愛のカタチの裏側 -巻の三-

愛のカタチの裏側 -巻の三-

サラダ事変「純愛ルート」

 少女は疲弊した足取りで、漆黒に覆われた夜道を歩いていた。

 野菜の姿をした正体不明の化け物に「ご奉仕」という名目の陵辱を受けて、何を思ったのか彼女を解放して何処かへと消えていったのだ。


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 少女が辱めを受ける数時間前、所属している部活動の同級生から「ある噂話」が流れていた。

 曰く、「ゲヘナ学園で化け物が出現し、それはサラダの形をしたクリーチャーである」「ソレに一度でも捕らえたら最後、永遠に快楽を与え続けられてしまう」「そして、同時に化け物の生み出す苗床にされる」という内容である。

 にわかに信じられない与太話だと彼女と同級生は考え、部活動の活動内容の一環である「クロレラの観察」に専念するのであった。


 この噂話が現実であり、得体の知れない化け物たちが彼女たちに襲いかかり、陵辱の晩餐会に変じるまでに大した時間はかからなかった。


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 服はズタズタに引き裂かれ、化け物に犯されて肛門と口からは暗緑色の粘液が伝い、秘部は蜜液と粘液が混ざり異臭を放っていた。

 適当なベンチなどで横になって眠りたかったが、化け物の魔の手から奇跡的に逃れた千載一遇のチャンスを逃すわけにはいかなかった。

 ここで安全な場所を探し当てて、騒動が収まるまで隠れていれば化け物から受けた陵辱を二度と味わわずに済む。

 だからこそ、少女は快楽と絶頂によって疲労困憊かつ調子が狂った身体にムチを打ってまで、明かり一つない危険な夜道を歩いてきたのだ。

 とはいえ、彼女は闇雲に魑魅魍魎が蠢く百鬼夜行の地で安息の場所を探しているわけではない。


「……あった」


 化け物の出現によって燭台の光すら見えない中央広場の暗闇の中で唯一、燦然と煌く場所ーー陰陽部公演会場。

 あの場所だけ化け物たちがいない。きっと陰陽部の人か誰かが何かしらの対策をして、化け物を寄せ付けないようにしたに違いない。


 「早く……あの場所に、行かなきゃ……」


 あそこにたどり着ければ、きっと誰が待っている。そして、この苦痛の日々にさようならを告げよう。

 震える身体を奮い立たせて意を決し、少女は公演会場へと繋がっている中央広場へと足を踏み入れた。


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 サラダちゃんに個性と呼ばれる概念は希薄なもので、群れーーひいては「サラダちゃん」という生命体で一つの個として行動するのが常である。

 行動方針は言わずもがな、生徒を喜ばせることーーすなわち「奉仕」こそ、サラダちゃんたちの「存在意義」であり「存在理由」でもある。

 そんな群れの中で「キバヤシ」と仲間から呼ばれていたサラダちゃんがいた。

 先にも述べたように個性と呼べるものではないのだが、この群れにおいてリーダー的な立ち位置につき、納得のいく結論を語ると周囲から「な、なんだってー!?」と驚きと感動を与える存在ーーそれがいつしか彼女を「キバヤシ」という名で呼ばれるようになった所以である。


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 箭吹シュロによる水質汚染のテロを未然に防ぎ、サラダちゃんの更なる可能性をもたらす「ゲヘナの地下水」が入ったウォーターコンテナを手にした一向は、陰陽部本館へ意気揚々と運搬していく。

 本館に住まう中枢のサラダちゃんと産みの親である和楽チセへの献上品として、そして同胞たちへのお土産として喜ばれることを想像すると、運搬する足取りが軽く和気あいあいとなっていった。

 ……そんな中、シュロの手によって地下水を直に浴びたサラダちゃんのリーダーであるキバヤシは、唯一浮かない表情を浮かべていた。


[どうかしましたか、キバヤシ?]

[なんだか、うかないかおをしていますね]

「なぜでしょう……。あのおみずをあびてから、なにかものたりなさをかんじてしまうのです」

[そういえば、さきほどからおみずをのんでいますね。もしかして、のどがかわいていますか?]

「……あれ、そうでしたか?いつのまに……」


 どうやら、意識せずにキバヤシはコンテナの中にある地下水を4分の1ほど飲んでいたようである。


[ま、まさか……。くぅくぅおなかがすいて、われわれをたべたくなる……とか?]

[なるほど。つまり……がいけんではなく、なかみがへんかするぱたーんでしたか]

「なかみ……そうかも、しれないですね」


 キバヤシの肯定する発言に、サラダちゃん一同がギョッとする。


[あわわわ……。いったい、どうすれば……]

「ものたりないのです。……このからだで、ごほうしするには」


 リーダーが語る予想外の回答に、サラダちゃんたち全員が頭からズッコケるように転ぶ。

 もっとも、キバヤシ本人に至って真面目な悩みのようで、一組の触手を絡ませて手のように動かしていた。


 「いまのままでもごほうしできるのは、じゅうぶんにりかいしてはいます」

[それはそう]

「それでも、もうすこし……なにかがほしいのです。さらなるごほうしをするためのほうほうが……」

[お、おう……]


 リーダーの曖昧で不透明な悩みに、サラダちゃんたちの頭の中には疑問符が浮かぶばかりで運搬の手が止まってしまう。

 自分のせいで運ぶ手が止まっていることに気づいたキバヤシは、運搬を再開するように指示を出す。


「……すみません、わたしのせいで。さぁ、わがははとあるじのもとにおみずをとどけるさぎょうをさいかいしましょう」


 キバヤシの指示で運搬していこうとした矢先、一人の生徒が自分たちの進路の目先にフラフラと入ってきた。


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 少女の姿を見た瞬間、キバヤシの理性は一気に沸騰する。


(……あぁ。なぜ、きがつかなかったんだろう……)


 サラダちゃんの王たる存在ーー空崎ヒナより産まれ出ずる存在が、どのように誕生したか。


(ひとのからだとして、わたしがうまれかわれば……)


 ヒトのたまごと一つになり、母たる身体にある生命の揺籠に揺られ、時が満ちた時にヒトとして産まれる。


(もっと、できることがふえて……もっと、もっと、もっとーー)


 そうして……物理的にも精神的にも、キバヤシは弾けた。


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 勘解由小路ユカリがサラダちゃんと共に、地下水を求めてゲヘナの地へ赴くことになる数時間前ーー


 「困りましたわ。早く隠れないと……」


 ユカリが安全に隠れられる場所を探している時、疲弊した状態の桜色の髪の毛をした生徒がほぼ全裸で歩いているのを目撃する。


 (あれは、百鬼夜行の生徒!今すぐ助けないとーー)


 しかし、ユカリが足を踏み込もうとする直前で目の前に化け物の集団がいるのに気づき、無意識に右足を90度左に出して急いで物陰に隠れる。


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 ーーこの判断が少女、そして自身の命運を分けることになるとは、この時のユカリには理解できなかった。


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 陰陽部公演会場へ足を運ぶことに必死だったクロレラ観察部の少女が、化け物の集団に気づいたのはユカリが素早く身を隠して数秒後のことだった。


 「ヒッ……。ば、化け物……」


 急いで何処かに隠れようと身を翻すも、快楽と絶頂で疲れ果てた身体では思うように動いてくれず、たどたどしく身体を動くことしかできなかった。

 ーーそれを見逃さない一つの影が、少女の身体に飛びかかる。


 「いやぁ!!離して、離してぇ!!」


 抵抗する少女を押さえつけるように、無数の触手を伸ばす化け物。


[きばやし、いったいどうしたのです!?]

[あぁっ!またしても、おみずをつまみぐいしてますよ!?]


 サラダちゃんたちの反応から、ユカリは無我夢中で少女に向けて触手を伸ばしているのが、シュロと対峙していた化け物のリーダーだというのに気がづいた。

 そのリーダーは言葉を発することなく、無心で彼女の股座へと潜りこもうとしていた。

 例の化け物が潜り込むついでに、別の触手で4分の1ほどコンテナを飲み干していた。


「いやぁ!もう、あそこを化け物にいじられるのは嫌ぁ!!」


 少女の絶叫が化け物に通じるわけもなく、一本の太い触手を秘部に力強く挿入していく。


「イギッ!?いやぁ!!お"っ"……こんなの、気持ちよくない!!イグッ、やめてぇ!!」


 太い触手による激しいピストン運動に、少女は全力で拒絶反応を示す。

 だが、彼女の悲痛な叫びも虚しく化け物は少女の秘部を一心不乱に打ちつけていく。


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 サラダちゃんのリーダーが暴走して5分後、ついにその時が訪れる。秘部に出し入れしていた触手が、段々と膨張を始めたのだ。


「ッ!……ヤダッ!また気持ち悪いのを、出さないでぇ!!」


 種となるエキスを少女の胎に注ぎこもうとしているのを感じ、少女の身体は激しい抵抗を示してジタバタともがく。


「イヤッ、イヤッ……イヤァアアア!!」


 必死に抵抗した少女を嘲笑うかのように、化け物は無慈悲にエキスを彼女の胎へと注いでいく。


「んあっ……う、うぅ……」


 媚薬に近い成分が含まれたエキスを注がれ、少女は下半身を痙攣させて秘部から愛液を吹き出していた。

 ここまでなら一般的なサラダちゃんによる「ご奉仕」の一環なのだが、この化け物はそこから想像外の行動をとる。


「ンオォ!?お、お股の中に入ってこない……アオォッ!!」


 なんと化け物そのものが秘部へと入っていき、彼女の胎内へと進んでいったのだ。


「いやぁっ!?おなかの中で何を……お"お"っ"!?」


 やがて彼女の胎内に潜り込んだ化け物が収まり、一瞬だけ爆発したように膨張したかと思えば元の腹部の大きさに戻った。


 「はぁ、はぁ……もう、ヤダ……」


 やっと化け物による陵辱劇が終わり、安堵につく少女。


「……イギッ!?お、お腹が……痛い……なんで??」


 その直後、ヘソあたりに鋭い痛みを感じて座り込む。


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 化け物ーーキバヤシがクロレラ観察部の少女の胎内へと潜り込み、子宮内に辿り着いた時に感じた第一印象は「安心感」であった。


(ここが、われわれのおうがそだったばしょ……)

(ここが、いのちのゆりかご……すごく、ここちよい……)


 自らに芽生える安らぐ心に身を委ね、全身を融解させて少女の卵子と一つになる準備を始める。


(ここで、かのじょのたまごと、ひとつになる……)

(さらだちゃんとしてではなく、そのさきをいくそんざいへと……われらのおうとおなじ……)

(そして、わがははとあるじがあいをつむぎ、これからうまれるであろう、たまごさらだちゃんとして……)


 サラダちゃんとしての肉体は8割が液状と化し、核として残った2割で最後の仕事を始める。

 核として残ったの半分を爆発の衝撃で排卵するように働きかける成分を構築して左右の卵管へと運搬し、もう半分で「とある仕組み」を子宮頸部に植え付けて準備が整う。

 そして胎内での爆発と同時に、サラダちゃんとしてのキバヤシは消滅した。

 事前のシステムにより左の卵巣から排卵された卵子に、無数の種で構成されたエキスが結び付いて新しい生命が紡がれていく。

 ここからは少女の因子、そして母であるチセの因子を受け継いだヒトとしての生命として産まれようとしていく。


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 クロレラ観察部の少女が座り込んで10秒後、彼女の股座から数本の触手が生えてウォーターコンテナへと伸びていく。

 それはキバヤシと呼ばれた化け物がちょくちょく飲んでいたコンテナであり、既に減っていた水が更に減っていった。


[わわっ!?かのじょのまたから、いくつかしょくしゅが!!]

[きばやしがのんでいたこんてなから、ふたたびのんでいます……]


 コンテナに残っていた量の4分の1ほど触手が飲んだあたりで、少女の腹部が大きく脈動しながら徐々に膨らんでいく。


「お"う"っ"!?な、何が起きて……ン"ン"ッ"!!」


 少女が混乱している間も腹部の膨張は止まらず、彼女はもちろんユカリやサラダちゃんたちも混乱していた。


(一体全体、何がどうなっているんですの!?)

[こ、これはいったい……]

[どうほうのたんじょう……にしては、なにやらようすがおかしいです]


 やがて腹部の膨らみが収まり、身重になった少女は必至の思いで腹部を支えるように抱えて立ち上がる。


 「お、重っ……。なんで、お腹が大きくなって……ンアァッ!!」


 少女の叫びと共に秘部から乳白色の液体が吹き出し、急な苦しみのあまり地面に倒れて転がるように身体を揺り動かす。

 化け物を排泄した時とは違う感覚が彼女に降りかかり、腹部が大きく脈を打ち収縮して激しい痛みが彼女を襲う。


「いいい痛い痛い痛いッ!!やだぁ、何がーーイギッ!お腹が、何か股から出てイイイイイッ!」


 激しい痛みが続き、その原因となる存在が秘唇から割って顔見せする。

 桜色の毛を帯びた髪の毛と猫耳、それとは別に額には紅色の角が一対生えたヒトの頭であった。


 「い"っ"……なんで!?なんで、頭が……」


 少女の頭によぎる一つの可能性ーー即ち、自分と化け物が結ばれて出来た「化け物の『仔』」という残酷な可能性。

 そんな事実を否定しようと咄嗟に言葉を紡ごうとするが、歪な形で作られた仔の出産が佳境を迎え、息を止めてでも腹にある物体を押し出そうとするーーいきみという母体に備わる生体反応が優先されて、苦しさと痛みに押し潰された声を出すしかできなかった。


「ン"ン"ン"ン"ン"ン"!!」


 そして、ユカリとサラダちゃんたちが見守る中、ついに新たな生命が全身の姿を晒し出された。

 程なくして、小さな声で誕生を告げる産声があがる。


「んにゃ、んにゃ、んにゃあ、んにゃあ……」


 出産という過酷な試練を乗り越えた少女は下半身を激しく、全身は脈動と同時に痙攣して身動き一つとれないほど疲労困憊しきっていた。

 同じようにユカリとサラダちゃんは事の一部始終を呆然と見届け、金縛りにあったように動けずにいた。


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 少女の股座から産まれて赤子の産声がやがて止まり、尻尾に擬態していた触手が僅かに残っていたコンテナの水を吸い上げていく。

 水が赤子の臀部に届くと、全身を震わせて短時間で身体の至るところが成長していく。

 頭部から生えた無数の触手が絡まり合って桃色の髪の毛がとして擬態し、前髪は産みの親と違い目が隠れないように生えてきていた。

 そこから覗かせる瞳はサラダちゃんとして産んでくれたチセのように、爛々と輝く真紅に染まっていた。

 尻尾も桃色の毛で覆われつつも暗緑色の粘液が分泌する機能を備えるように調整されていく。

 身体も女性らしい丸みを帯びた形へと整い、乳房も程よい大きさへと膨らみを帯びていく。

 ヘイローも産みの母である円心の天輪がチセのヘイローの間に埋め込まれたように配置され、桃色と水色が合わさったグラデーションがかかったものに変化していった。


 赤子だった生命は、今や母親である少女と同じ年齢を重ねたような身体(それどころか、さらに成長した姿)へと成長を遂げ、ゆっくりと体躯を持ち上げて二足歩行を始めようとする。

 本来のヒトとしての成長過程を辿るのであれば、骨の成長などの観点から一年という年月をかけてじっくり行われるものだが、そこは生命体として異なるサラダちゃんから生まれ出た存在ーー1分でふらつきながら立ち上がり、ものの3分で完全な直立不動を成し遂げたのである。

 そうして自由になった両手を用いて、ソレは己の全身を確認するかのようにくまなく丁寧に撫で回し、ヒトとして産まれてきたことをじっくりと噛み締めていた。


「これが、ヒトのカタチ……」


 ヒトならざる存在がポツリと呟く。ヒトとして、新たな生命として産まれてこれたのだとーー


「んんんんん……んにゃあああああ!!」


 そして、(ヒトから見て)邪悪にして(サラダちゃんから見て)祝福された存在は歓喜に震え上がり、大地に響くように雄叫びをあげるのであった。


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 もし、ユカリが隠れる素振りを見せずに前に出ていたら、誇り高き百花繚乱に属する者として、彼女はクロレラ観察部の少女を守ろう庇うように前に出ていただろう。

 そうすれば必然的に化け物はユカリを襲い、剛腕じみた触手で下半身につけられた装置を破壊して、彼女の身体に種を植え付けていただろう。

 その種は彼女の「たまご」と一つとなり、彼女の胎内で身籠って急激な成長を始めていく。

 やがて、一定の大きさまで膨らみ終えたと同時に、激しい痛みが彼女を襲い……そしてーー


「あぁ……なんという、素晴らしい身体なのでしょう。この豊満で躍動感に満ち溢れて整えられた肉体。……この姿に産まれ出ずれし奇跡、身共は甚く感激していますわ!!」


 ありもしない幻聴が聞こえたと同時に、産まれてくるのは自分の姿を模した……ヒトの姿を借りた角つきの化け物だろうことは、これまでの顛末から容易に想像できた。


(み、身共は……。身共は、何という過ちを……)


 その事実に気づいた時、ユカリは恐怖すると同時に名も知らぬ少女に対して罪悪感が湧いていくのを感じ取った。

 それでも、彼女は一連の流れを収めた携帯端末での録画を止めることはしなかった。

 ーー自分たちが出会う存在が如何に危険で邪悪なる生命体か、それを余すことなく残すことが唯一できる贖罪だと、彼女は自分に言い聞かせてていた。


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 ヒトのカタチとして生まれ変わった同胞の姿に、誰しも困惑するサラダちゃんたち。

 サラダちゃんの一体が勇気をもって、恐る恐るヒトの姿を得た同胞に声をかける。


[も、もしもし……そこのおかた]

「……んにゃ?もしかして、私のことかにゃ?」

[そ、そうです。……ひとのすがたをえた、どうほうたるあなたです]

「もしや、私の事を怖い存在だと思っているかにゃ?」


 ヒトの姿を持った同胞は王たる存在と母と主の間の仔以外にいない為、彼女は質問をしてきたサラダちゃんに疑問をぶつけてみる。


[い、いえ……。われわれのきおくがただしければ、あなたはきばやし……であっていますか?]

「合っている、といえば合っているにゃ。とはいえ、この姿では違う……とも言えるにゃ」

[では、あなたのことをなんとよべばよろしいので?]


 そう聞かれて彼女は右手で顎に手を当て、しばし考えて髪の毛や尻尾を見て合点がいったようにサラダちゃんの問いに答える。


「……サクラ」

[いま、なんと?]

「決めたにゃ!これからは『木林(きばやし) サクラ』と名乗るにゃ。これなら、今まで通りに呼ぶことができるにゃ」

[お、おぉ……。では、これからもよろしくです?]

「よろしく頼むにゃ!」


 問いかけたサラダちゃんの元へと歩み寄るサクラだが、何かに引っかかったように彼女の身体が引っ張られて、その反動に加えて全身を濡らしていた羊水によって足を滑らせた。


「うにゃ!?……いったたっ、一体何がーー」


 若干不機嫌になるサクラだったが、身体をよく見ると生命の綱とも言える臍帯が母である少女と繋がれており、まだ胎盤が排出されていないのを確認して納得した。


 「あはは……。産んでくれた母親のことを忘れるなんて、子供として失格だにゃあ……」


 そう言ってサクラは母親の元に駆け寄り、秘部に手を入れて胎盤を取り出した。


「……ンギッ!?」

「おぉ、申し訳ないにゃ。けど、これは必要なことだから我慢してほしいにゃ」


 ニコニコするサクラの姿を見て、クロレラ観察部の少女は青ざめた表情を浮かべて彼女を罵る。


「ヒッ……ば、化け物ぉ!!わ、私の姿になって?産まれて?……とにかく一体何をするつもりなの!?」

「決まっていますにゃ。我が主と我が母にご奉仕する……それだけですにゃ」

「ご奉仕?……人の身体をメチャクチャにしておいて、ふざけないで!!この化け物ッ!!」


 少女の罵倒に対して、サクラは「どうして?」といった表情を浮かべ産みの親を労るように身体を撫でていく。


「ヒッ、触らないで!!」

「まぁまぁ、落ち着いて。……ふむふむ、これが生命の雫たる『母乳』が出る器官ーー」


 サクラが加減を知らずに少女の乳房を力いっぱい握ると、母乳が勢いよく吹き出すと同時に彼女の性感帯らしく一発で絶頂を迎えてしまう。


「イギィッ!?ん"お"っ"、お"っ"、お"っ"……」

「んにゃ!?うえっぷ……。どうやら、力を入れすぎたみたいだにゃあ……」


 全身に浴びた母乳をサクラは舌と触手で舐め回し、生命の雫と評した液体の感想を述べていく。


「んん〜、この独特の味わい深さ……。まさしく、産まれたての子における甘露と呼ぶに相応しい味ですにゃ」

「ひ、ひぐっ……イグッ……」

「惜しむらくは……この身体になってしまっては、その味わいを堪能するのが困難、というべきか否か。んにゃにゃにゃ……」

「もう、やめて……」


 軽く痙攣しつつ、少女はサクラに懇願する。

 しかし、ヒトとの価値観が違う生命体から産まれた存在か、あるいはチセという特異的な親から産まれた環境の違いによるものか、サクラは彼女の意思を読み取る能力が欠如していた。


「んにゃ?何故です?……こんなにも気持ちよくなっているのに、それを拒むだなんて変な話ですにゃ」

「だから、もう……」

「うーん……。これは、もしかしたら奉仕のやり方に問題があると見たにゃ。主様の元に帰ったら、同胞たちに『あの地下水を飲ませてから、ご奉仕するように』と言っておくにゃ」


 サクラの髪の毛が擬態を解いて、全身を包み込むようにクロレラ観察部の少女を絡め取り、事実上の死刑宣告に彼女は反抗するように身体を震わせる。


「……やだ、やだやだやだぁ!!離して、離してよぉ!!この化け物ぉ!!

「落ち着いてにゃ、我が母。お願いだから、暴れないでほしいにゃ」


 困ったサクラは先ほどの少女の反応で、気持ちよくなれた乳房を重点的に触ることで宥めようとした。


「ンギィ!や、めて……。お乳を、いじらーーイグゥ!!」


 サクラは少女を宥めると同時に、乳房の触り方や効率の良い母乳の出し方を模索していた。

 かくして、少女の叫びは我が仔であるサクラに届くことはなく、サクラは他のサラダちゃんたちに命令を出して再び陰陽部本館へと向かっていくのであった。 


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 ユカリから送られてきた動画をレンゲは瞬きせずに凝視し、その凶暴かつ非常識な生態に言葉を失っていた。

 ナグサやキキョウも同じように絶句して見ており、ユカリの安否について不安を募らせることとなった。

 そして唯一、この動画に対して違う感情を抱く者が一人ーー


 「化け物め、とうとうヒトの姿に変じるようになるとは……。ますます忌々しい存在になったのだ」


 山海経のサヤは憎悪が篭もった眼差しで、手を動かしながらユカリの動画を一部始終を見ていた。


「けど、ぼく様の手にかかれば……あんな化け物、有無を言わずに駆逐してやるのだ」


 それまで片手で撹拌していた薬品を手に取ると、先ほどまでの殺意に満ちた表情とは打って変わって、サヤはウットリした表情でマゼンタ色に染まった薬品を見つめていた。


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 ユカリが動画を送る一時間前、サヤはわずかに空いた時間で新薬を作っていた。

 「さらに強力な薬品を作る為に協力してほしい」と頼まれ、レンゲはキキョウとナグサの反対意見を押し切って、彼女の手伝いをしていた。

 化け物が蔓延る中で「身動きをとらない(シュロから産まれた)サラダちゃん」を全て捕獲し、生け捕り同然の状態でサヤに渡した。

 捕まえたサラダちゃんが持つ特異的な性質ーー攻撃を受けたら塵となって消滅する性質を増幅させて、以前のようにドロドロに溶かすのではなく跡形もなく消し去るという、一本間違えれば「ヘイロー破壊爆弾」と似た危うさを秘めたシロモノである。

 そのヒトに対する効力については、試験としてサラダちゃんに陵辱されま百鬼夜行におけるテロリスト「魑魅一座」の一味を使った人体実験を敢行しており、結果としてサラダちゃんだけを駆逐して魑魅一座には影響が出ないことが数十人分の実際のデータから確認していた。

 このサラダちゃんと、彼女と因縁の相手である「ヤツ」が作った試作品を改良してできた「野菜消化液」を掛け合わせ、レンゲに頼んで用意してもらった「(一部キレイに掃除されていない)道具」を仕方なく用いて精製作業を行い、先述した「人体への影響に関する試験」を経て、新薬『野菜枯渇剤』を完成させたのだ。


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 サヤは新薬に対して絶大の信頼を寄せており、あの「ヒトを真似た化け物」にも通用して問題はすぐに解決すると踏んでいた。


「天才であるぼく様が、この不毛な問題を解決してやるのだ。屈辱と復讐を知る人間を舐めるなよ、化け物ども……」


 陰鬱なしたり顔で、サヤはサクラと名乗るヒトの化け物を見つめていた。



[ to be continued... ]


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