感度3000倍SS②

感度3000倍SS②


 デザイアグランプリは過去、さまざまな願いを叶えてきた。しかし時には理解不能な願いもあった。

 富、名声、地位ならわかりやすくていいのだが……今回は……。

「『仮面ライダーの感度が三千倍の世界』とはなんでしょう……」

 頭を抱えたツムリに、ゲームマスターがモニターの一つを見せる。そこには露出過多な少女たちのイラストがあった。

「ある成人向けゲームに同様の用語が登場するようだ。それを再現するのが願いだと推測される」

「そのデータは確認しましたが、仮面ライダーにとっては圧倒的なデメリットです」

「私もそう思う」

「この場合は五感の強化と解釈するのが自然では?」

「ならば五感強化と素直に書くはず……いっそ両方試すのはどうだ。五感の強化は今後の仮面ライダー全員を対象とする。『感度三千倍』は今回のデザ神のみに適用し、様子見ということで……」

「…………賛成します。では、今回のデザ神、浮世英寿の願い『仮面ライダーの感度が三千倍の世界』を──」


***


 以上が、世界に轟くスター・オブ・ザ・スターズ・オブ・ザ・スターズ、浮世英寿の黒歴史。

 『仮面ライダーの感度が三千倍の世界』は、デザイアグランプリの超常的な力と行き届いたカスタマーサービスによって叶えられた。五感の強化は全員に。そしてエロゲ的な『感度三千倍』は英寿のみに。聞き齧りの言葉を使ったのが仇となった、墓まで持っていくしかないエピソードである。なお、この変化は現在進行形。ミッション後ともなれば歩くことさえ辛いほどだ。

「英寿くんお疲れ様!」

 仮面ライダータイクーンこと桜井景和に声をかけられ、英寿はああ、と生返事をする。頭の中は真っピンクでハートマークが乱舞中だ。今すぐ個室(数年前に防音工事が行われた)に駆け込んで、隠してある道具(デザグラ運営黙認)でイキ狂いたい。なのに景和はやれナーゴのアクロバティックな体捌きが凄かっただの、バッファのチェーンソーはかっこいいだの、それ本当に今じゃなきゃダメか? という話題を次々振ってくる。お前はブーストとイチャイチャしてればいいんだ、今すぐ離れろばかたぬき。スターらしからぬ暴言をかろうじて呑み込んだ。

「そういえば俺、最後の方で英寿くんに助けられたよね」

 ごめん覚えてない。早くミッション終わらせて抜きたいしか考えてなかった。

「いつも助けられてばっかりだし、こないだなんて姉ちゃんにサインもしてくれたし、ほんとありがとう!」

 感謝の気持ちなら態度で示してくれ。具体的にはどっか行け。

「でさ、たまには英寿くんにお礼しなきゃって。俺みたいな一般人ができることなんて知れてるけど……」

 座って座って、と廊下のラウンドソファに誘導され、うっかり座ってしまったが運の尽き。

 景和の手が肩に触れる。うわ硬い、とつぶやくなり、首から肩、背中にかけてさする動きが始まった。

「ひ、っ〜〜〜⁉︎♡♡♡た、いく、なにすんの……ッ?♡」

「スターでも肩凝るんだ……やっぱり銃持ってるからかな……?」

 え、なんで俺、タイクーンにエロいことされてるの。違うこれ肩揉みだ。よりによってスキンシップ系のお礼を選ぶな! 絶対言いたくないけど今の俺は感度三千倍だぞ⁉︎ マッサージとか無理に決まってんだろ⁉︎

 喘ぎを懸命に噛み殺す。やめろと言いたいけれど、次に口を開いたら絶対抑えられない。ズボンの中が濡れているのがわかった。景和の肩もみはごく普通というか、素人が揉んでくれる以上のものではないのだが、今の英寿は風が吹くだけで感じる体だ。耐えられるわけがない。いつものキメ顔を紙一重で保てているのは奇跡と言っていい。

「英寿くんどうかな、気持ちいい?」

 あ。

 ダメだ、それ。

 目を見ながら聞くとかずるいだろ、この、幸運たぬきめ。

「ン……♡♡きもち、い……♡♡」

「よかった……あれ? もういいの?」

「タイクーンも疲れてるだろ。さっさと休んでこいよ……」

 英寿はふらりと立ち上がり、景和の言葉を適当にあしらいながらどうにか個室へ辿り着いた。ベッドへ倒れ込むや否や、もたもたとした手つきでズボンを下ろす。下着は湿ったなんて言葉でごまかせないほどぐしょぐしょになって、もう使い物にならなさそうだ。

「あ〜〜最っ悪……タイクーンにイかされた……♡」

 英寿は自己嫌悪するように枕を抱きしめる。しかし表情は甘くとろけて、景和の温度や視線を思い返していた。


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