感度3000倍SS①
(照内イサムは『平成ライダー知らない俺が妄想で語るスレ』に登場する幻覚キャラです)
(猥談スレで生まれた、照井と四肢欠損イサムの概念に基づいたSSです)
今日は長期戦だった。それでもなんとかメモリブレイクまで漕ぎ着け、パトカーに犯人を押し込む。後は署に戻って報告書を作るだけ。そうなると微妙に困るのが、イサムをどうするかである。
出張で来た彼に、風都のドーパント事件で報告書を提出する権限は無い。夜も遅いなか署で待たせるのは気が引ける、かといって家の鍵を渡し「先に帰れ」と言うのはちょっと……大抵は仮眠室で待つという折衷案に収まるのだが、今夜のイサムは様子がおかしい。落ち着きなく服の裾を握ったり、辺りを見回したり。
「あの、俺、買い物したい……から、先に戻ってください」
「……ああ」
既にスーパーは閉まっている。コンビニでも行くのだろうかと思って頷くが、イサムが駆け出したのは最寄りのコンビニと真逆の方向。
案内しようかとも思ったが路地があるだけの行き止まり、すぐに気づいて引き返すだろう。真倉に急かされてパトカーを走らせた。
地域課から「照内イサムが道に倒れている」と連絡を受けたのは、書き上げた報告書に最後の捺印を終えるのとほぼ同時だった。
「パトロール中に発見したのですが、発熱と意識の混濁が見られました……それと」
「わかった。後は俺が引き継ぐ」
今まであったはずの手足が、とでも言いたげな顔へ「できれば内密に」と付け加える。
なぜ屋外でベルトを外し、倒れたのか、しっかりと問い詰めねばなるまい。
***
「感度が……上がり過ぎる……? さ、三千倍?」
「変身すると感覚も強化されるけどっ、やり過ぎるとバグるんだよ……普通は大丈夫だけど俺はいつも使うからすぐ……ひっ! 触らないで!」
「それと道で倒れていたことに関係は……」
「ベルト付けてたらずっとバグったままなの! 外して収まるまでじっとしてれば……寒くて寝ちゃっただけで……!」
車から下ろすため抱き上げただけで苦しげにかぶりを振る。敬語を使う余裕もないほど追い詰められるのは珍しい。それにしてもここまで苦しむ副作用、欠陥品もいいところじゃないかと思う照井だが、仮面ライダーに縋るイサムの気持ちを知っているので思うだけにした。
「経緯はわかった。とにかく今は体を暖めろ」
凍死は本当にやめてくれ、と心の中で言い添える。やだやだ離して放っといてよと喚かれても止まるわけにはいかない。もしも照井が心を読めれば(熱い苦しい熱い気持ちいいお願い触らないでもう我慢できない)とまくし立てるイサムの声が聞こえていただろう。
「収まるまで安静にすればいいんだな?」
「そうだよっ! だから……あ、あ、だめ、やだァあ!」
ベッドへ運び、毛布をかけるついでに何気なく頭を撫でた。途端に体が跳ね、無いはずの手でシーツを掴むように悶える。
イサムの熱っぽい吐息しか聞こえない、気まずい沈黙が数秒。
さすがの照井も察した。
感度とは五感の言い換えだと解釈していた。情報過多で倒れ、発熱したものだとばかり。だがこれは違う。
「……君の言う感度とは、その。性的なものか」
こく、と頷くイサム。
照井は無意識に半歩引く。他人が見てはいけないという遠慮に、けれどイサムは一人でどうするつもりなんだと心配が加わり、部屋から出るのを先送りにさせた。
その態度をどう捉えたのか、てるいさん、と呂律も怪しい声で呼ばれる。
「てつだって……」
「手伝う……何を、すれば……」
「さっき、みたいに……なでて……っ」
抱いてくれ、あるいは抱かれてくれと言われる想像をしていた照井は、それくらいならとイサムの横に座った。
些細な動きで空気が流れただけでも今のイサムには過ぎた毒らしい。「ふぁ♡」と喉を反らし、慌てて袖に噛みつく。
「撫でる以外のことはできないぞ」
「いいからぁ……ふふ、てるいさん、やさしい……」
先程と同じように頭を撫でようとすれば、イサムは一瞬だけ身を竦ませたが、すぐに照井へ擦り寄った。