悲劇の数

悲劇の数


「うおおおおん!!」

オモチャの兵隊から語られたドレスローザの悲劇、その凄惨な過去にフランキーは水たまりを作る程の涙を流す。オモチャの兵隊は話を切らず、あえて話を続けた。

「殺された兵、ひれ伏した兵―――だがこれを合わせても一国の軍隊として数が少ない……」

「何の話だ!?」

なぜここで兵の数が問題になるのか、フランキーは素直な疑問を述べる。

「私にも『失った記憶』がある筈だ……という話だ。

―――フラランド、キミにはさっき町で見せたな?」

「!」

フランキーの脳裏に町で見たオモチャ達の姿が蘇った。自分を人間だと錯乱したように扱われたオモチャに、家族から忘れ去られたオモチャ……元は人間だったオモチャ達の姿だ。

「オモチャにされた我々は、人間だった頃の事を全て憶えているが……

周りの人々は家族であれ、我々の存在をすっかり忘れてしまう」

大切な者を忘れた事にも気づかない。

これがドレスローザ最大の悲劇であり、我々オモチャ同士でも同じ事なのだ」

「―――つまり町を歩くオモチャ達の中にも、あなた自身忘れてしまった仲間がいるかも?」

「その通り」

オモチャの真実を初めて聞いたロビンが疑問を口にする。オモチャは元人間であり、オモチャにされた人間は家族からも、同じオモチャからも忘れられてしまう。そしてオモチャの兵隊はここに勝機を見出していた。

「更にオモチャにされた時点で、皆ドフラミンゴに怒りを覚えているだろう

ドフラミンゴは反乱の意思を闇へと葬り去るが、裏を返せば国の闇には反乱の意思が蠢いているという事だ!!」

ロビンが息を呑む、トンタッタ達は涙を目に浮かべながら反乱の決意を新たにするように顔を強張らせた。

「この”悲劇の数”こそが、今回の我々の『作戦』の大きな”鍵”を握っている!!!」

フランキー若干の涙を残しながら、拳をぐっと握りしめて成る程と唸った。

「そうか!!お前らの言う”勝機”ってのはそういう事か!!

確かに『七武海』の一団を相手にするにはこれだけじゃ心許ねェが、

この国のオモチャ全員が反乱分子だとすりゃ相当な勢力だ!!

なァ、ロビン! ウソップ!」

「ええ、ドフラミンゴが許せない」

「だと言うと思ったぜ!! ならおれたちも……ウソップ?」

意気揚々と自分たちもその反乱に加わろうとフランキーは立ち上がったが、普段と違って何の返答も返さないことに違和感を覚えた。普段なら相手は七武海だぞと臆病風をすぐ吹かせて止めてくるはずのがウソップだった筈、だがその本人は先程から目を見開き、まるで見たくなかった現実を見せられたかのように小刻みに震えていた。そしてゆっくりと視点をフランキーとロビンに合わせ、震える口でフランキーとロビンに疑問を投げかけた。

「おい……お前ら、今の話を聞いても気づかなかったのか……?」

「だから反乱の話だろ!? おれもドフラミンゴは許せねェ、だから―――」

「違う!!!」

「「!!?」」

ウソップは俯き、立ち上がった。肩がまだ震えていたがいつもの臆病から来るものではない事は仲間の二人にもすぐわかった。

「ああァ……そうだ……なんで気づかなかったんだ……

町に着いたときもそうだ、あれは同族と出会えた喜びなんかじゃなかったんだ……

いつも仲間だなんて言ってる癖に気づけねェなんて、おれは本当にバカだ……」

「おいウソップ! 何の話だ!?」

フランキーがウソップの右肩を掴んだ。そしてウソップはフランキーの巨大な手を左手でガシッと掴み、顔を上げて悲痛な表情で叫ぶ。

「ウタの事だよ!!! 今の話を聞いてわかった……ウタも人間だったんだ!!!!」

「「!!!!!」」

ここでウソップ達の急な様子の変化を静観していたオモチャの兵隊が質問を投げかけた。

「事情がわからなくてすまないが……その”ウタ”というのは?」

「おれたちの仲間さ……船長が旅をずっと連れてる人形でな、

喋れねえけど、動くし、水に落ちたらすぐ沈むし、オルゴールは壊れてて直せねえし、

時折イタズラ仕掛けてくるし、身体も何度もボロボロになってナミやロビンに直してもらったかわからねェ……でも……でも!!」

ウソップの目から大粒の涙がこぼれ落ちる。

「……大事な”仲間”なんだよ……!!!」

「……なんということだ……」

ウソップだけでなく、ロビンやフランキーの目にも涙が浮かぶ。

『―――そのボロい人形はずっと大事にしてんのに!! メリーは壊れたからってあっさり捨てるのかよ!!?』

『行くぞウタ! ロビンを助けるんだ! ―――必殺、”ウタヒメ星”!!』

『あら、それでその船長さんを守ってるつもり? そんな小さい身体で何ができるのかしら……こうやって引き裂いてあげましょうか?』

『ふふふ、これでキレイになったわね、私も

『アウ! おれがスゥーパーな改造をしてやるよ!! ……オイなんで逃げるんだよウター!?』

『どうだァ、ウタ!! おれのスゥーパーな小型飛行艇の乗り心地はよォ!!』

事情を把握したオモチャの兵隊もまさか彼らの中にも”悲劇”が隠されていたことに驚きを隠せなかった。

「よもやここまでドフラミンゴの魔の手が広がっていたとは……そのウタというオモチャはいつから?」

「あ、ああ……正確な期間はわからねェ……だがうちの船長曰く”麦わら帽子”より前に貰ったと言ってた……12年以上前の話だ……」

「12年……!! 多くの同胞がいた我々ですら耐え難いオモチャの期間をそれほどまで……!!

ましてや声すら禁じられた苦しみ、想像すらできぬ……!!」

もしその顔に表情が現れていたならば、地獄の鬼すら逃げ出していたであろう怒りをオモチャの兵隊は顕わにしていた。そして愛用のパチンコをギュッと握りしめ、ウソップはオモチャの兵隊とトンタッタに、そして今ここにはいない仲間に向かって宣言する。

「ああ、やってやる……今回はおれは逃げたりなんかしねェ!!!

やってやろうじゃねえか、”伝説のヒーロー”ってやつを!!!!」

「「「「「おおおおおおお!! ウソランドーーーー!!!!!」」」」」

その顔はまさしく勇敢なる海の戦士の顔であった。


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