意味も、理由も
「……はっ?」
何気なくつけたテレビから流れてきたニュースに呆けた声が漏れる。とある男が轢き逃げ事件を起こしそのまま暴走、横断歩道に突っ込み歩行人も犠牲になった、というニュースだ。
「…うそ……」
驚愕のあまり目を見開く。呼吸が荒くなる。顔が真っ青になり、血の気が引いていき、目の前が真っ暗になる。
「なん、で……?」
容疑者として映し出されたその顔は、私が助けた人だった。
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最近は、人を助けられない事がかなり増えていた。
勿論助けようとした。自分の危険は顧みなかった。だけど間に合わないことばかりで、目の前で命を落としたり、殉職する人が増える一方だった。
それでも、と必死になって、死に物狂いで駆け回って。ようやく、ようやく助けることができた人だった。
なのに、こんな事になるなんて……。
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「あまり気に病むな佐代ちゃん、助けた時点じゃ予測できなかった。君は悪くない」
お兄ちゃんはそう声を掛けてくれた。お兄ちゃんだけじゃない。憂太くんに棘くん、真希ちゃん、パンダくんも同じように声を掛けてくれた。
でも、私にそんな事はできない。大勢の人の命が奪われたのは私のせいだから。私が助けたから。あんな人、助ける意味も理由も価値も…………
「…違う、違う違う違う!そんな、そんな事は……」
一瞬とはいえ過ぎってしまった恐ろしい考えを『違う』と震える声で否定する。
今まで人を助けて来たのに理由なんてない、それに意味も求めてない。ただ自分がそうしたいからそうしただけだ。
悪人なんてどこにでもいる。周知の醜悪、それを知った上で守るために助けてきたんだ。
ブレるな。助けたいと思った、理由なんてそれでいいんだ。
なのに。
どうして。
「クズが……」
どうして私は、人を助ける事に疑問を抱いているんだろう?