感覚遮断_その後

感覚遮断_その後



冒頭から致してるのでちょい下げ



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ぬるりと舌が口内を這う。度重なる口吸いによる唾液の交換と舌を絡ませる行為によってすっかり煙草の苦みも消え失せてしまっていたが、なおも景虎は晴信の舌へと自身の舌を絡め合おうとその口を合わせる。

愛しい人とのキスは甘い味がすると言う。苦味が無くなり舌が合わさる感覚も唾液が口内を満たす感覚も受け取れない今、口の中を満たし舌先が合わさるたびにより確かに感じることができる甘みは、景虎にとって蜜にも似た味に感じられていた。それはまるで媚薬のように、脳の神経を伝って芯を震わせる甘さにも思えていた。

少しでも奥へと舌を伸ばそうと体を晴信へと密着させる。そのたびに繋がったままでいる穴の側壁と膣奥が擦られ、ビクリと景虎の腰が小さく動いた。体表の触覚の感覚が遮断されてしまっている今、中で接した時の感触を強く意識させられてしまっており、あまり動いていない時でも二人の接合部が乾くことはなかった。

既に出した回数は片手では足りず、このままではすぐに両手を合わせた数すら超してしまうと晴信は感じていた。景虎に至っては何度果てたか分からないまま、それでもまだ離れたくないと晴信の身体へと己の身体を密着させたまま動こうとする。いつもなら正面座位の状態で密着して動けば擦れてしまう胸の先端と陰茎の感覚がないためか、硬くなって存在を主張している三点に遠慮することなく身体の前面を擦りつけていた。

「晴信っ、…ください……ぁ、っついの…もっと」

何度も熱を注がれても時間が経てばその熱も収まり、いつもなら火照る身体の熱が足りないせいで、胎の中は満たされても景虎の熱を求める心は満足できずにいた。

晴信と繋がった部分から伝わる体温を求めて景虎の孔が晴信の肉竿を締め付ける。吐精する直前の脈動を感じ景虎が少し腰を動かすと、固定するように晴信によって腰を下へと押し付けられて、ぱちゅんと水音が鳴った。

「あっ……!」

纏わりつくように締め付けていたため、竿が肉襞を強く擦って奥の入り口へと到達する感覚に景虎の背が伸びるように弾ける。

「っ、かげとら——」

名前を呼ばれ、景虎は自分の名前を呼んだその口に自分の口を合わせ、呼吸の流れを止めた。心臓が一拍脈打った直後、晴信から放たれた熱が景虎の奥へと流れ込む。押し入るように流れ込んだ一部以外は、締め付ける肉壁を押し返して襞の小さな隙間すらも埋めるように充満していった。

熱い。

熱のうねりが腰を廻り、押し上げられるように突かれた子宮が頭の奥を痺れさせる。呼吸を止められた肺が熱を持ち、その熱を冷ますために息を吸おうと景虎が少しだけ口を離すも、晴信に頭を固定され再び隙間なく口を塞がれた。肺が焼かれたように熱を持ち、それすら回路を焼くような熱へと置き換わる。快楽で塗りつぶされる中、何度目か分からない深い絶頂が景虎を襲った。

「——————ッ!!」

景虎は数回大きく痙攣して潮を吹き、力が入らなくなって弛緩した膣口からは収まりきらなくなった白濁の液が溢れ出した。

絶頂の余韻で甘イキを繰り返している景虎の接合部に練り込むように深く密着したまま晴信が腰を回させれば、それで達したのか景虎の中がうねって腰を中心にその体がビクついた。

繰り返す度に景虎の体から力が抜けていき、五度目にしてようやく晴信がずっと塞いでいた口を離せば、景虎は倒れ込むように晴信へとその身を預けた。

「……景虎?」

「…………にゃぁ」

晴信はすっかりと身体の力が抜けきった景虎へと呼びかける。返ってきた鳴き声のような意識が混濁した返事に、晴信は人心地ついたといったような顔で頷いた。

晴信は景虎を抱え直すとその身体をベッドの上へと横たえ、ずっと景虎の中へ埋まったままになっていた自身の竿をゆっくりと引き抜く。最後の栓の代わりのようになっていたかりが穴から引きずり出されると、すっかりと緩くなった入口からはギリギリ収まっていた分の精液が景虎の愛液と混ざってどろりと零れ出た。その流れ出る感覚で景虎が再び甘くイったのを晴信は支えていた手に伝わる腰の動きから感じ取る。

きっと蕩けるような夢見心地の顔をしているのだろうが、今の自分にはそれを確認することができない。

そのことに少し苛立ちを覚えた晴信は、ベッドの上に下そうとしていた景虎の腰を持ち直し、腰の下から支えるように持ち上げる。

「っ、ぁ……」

体の表面の感覚はなくとも、下腹部の中を流れる液の動きには敏感になっていた景虎は、不意に流れ出る速度が変化したことを疑問に思って自分の腰の方へと目を向ける。その視線の先には、ヘソの下、おおよそ子宮の位置するところにキスの痕を付ける晴信の姿があった。

景虎の視線を察知したのか晴信が緩く視線を向けて顔を上げると、付けたばかりの赤い痕を見せつけるように舌でなぞってみせた。その程度では胎の中に届くほどの刺激は無いはずなのに、既に注がれる隙も無いほど満たされている景虎の中がなおも催促するように疼くのを感じ、力が抜けきった体を起こそうと景虎は晴信へと手を伸ばそうとした。

「後でだ」

晴信は自分へと伸ばされた手を遮り、景虎の腰を下ろしてからベッドから離れた。

おろされていたズボンとベルトをなおしながら時たま壁に手をついて手探りで扉まで歩いていく晴信の様子を景虎は目で追う。自分の中を埋めていた塊と熱が無くなったことにより惚けた思考がゆるゆるとクリアになっていく中、寝返りを打って体を起こそうとしたところ、晴信が景虎の元へと戻ってきた。

「開いていた。帰るぞ」

そう言って、見えないながらも自分のコートを探して景虎から背を向ける。景虎は後ろを向いた晴信へと手を伸ばし、シャツの背の部分を掴むと本調子を取り戻してきた力を込めて引っ張り、その油断しきった背中をベッドの上へと寝転がした。

「のわっ!?」

スプリングの音を軋ませ、晴信は勢いよく背中から倒れる。反動を利用して晴信がその身を起こしきる前に、景虎は仰向けになって晒された胴体の上へと飛び乗り、猫のように横たわった。

腹部に衝撃を受け呻く晴信を見て、景虎は悪戯が成功した仔のような顔をして笑った。

「どんな時だろうと宿敵相手に無防備な背中を見せるのは感心しませんね。油断大敵ですよ、晴信」

「この野郎っ……!」

晴信が景虎へと手を伸ばすも、視界が無い晴信の大雑把な動きでは指を掠めることもできず、最小限の動きで避けた景虎は晴信の横に位置するようにしその身を横たえた。

ぼふんっ、とベッドが揺れる振動に再び晴信もベッドへと背を預ける。景虎の顔が有るであろう方向へ晴信が顔を向けると、くすぐるような景虎の笑い声が聞こえ、手を添えられて顔の方向を正された。

「それだけ動けるなら手伝いはいらないな。早く着替えろ、さっさと出るぞ」

「しょうがないですねぇ。まったく、せっかちな男は好かれませんよ」

「ぬかせ。十分付き合ってやった方だろ」

仕方ないと言わんかのように景虎は晴信から離れて服を着始める。その背に投げかけた言葉もどこ吹く風な様子で、景虎の衣擦れの音を聞きながら、数分前まで景虎が全身で浸っていた余韻の甘さは霞みになってかき消えてしまったようにも思えた。

「はい、というわけで準備完了ですよ。見えない晴信の手を引いてあげますからありがたがって付いてきてくださいね。あ、あとこれ晴信のコートです」

そう言って支度を終えた景虎が、背後から晴信の肩へと赤いコートを羽織らせる。大雑把に肩にかけたコートの毛皮が晴信の頬をくすぐるのを見て、景虎は口元へ笑みを浮かべた。

黙ってコートの位置を直す晴信の前に回り、景虎はその左手を取って晴信をベッドから立たせる。

「では行きますよ。……そうそう、ちゃんと出たら言った事は守ってくださいね」

「…言ったこと?」

鞠が弾むような声をして手を引く景虎の言葉に晴信が疑問の声を上げる。

「もう忘れたんですか?後で、って晴信が言いましたよね?」

微笑みながら晴信の手を引き始める景虎の笑みはどこか妖艶で、けれど視覚を遮断された晴信がそれを見ることは叶わなかった。

 

 

「おや……?」

先んじてドアの先を確認した景虎が不思議そうな声を出した。いぶかし気に自分の方を伺う景虎の視線を感じ、晴信は景虎の様子を窺う。

「どうした」

「いえ、なんと言うか……都合が良いといいますか、良すぎるといいますか」

何度かドアの先と晴信を見比べ、景虎は頭を捻るような動きをする。その歯切れが悪い返答に、要領を得ないと晴信は言葉を促した。

「意味が分からん。危険があるかないかで言え」

「よく似た別の場所の可能性もありますが……見るかぎり危険はないでしょうね」

晴信の目が見えなくなっているのは部屋から科せられたペナルティのため、部屋から出さえすれば元に戻る。見れば分かると言う景虎に左手を引かれ、その後に続くようにして晴信はドアをくぐった。

一拍置いて、晴信の視界に明りが戻る。

「——っ!」

暗い場所から明るい場所へと移動した時に目がくらむように、突如として自分の視界に入りこんだ明りと色の情報量に視界が滲むような刺激を覚え、晴信を強く目を閉じた。

瞼を閉じても白光が透ける視界にすらも目がくらむ状態で、耳が籠って音が聞き取りづらくなっている感覚も覚えながらも、視覚が戻ったことを感じながら晴信は数度力を入れて目をつむっては開くことを繰り返す。瞳へ受ける刺激が少なくなったころ、ようやく目から入ってくる情報を脳が認識したことで晴信はその光景に目を見開いた。

「俺の部屋、だと……?」

そこは景虎と決着と付けるまでカルデアに滞在するとなった折に割り当ててもらった晴信の自室だった。ある程度過ごしやすいように改造を施され、防音や魔術障壁の魔術も張ってあると分かる部屋は、紛れもなく晴信が実体化している際に自室として使用している場所であった。

確かに理由も分からず閉じ込められた部屋から出た先が見覚えのある場所ともなれば疑問にも思うと、晴信は先ほどの景虎の反応に合点がいった。それどころか、もしかするとあの奇怪な部屋に閉じ込めたのは自分だと疑われたんじゃないかという考えにも至った。けれど、自分はあんな部屋を用意できるような魔術は知らないうえ、景虎を誘うのにあんな手段は使う必要はない。そもそもあいつ閉じ込めたらどうなるかなんて火を見るよりも明らかだろうと、先ほどの実体験を踏まえてさらに強固になった景虎への頭が痛くなるような信頼を晴信は感じるのだった。

視界が開けるような感覚にも似た感覚が浸透し、考えもだいぶ落ち着いてきた頃、景虎と手を繋いでいた左手に妙な重みを感じてその方向へと目を向けた。

晴信の手の中でほとんど力を入れられていない状態で置かれているその手の先を辿れば、床に腰を付き、俯いて息を荒げながら小さく震える景虎の姿がそこにはあった。

ぎょっとしたのもつかの間、手に力を入れて立ち上がろうとした景虎が小さく喘いで再び腰を落したのを見て、晴信は咄嗟に身をかがめてその身体を支えた。

「っ……」

支えるために腰へと回された晴信の手が景虎の肌に触れた瞬間、ビクリとその身体が跳ねた。その際に晴信の手に置かれた景虎の指に僅かに力が入るも、足腰にまでは力を入れられなかったのか、景虎は自身を支えてきた晴信の腕に寄り掛かるようにして倒れ込んできた。

「景虎、おまえ…………感覚は元に戻ったんだよな?」

ペナルティとして視覚を遮断されていた自分と同じく、触覚を遮断されていた景虎も部屋から出た瞬間に感覚を取り戻したはずだった。それなりの時間体を繋げて、感じないと分かっていてもその間も晴信は景虎への愛撫は行っていた。そのため遮断されていた分の揺り戻しは多少あるとは思っていたが、それにしても景虎の様子は度を越えているように晴信には見えた。

「景虎?」

「…………」

呼びかけても息を荒げ続けて生返事すら返さない景虎の顔を見ようと、晴信はその顎を掴んで顔を上げさせる。抵抗する力一つ感じさせず、景虎はされるがままに晴信の方へと顔を向けた。

渦状が滲む瞳と目が合った。深まるとも潤むとも言えない熱がその目に宿っていた。心の深淵から求められているような、その身体に全力で求められているような、その二つが渦を造りながら混ざったような欲を晴信は直視してしまった。気を遣った時の放心状態とは異なった欲望の混濁からなる意識の濁りを感じ、そこから景虎を呼び覚まそうと晴信は口を開いた。

「か——」

顎を掴んでいた手をすり抜けられ、名前を呼ぼうとしていた晴信の口を覆うように景虎の口が塞いだ。流れるように自分の腰を支えている腕と顎と掴んでいた手を動かせないように押さえ、晴信に引き剥がされないようにして景虎はさらに深く口を合わせた。

景虎の心拍を狂わすような荒い息が晴信の口内へと吐き出され、喉の奥を蹂躙するように熱い吐息が満たしていく。鼻で息をするのももどかしく、角度を変える際にできるが僅かな隙間から息を吐き、十分に吸いきる前にその隙間を埋めては熱をとどめ続ける。唇を動かし、舌で歯をなぞり、息を吸う。触覚が遮断されていた時のように刺激を求めるような必死さではないが、あふれ出る何かを押し止めようとするかのように景虎は晴信と唇を合わせ続けた。

最初こそ反応が遅れた晴信も、景虎の瞳の渦が少しずつ浅いものへと変わっていくのを見て取ると、振りほどこうした腕から力を抜いてされるがまま景虎に応えた。

喉だけではなく、脳すらも熱で焼かれそうな感覚に襲われながら晴信と景虎は食むようにキスをする。必死に唇を合わせていた景虎の動きも、次第に唇から、舌から、喉から、伝わる触感を楽しみながら味わうような動きに変化していった。二人の漏れ出る息で乾きそうになっていた唇も、舌を絡めることによって留まりきれずに溢れた唾液で濡れていった。

激しかった動きも啄むような戯れになること数分、名残惜し気に晴信から顔を離した景虎は、晴信の左肩へと頭を預けるように身を倒した。

「はぁ…はぁ……、少し、意識がはっきりしました」

「…はぁ……はぁ……今ので、かよ」

「っ、はぁ……多少息をし辛くしてでも、集中させるべき感覚を限定させて……収まるまで時間をかせぐ必要があったんです」

「あー……やっぱりな。感覚が無くなってたから敏感になったままだってことに気付いてなかったんだろ」

「不覚でした……」

先程までいた部屋で、感じないと分かっていながらも受け続けていた愛撫や接触のせいで敏感になっていた上、感覚が無かったせいで景虎はしっかりと服を着てしまっていた。心身ともに油断しきった状態で部屋を出たところ、少し時間を置いたとは言え触れずとも身体の内外が熱く思えるほど敏感なままだった事に加え、衣服と接触する部分が擦れる刺激を与えられた景虎は大きな快楽の不意打ちを食らうこととなってしまった。

空のコップだとしても、勢いよく水を流し込めば水は零れ、最悪の場合、器ごと倒れて中の水は全て流れてしまう。

絶頂の余韻は身の内に残ってはいても、余裕の表情ができていた景虎の身体に一気に流れ込んだ快楽の波は、一瞬気を飛ばすほどの衝撃を与え、景虎の理性さえも引き剥がしていた。

繋いだ手の平から伝わる熱どころか、肌に触れる微かな空気の流れさえも敏感になった体表全てが過剰なまでに受け取って、剥がれた理性を取り戻そうと足掻く景虎の意思を邪魔した。それに意識を持っていかれ過ぎており、自分を呼ぶ声に気付くことができなかったため、景虎は晴信によって強制的に顔を向けさせたことを拒めなかった。

顔を見て、目を見て、視覚が戻って自分をはっきりと見つめる瞳と目が合った。その両目の下に位置する口が開くのを認めると、どぷり、と自分の中にうごめく欲に理性が沈む感覚に襲われながら、酸欠のような思考の霞みを覚えて理性を取り戻すまで景虎は晴信の口を犯し続けたのだった。

しばらくの間、二人は肩で息をしながら力が抜けたように互いに寄り掛かっていたが、景虎が晴信の手と腕を掴んでいた手を緩め、上半身を預けるように頭は預けたままその胸へと寄りかかると、晴信はそんな景虎を抱きこむように支えながらゆっくりと床へと腰を下ろした。

座り込むと景虎は少し身じろぎをし、半身を預け、斜め下から晴信の顔を見上げることができるようにと体勢を変える。

「というかですね……それとは別に、何故か胸の先っぽがずっとヒリヒリしてるんですが……」

景虎は触れないように手をかざしながら、自分の胸を指し示した。黒いトップスの上からは確認できないが、フィットするように景虎の胸を覆った生地の下では、硬くなった二つの突起が擦れたような痛みを訴えていた。

その景虎の言葉を聞き、目合っていた時の景虎の行動を思い出した晴信は納得の声を上げる。感覚がないせいで遠慮なく擦り付けて皮でも剥けたのだろうと思い至ったのだった。

「そりゃあ、潤滑液も無しにあれだけ擦り付けてたら痛くもなるだろ。気になるなら一度霊体化しておけ」

怪我や軽い霊基の損壊は霊体化すれば元に戻る。魔力で身体が構成されているサーヴァント相手だからこそ提案できるものだった。

けれど、晴信のその提案に景虎は少し思案し、どうにも後ろ向きな様子を見せた。

「それはちょっと……。他のも全てリセットされてしまいますし」

そう言って、景虎は胸にかざしていた手を自分の顔の方へと向け、唇に指を当てる。その動きに連れられて晴信が視線を移すと、濡れて艶めく薄い桃色が弧を描いて、その隙間から薄紅のような舌を覗かせた。

「こことか」

釣れたとばかりに笑みを深めると、景虎は手を動かして自分の左肩を指さした。

「こことか」

晴信が視線を向ければ、そこには白い肌にいくつも散らされた赤い痕があった。景虎が自分の腕の中でペナルティの内容について文句を付けていた時に暇つぶしとして付けていたキスの痕だと、晴信はすぐに分かった。

当世の服装を纏った時の景虎は上着に袖は通しても、どうしてもゆるめに羽織っている。そのせいで腕にずり落ちて肩が露出していることが多いため、痕を付けるにしても日ごろは見えない場所に付けるようにしていた。

見えない分、普段よりも制御が利かなくなっていた自身の理性を、晴信は今さらながら苦々しく思う。

そんな晴信をよそに、景虎は身体の中央をなぞるようにして自身の腹へと指を移し、晴信の視線を導いた。

「こことか」

細い指の腹が触れた先には、赤くなっているキスの痕が一点。

景虎は晴信に見せつけるように、その痕の周囲を指でなぞる。その圧にも満たない小さな触感がその痕の下にある部屋を刺激するのか、または景虎がそう感じてしまうだけなのか、指の動きに合わせて景虎が小さく喘いだ声が晴信の耳に届いた。

衝動的に動いた結果で煽り返されている。

景虎の指がさらに下へと降りていくのを目で追いながら晴信はそう感じた。

「こことか」

白魚のような指が景虎のふとももを這う。濡れている内側に指を這わせば、ぬめった液が纏わりついて、景虎が指を離した際に細い透明な糸を引いた。

きっと股下の部分を押せば、ギリギリ下着の中で留まっている愛液が溢れ、触れた感触だけで今の景虎なら軽く気をやってしまうだろうと晴信は思った。

「もったいなくないですか?」

濡れた指を胎の上に付けられたキスマークで拭いながら、景虎は煽るように晴信に問いかけた。

どれだけ攻めても完全に言いなりになることは無い。こちらが煽ったら行動も含め多めに煽り返してくる。一度始めれば際限なく求めてくるくせに、こっちからも求めさせようと蠱惑の色をチラつかせる。勝ち負けなんて意識していないはずなのに、どこか奥底で負けるものかという気持ちにさせてくる。

煽られた衝動で動き出したくなるのをぐっとこらえ、鎌首を持たげそうになった激情を抑えつける。

「…………多少思うところはあるがおまえ相手なら気にもならん。全部無に帰してもまた積み重ねて刻むだけだからな」

衝動を沈め、絞り出すように出した晴信の言葉に景虎は意外そうに目を丸くする。まるで戦のやりとりみたいじゃないですか、と思って見つめれば、似たようなもんだ、と意味ありげな視線を晴信が返してきた。

「なんというか、喜べばいいのか呆れればいいのか分からない回答ですね……」

そんなわけではなかったのだが、景虎は意趣返しに一矢報いられたような、もやを抱いたような気持ちになってしまった。

戦場のような扇情的な空気も霧散た雰囲気になった頃、景虎はその胸の上もある布に圧された乳首がヒリつく感覚で気を取り直す。擦れた痛みはあるけれど、原因が分かれば気にしすぎるものでもないと思えた。

「うーん……まあ、いいです。気にはなりますけど今はこのままで」

この程度の痛みなら、きっと晴信がくれる熱の波で掻き消える。

そう思い、景虎は預けていた頭を晴信の首元へと擦り付けた。それを合図と受け取り、抱き上げるためか晴信が抱え直すような腕の動きを身体に感じて、景虎の口から思わず笑いが零れた。

「……あははっ、良いですね。やっぱりこうでなくては」

「なに笑ってやがる。自分で歩かせるぞ」

突如笑い出した景虎に小言を言うも自分に身を寄せたままの景虎を抱え、晴信は立ち上がる。

自分を見据える目を見返し、肌に伝わる温もりと晴信の触れる感触に景虎は笑みを浮かべる。

「腕の中から飛び出してもいいんですか?」

「………………」

逡巡するような表情をした後、自分を抱える晴信の腕に力が入ったことを感じ、晴信を安心させるように身を預けながら景虎は声を上げて笑った。

 

 

 

 

「ところで晴信、この腕にくっきりと付いた手の痕についてどう思いますか?」

「目が見えない人間相手に謀ろうとした者の末路」

「うーん、これは殴っても許される答えなのでは?景虎ちゃんは訝しんだ」


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