慟哭が翼を穿っても

慟哭が翼を穿っても


迅く、堅く、力強く。

双剣を用い確実に敵を殺す戦士の技。

少なくとも王の技ではなく、得物も生前に見たどれとも合致しない。

まぁ、そんな英雄(ヘルギ)もいるだろう。


戦斧を振り回して大地に叩きつける。当てるつもりで放つが当てる必要はない。


無力化などという聖人君子が好みそうな言葉は今の私には存在しない。 ただ純粋な殺意と敵意をもってして、英雄(あなた)を殺すために戦斧が振るわれる。


警戒。そうだろう。先刻まで緻密な槍捌きを披露していた乙女が野蛮なヴァイキングも顔負けな戦いをしているのだ。

その警戒は正しい。正しいからこそ─── その、迷いこそが命取りだ。



聞こえぬように、囀るように。

英雄(あなた)自身は気づかずとも、確かにその魂を腐らす呪いのように。

私の戦い方は、私の戦いは。何一つとして変わってはいないのだから。

ああ、ただ一つ異なるのは。 英雄(あなた)と同じ目線に立つ事だけ。けれど、それさえもいつしか────────


「があ────ッ!」

確かに首元に迫る一撃を、翼を繰りて宙へと飛び上がり回避する。 まるで私の姿を捉える事など能わぬとでも言うように、無様にも二つの軌跡は宙を征く。

「クソッ…!」


仕方ない。 だって英雄(あなた)は既に、私の魔歌の虜なのだから。

大気が英雄(あなた)の荒々しい息遣いを伝えてくれる。

鼓膜を震わし、身体を蝕み、霊基を、魂を腐らせて。


お願いだから、私にどうか、殺されてくれ。


────────ああ……心地が良い。

今のこの瞬間は、互いが互いを殺そうと躍起になってる刻は、自分がまるで怪物にでもなったみたいで。

悪くない気分なんだ、ヘルギ。


だから───来世では、絶対に幸せになれるよう────貴方を殺すよ。


剣を構え直し呼吸を整える英雄(あなた)の姿が見えるがもう遅い。

この距離は既に私の領域だ。剣を振るうよりも遥か先に、私は貴方を殺せるから。


一瞬あれば最高速。そのままコンマ数秒で、貴方の躯に口吻を。


止まってくれ、心臓よ。恋人と睦み(殺し)合うこの瞬間に、生娘のように高鳴るな。


あと少し。迫る彼の瞳は確かに。


「破戒せし(エクス)…」


生への路を見出していた。

 

 

『…選定の剣(ブレイカー)ーーーァッ!』




気高き光に、天すらも撃ち抜かれる。

無論自分とて例外でなく。

白鳥の翼は、走馬灯のように堕ちていく。

戦乙女(わたし)は、死の間際にも焦がれて。

過去も現在も、きっと未来も。

貴方に寄って堕ちていく。

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