッ!!」

はたしてキューンはそのまま意図的に手紙を破り捨てたのだ。

そう、思いの丈を直接推しに伝えるのに手紙は非効率的で…何より無粋だ。

向こうは自分が手紙というカンペのほうを見て本人を見ないままに話しているのに、ずっとこちらを直視してくれている。ぼろぼろの体、その全身に精一杯の力を込めて。


それを見ているとキューンの脳裏にこれまでの祢音との少ない思い出がしかし強く蘇り、ならば直接推しの目を見て話すべきだと感じ破り捨てるに至った。

時間にして1分ほどだ。


『私は諦めない!』

『最後の最後まで戦う!私らしく生きるために…!変身!』


「君が教えてくれたんだ! 幸せかどうかを決めるのは生まれた境遇じゃない。 決めるのは自分自身なんだ!」

祢音と出会った後より出会う前の時間のほうがキューンには長い。

とはいえ画面越しに初めて見た日、あのゾンビジャマトゲームで見せた勇姿、決められた最期にお嬢様らしさもかなぐり捨てて抗い見事にクリアに至った仮面ライダーナーゴ/鞍馬祢音という少女に一発で強く惹かれた。

ゾンビにされても自分を信じ諦めなかった彼女を見た、その背景にどんな心境の変化があったかは知らない。


でも人が幸せになるために根本的に必要なのは、その過程で周りに与えられた数多の何かではなく、その幾つものプレゼントの中心にいつも必ずいた自分自身を信じること、諦めないことだと、信じた瞬間幸せなんだと気づけるとその活躍から教わった。

どちらかと言えば引っ込み思案で奥手、他者を強く信用することはなかなかない人間として設定された自分だからこそ余計に影響を受けた。


「だから諦めるな! いつか本当の愛に恵まれ、幸せになれる日が来る」

「──────たとえ世界中が敵になろうとも…俺は君の味方だ!!」

だからその逆に近いこの状況、自分が励ましてみせると。

あの日自分という人間が目の前の彼女のおかげで変わりたいと思えた。

その想いを返す時は今だ。

手紙の中では常に『私』だった一人称が、素のである『俺』に変わり、やっと面と向かって本心を言えた。


「キューン…」

祢音も思わず言葉に詰まる。まさかそんな嬉しいことを言ってもらえるとは思ってもいなかった。


『KYUUN SET』


「ァアア゛ッ!!」

──────変身ッ!!」


決意を示すように、キューンの全身は変身プロセスを行う。彼とシュヴァルによる拘束を破り近づくダンクルオステウスも気にならない。

ライズカートリッジとレイズライザー本体を組み合わせ、手をライオンの掌のように開きながら腕を十字に交差させ変身と力強く猛るように唱える。


『LASER ON』

『KYUUN LOADING』

『READY FIGHT』


──────瞬間、キューンをポリゴン状の何かが包み込み人の形から神話の獣のそれにキューンの全身を変化、いやさ変身させる。

その姿、さながら仮面ライダー版スフィンクス。仮面ライダーキューンが推しの窮地に際し、再びこの世界に姿を現した。


「君が愛バと話す時間ぐらい稼いでやるっ! ガアアッ!!」

そのままダンクルオステウスの攻撃から祢音とシュヴァルを守る。

祢音を励ましたいのは何も彼女だけではない。

彼と同じかそれ以上に鞍馬祢音を思う少女がいることを、彼女の叱咤が自分が立ち上がるきっかけになったことを決して忘れてはいない。

二人が話す時間だって必要だ。


────でも、誰かが寂しそうなのは我慢できない』

『私が寂しいのは私のせいだけど、他の誰かが寂しいのはその人のせいとは限らない』


その間に彼女が思い出すのは、かつて自分が誘拐された日に初めて祢音と出会ったこと、その際に語っていた彼女の持論。

自分というウマ娘がアスリートとして本格的に踏み出すためのきっかけにも実はなったかけがえのない大切な言葉。


「…前に似たことを言ったよね、祢音ちゃん」

「シュヴァルちゃん…」


それを思い出したからには彼女が、シュヴァルグランという鞍馬祢音にとって決して並々とは語れないし扱いたくないウマ娘が今の祢音に言いたいことも決まっていた。


「光り輝く場所が怖い僕が、自分には暗い場所がお似合いだって諦めてた僕が…それでも前に進めたのは、シャインやキタさんのために勇気を出せたのは…君が、二度も光の中へ連れ出してくれたからなんだ」


幼少期に積み重ねた挫折ゆえに、それに付け足されるように味わった恐怖ゆえに、生来の内気さゆえに前向きに現状という輝く世界に立ち向かうことにどうしても諦観の念があった。

それを二度も、それぞれ別のタイミングで引っ張り連れ出し向かわせてくれた。

だからこの人とならと前向きになれたし、彼女とは別の幼馴染や憧れで友達な誰かのために勇気を出すことも周り回って可能にできた。


『暗いところで、うずくまってばかりだった僕に……夢を、掲げさせてくれたから』

「あっ…」

二人きりの時のそれだが、祢音にかつてそんな感謝を言えた程度には祢音の存在が、臆病で内向的で自分が嫌いな自分に、シュヴァルグランというウマ娘に強く勇気をくれていた。

有り体に言っても感謝してもしきれなかった。


「…私、怖いの。私を偽物っていう皆もそうだけど…同じくらいそんな皆を裏切った自分が、誰かの一生を踏み台にして生まれてきた自分が」

「こんな…こんな私がなんで生きてるんだろう…っ!」


そんな彼女が自分に疑問を向けている。どうしようもなく怖がりに、自分が嫌いになってしまっている。かつての自分、程度は低くなったけれど今の自分にどこか今の祢音は似ていて。


「…今の君はどうしようもなく、周りが怖くて、自分が信じられなくて…うん、いつもの僕以上に僕なんだ」

「私がシュヴァルちゃん…?」


いつもの祢音のように素直に思ったことをそう告げる。祢音は隠し事をなるべく自分にしなかった。取り繕ったり誤魔化した言葉よりありのままの気持ちのほうが自分に効くと知っていた。


『だからほっとけないし、いろいろお話ししたいって思うんだ』

『だからさ、出会ったばかりで難しいかもだけど君ともお話ししたい』

『だめ、かな?』


あの日だってそうやって祢音に助けてもらった。あの日が無ければ彼女と幼馴染になることもなかった。普段は明るくどこか能天気さや物怖じの無さも感じる彼女の優しい一面に救われた。ダ目だなんて思うはずもなかった。


「だから──────あの時君が差し出してくれた手、君だからこそ今度は僕が差し出すよ…鞍馬祢音」

「あ……あ、あ…っ!」

(…私、独りぼっちじゃなかった…ああッ…!)


そんな救いを、とまでは流石に行かないけれど。でも自分の命の恩人で幼馴染で親友でトレーナーな彼女が泣いている、自分に自信が持てなくなってしまっている。

なら、今度は自分が彼女に自信を、勇気をあげる番だ。そう思えば普段ならキザに思える言い回しも躊躇いなく言えていた。

祢音も短くもしっかりと彼女への温かい想いが籠った言葉についに未だ自分が独りぼっちではないと自覚できた。涙が溢れて止まらなかった。


「チッ…うっざ。 胸キュンストーリーなんて誰も望んでないのよ!」

ただベロバにしてみれば自分の望んだシナリオでも不幸でもなく、なんなら自分が実は強く嫌うお涙頂戴な展開に苛立たないわけもなく。

ある仕掛けを脳内メッセージで起動した。


「…お前が何回僕の大切な人を傷つけようと、闇の中へ追い込もうと…その度に僕が助け出す」

『NERE SET』


それを知ることはなくとも、目の前の悪女の企みを砕くことは今のシュヴァルにとって決して不可能なものではない。

自らの大切な人を苦しめる悪意に、試練に、難関に立ち向かい打ち勝ってみせる。

そう思えばライズカートリッジとレイズライザー本体を掴む手にも力が籠る。


「何回だって何度だって、僕の光を翳す闇には負けない!!」

「変装!!」


『LASER ON』

『NERE LOG IN』

「やってやるッ!!」

こんなに熱く湧き立つのは昨年ジャパンカップぶりと言わんばかりに躍動する心臓の鼓動に従いながら、最期の決意表明、そしていつもより明らかに力と熱が宿った変装の掛け声をあげる。

するとそこに立っていたのは、いつもより強いイメージでその身を再構成したシュヴァルグラン、愛の守り人とでも今だけは呼べるかのような勇気に包まれたサブサポーターネーレだった。


「「「「「「「「ジャジャジャ!」」」」」」」」

その頃地下道ではジャマト達が明らかに殺意を持って会場のほうに向かっていた。言うまでもなくベロバの差し金、先程の脳内メッセージはこのジャマト達に向けたものだ。

自分の思い通りに行かない展開が向こうに来たら、下から突入してダンクルオステウスとの挟撃で祢音とその時彼女を守る者を余さず殺せと、そういう指示を出す予定で実際出すこととなったわけである。


「──────ここから先は通さない」

「──────あたし達の祭りに招待してあげます」

言ったからには絶対に通さないマン。


しかしそうは問屋が下さない、スター・オブ・ザ・スターズ・オブ・ザ・スターズとお助け大将がここから先へは行かせない。

ここを目の前のジャマト達の終着点にして彼等が狙われるお祭り、ハイライトでステージにせんとその声に確かな守護の意思を滲ませながらジャマト達の前に立ち塞がる。


『SET UP』『MATOI FRIEND』

「変身!」 「変装!」

初手から飛ばしていく。そう言わんばかりに自らの手札というギアをいきなり最大出力まで解放する。


『HYPER LINK』

『LASER BOOST』


『LASER ON』

『KETUGAN MATOI LOG IN』


『『READY FIGHT』』


赤と白が基調の戦装束に二人の身が包まれ、そこに残っていたのはいつもよりも清廉な闘志を燃やす仮面ライダーギーツレーザーブーストフォーム/浮世英寿とサブサポーターケツガンマトイ/キタサンブラックだった。


「願い続ける限り、いくらでも可能性がある! だから戦おう! 俺達の幸せのために」

「僕達は…いつだってそうやって、だから何回だって何度だって…光差す場所へ歩んでいけるんだ!」

シュヴァルが変装したのを確認したキューンはダンクルオステウスへの牽制を続けながらその近くに並び立ち、彼女と共に自分達のすぐ間に膝を付いている祢音にそう告げる。

キューンから溢れた白い羽根が雪のように舞い降るなか、祢音の意思を昂らせる決定的要因となり得る言の葉を紡ぐ。

そしてキューンが誕生日プレゼントとして用意していたブーストバックルを渡す


「シュヴァルちゃん、キューン…」

(…!)


「……」

(あかり、さん…)


(…ううん。ありがとう、私のたった一人のお姉ちゃん!)

シュヴァルとキューンから確かな勇気を、揺るぎない自信と激励をもらえた祢音は直後、近くに幻影を見た。自らの姉となるはずで運命としてなることは決してない、その生を踏み台にしてしまった負目のある女性こと鞍馬あかりその人の幻影を。

ただ彼女は知るべくもないがこれは幻影ではなく彼女の魂。女神が祢音を作るにあたって用意したのはあかりそっくりの体、ゆえにその時点でまだ健在だったあかりの魂が密かに祢音の体に祢音の魂と共に入り込んでいた。そしてずっと妹の様子を見守ってきたのである。

今回はというと、祢音の嘆き、そしてシュヴァルやキューンの感情、延いてはイメージに引き寄せられ高められたのか一時的に祢音限定ではあるが人間の目に可視化できるようになり、今に至るというわけである。

この状況なので何かを語るより行動で示したほうが早い、ゆえに貴方は貴方、私の妹ちゃん鞍馬祢音だよと、そんな彼女の生を確かに寿ぐような意思を瞳に込め祢音を見つめる。

沈黙は雄弁で、祢音は思いを受け取ったようで立ち上がる。


(…私が私じゃないって知って凄く怖くなって足が竦んだ)

(…でもなんでかな、もう怖くないや)


もう自分が何者かで迷うことは決してない。

幼馴染で友達な二人が、幼馴染で親友な担当が、サポーターが、姉が強く強く肯定してくれた。誰に憚ることもない、決して崩れることはない自信を、自分を手に入れた。


『『SET』』

「──────変身!」


そしていつもよりキレのある動きと共に力強くビートバックルとブーストバックルをセット、不思議とでもなく弾む胸の高鳴りのままに変身と告げる


『BEAT&BOOST』

『READY FIGHT』

何の因果かギロリと事を構えた時以降まるでなることは叶っていなかったナーゴビートブーストフォームに今再び変身が叶い、重傷であることを除けば気力戦力共に充実している。


「ベロバ、不服ついでにさらに不服にしてあげる」

──────私は私。他の誰でもない、鞍馬祢音よ!」


「チッ!!!!!」


だからか内心思っていてもしたことはなかった挑発も大嫌いなベロバ相手ということも容赦なく行えた。

案の定盛大に苛立つベロバをよそにナーゴ/祢音とネーレ/シュヴァルのキューンを伴っての第三回戦が幕を開けた。

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