愛のカタチの裏側

愛のカタチの裏側

サラダ事変「純愛ルート」

 野菜の形を保ち触手で生徒を襲う名状しがたい冒涜的な生物の出現から一時間後、百花繚乱紛争調停委員会と陰陽部(といっても一人だけだか)は「特別対策委員会」を結成。事態の解決に奔走する--はずだったのだが。


「いやぁ、これは思った以上に状況が芳しくないねぇ……」


 陰陽部の唯一の生き残りであり、部長である天地ニヤはいつものように笑顔を絶やさずに現在の状況をぽつりと告げる。

 だが、ふらりと何処かに行ってしまった和楽チセと彼女の捜索に行ったきり帰ってこない桑上カホ--部員である二人の消息が不明であることに、とてつもない不安を覚えていたのであった。


「あの悍ましい化け物、こんなに数を増やすなんて聞いてないぞ……」


 机にこぶしを振り下ろし、自らの無力さを嘆く不和レンゲ。

 意気揚々とせん滅する気でいた彼女だったが、増殖の頻度と執念ともいえる執拗な攻撃性のせいで撤退を余儀なくされたのだ。


「くそっ!アタシがもっと強かったら、助けてくれたミレニアムの生徒を--」

「彼女たちは私たちの身を案じて逃がしてくれた。自分たちが手遅れだと知ってね」


 桐生キキョウはレンゲをなだめるように彼女の頭をなで、一方で彼女の頭の中では次の作戦を打ち立てていた。

 百花繚乱の生徒たちがかろうじて逃げてこれたのは、奇抜な名前を持つ装置2種をミレニアムから逃げ延びたエンジニア部の部員たち数人から譲り受けたからである。

 例の怪物「サラダちゃん」を無力化して食用として食べれられるようになるマスク「メガストマックくん1号」、触手を完全に遮断する機械的な下着「純潔絶対マモル君」--エンジニア部員から設計図と共に託された装置を自分たちには使わず、他人に無償で譲り受けたのである。

 その生徒たちの体は既に触手の魔の手にかかっており、秘部と肛門からは触手が生えて腹部はアドバルーンになったかのように膨張していたのだ。

 エンジニア部の部長「白石ウタハ」が作った「感覚遮断くん弐號」で辛うじて正気を保っているギリギリの状態で、いつ快楽に屈して自分が自分でなくなるのか分からなくなる程に追い詰められていた。

 エンジニア部員の命がけの行為に敬意を表しつつ、必死に振り返ることなく逃げていくしかなかった。

 なお、走り出して10秒後に「ん”お”っ”ほ”ぉ”お”ッ”♥い”ぐ”ぅ”う”う”う”う”う”
♥う”ま”れ”ち”ゃ”う”う”う”う”う”う”♥」と下卑た嬌声が響き渡ったことで、彼女たちは触手に屈してしまったのを悟り全速力でその場を後にした。


「だからって--」

「それ以上は彼女たちの侮辱となるよ、レンゲ。今は生き延びたことを喜ばないと」

「くっ、うぅうう……」


 そして、意外な生徒と共に陰陽部公演会場へ立て籠もり、先述した「特別対策委員会」を結成するに至ったわけである。


「気をしっかり持つのだ。ぼく様があの忌々しい化け物どもに、必ず引導を渡してやるのだ」


 意外な生徒--それは山海経の生徒である薬子サヤであり、私服に着替えているものの彼女の下半身からは触手と同じ粘液が零れていた。

 山海経にいた時から襲われたのか、 百鬼夜行に来た時に襲われたのか……いずれにしても触手の被害者であることに変わりない。


「あんな酷い目に遭わせた奴らは絶対に駆逐してやるのだ、一匹残らず……。ぼく様の作った『野菜消化薬』……これを奴らに散布してやれば確実に、一網打尽になること間違いなしなのだ」


 自作の薬で触手の侵略を脱し、命からがら逃げだした彼女の目には憎悪の炎を宿しており、その鬼気迫る表情に百花繚乱の生徒たちは声をかけられなかった。

  彼女の作った薬を公演会場周辺に撒いてみたところ、触手たちが悶え苦しんでいた様子を見せたことから効果抜群であることが伺えた。


「……一体、いつになったら終わるのかな」

「ナグサ?」

「いっそのこと、あの触手たちの好きなようにさせれば--」

「やめて」

「もういやっ!こんな化け物たちが蔓延る世界で、いつ襲われるか分からない恐怖を抱えて生きていくなんて!!」

「ナグサ!!」


 絶望的な状況に心が折れかけて、誰しも思ってもいないことを口走る御稜ナグサに待ったをかけるキキョウ。


「ねぇ教えて、キキョウ?私たちは、後何匹倒せばいいの?私たちは後何回、あの悍ましい化け物を倒せばいいの?いつ終わるかも分からない中で……教えて、キキョウ」

「それは--」


 ナグサの悲痛な訴えに言葉を詰まらせるキキョウ。


「決まっているのだ。一匹残らず、すべてを駆除するまで……」


 それに返したのは、復讐に身を焦がすサヤであった。



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「このっ!汚らわしい化け物めっ!!ぼく様の体に入ってくるな!!」


 山海経で母親--薬子サヤに奉仕しようとした個体。


「いぎっ、このっ!これで跡形もなく消え去れっ!!」


 彼女の薬液を浴びて絶命しかけるも、必死に彼女の体に潜り込もうと抵抗する。


「うぎっ……どこから入ってくるのだ、こいつっ!!」


 奇跡的に種を植え付けて絶命する。


「はぁっ、はぁっ……。気色悪い奴……二度とぼく様の前に出てくるなっ!」


 そしてサヤが百鬼夜行の地に足を踏み入れた瞬間に、彼女の肛門から彼女のヘイローを宿した一匹のサラダちゃん。


「なっ!?何故、ぼく様のヘイローを持っているのだ!?……よりにもよって、化け物のお前がッ!!」


 そこから執拗に母親が繰り出す薬品--「野菜消化薬」を大量に浴びて、いつ自分という存在が消えてなくなるのか分からないが、それでも必死にもがき続けてきた。


「消えろ!消えてしまえ!」


 望まれない生命。そう理解しても、苦しくても、それでも彼女は願った--「生きたい」と。


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[くるしい。だれか……たす、け、て……]


 体が半分溶けて動くのもやっとな状態。サヤから生まれたヘイロー持ちのサラダちゃんが百鬼夜行の地で彷徨って数時間が経とうとしていた。

 意識が朦朧として、いよいよ動かなくなる--そう感じると「消えてしまう」ことに対して恐怖を覚え始めてきた。

 そこに--


「どうしたの~?大丈夫?」


 誰かが自分を拾い上げた。不思議そうな眼をした、角が生えて赤い目をした少女。


[わがはは、かのじょのいのちがあぶないです。ここは--]

「ねぇ、一つ聞いていいかな?」

[なんでしょう、わがはは]

「私とあなたで産んだ子たちみたいに、この子を産むことってできるかな?」

[つまり……かのじょをうみなおしたい、と?]

「うん。……ダメかな?」

[できますよ、わがはは]

「そっか~。なら、決まりだね」

[では、すぐにかのじょをとりこみます。そして、いとなみをはじめましょう]

「わかった~」


 そういうと同胞に取り込まれたのを最後に、彼女--「サヤから生まれたサラダちゃん」としての意識はなくなった。


「これで5人目の子になるねぇ」

[じゅんちょうにふえていってますね、わがはは]

「そうだね~」

「お母さん、今度はどんな子を産むの~?」

「私たちの妹?それともサラダちゃん?」
「ううん、違うよ。私たちとは違う、新しい子だよ~」



 和楽チセのたまごを使い、薬子サヤの姿として生まれ変わるまで--あと、3日。



[ to be continued... ]

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