「悪戯心」
※前後しますがぬいクルーシリーズ「勘違い」の次の時系列の話です。
キャラ崩壊誤字脱字注意!ロー視点
ifロー=ロー 正史ロー=“ロー”
ぬいクルー=“キャラ名”で表記してます。
俺がこっちの世界に来て大分経った。怪我も塞がりあとは傷跡が薄くなるのを待つのみ。歩行訓練だけで疲れ果てていた体力もだいぶん回復していた……だが
“ ロー”の指示に従って忙しく動き回るクルー達をじっと見つめる。俺も手伝うと言ったのだが「ローさんはゆっくりしていてください」と返された。最近は診察のついでに進路の相談なんかをしてくれていた“ロー”も「怪我が治ったなら診察の頻度を減らしてもいいな」とこの頃はあまり部屋に来ない。要するにすることが無くて暇なのだ
「ローさんあと3時間くらいで浮上しますから、日向ぼっこするなら準備しますよ?」
「いやいい。部屋で少し休む」
ペンギンが気を使ってくれるが自分でも思ってる以上に拗ねた声が出てしまった。慌てて自室へと引っ込む
「何してるんだ俺」
こんなのは八つ当たりだ。役に立ててない自分に自分で腹が立っているだけだと分かっている。それでも気を使われ続けるのはなんだか受け入れて貰えていない気がして落ち着かないのだ
「俺でも出来ることがあればいいのに……」
なにか無いかと部屋を見渡しぬいぐるみに目を止める。せめて能力を磨けばなにか役に立てるのではないかと思ったのだ
「Room……シャンブルズ」
クルー達に見つからないよう小さなサークルを意識して能力を発動する。久しぶりだったがイメージ通り俺とぬいぐるみ達だけを覆うドームを作ることが出来た。目の前で“ペンギン”と“ベポ”が入れ替わる。この能力を上手く使えるようになれば荷物運びや戦闘でちょっとは役に立てるだろう。俺はこっこりと練習を続けた
「ローさん浮上しましたよ〜。外でません?」
シャチの声が聞こえRoomを解除する。さっきの様子が気になって来てくれたのだろう。一際明るい声に安心感が湧いてくる
「あぁ今行く」
返事を返し練習に使ったぬいぐるみ達を並べ直す。ふと練習の成果を誰かに見てほしい気がした。多分俺がどんな事をしても喜んでくれる確信があったせいもあるだろう
「なぁシャチちょっと“シャチ”のぬいぐるみを持ってくれないか?」
「あっ天日干しします?今日天気いいですもんね。もちろん手伝います」
俺がいつも通りお願いをしたからかとても嬉しそうにシャチが“シャチ”を抱えて歩いていく。抱っこしてくれるだけでよかったんだがまぁ動くものと入れ替わる練習だと思えばいい。戦闘では絶対に必要にな能力なのだから
「すぅ……Room、シャンブルズ」
「んぇ!?」
深呼吸をして狙いを定め入れ変わる。人に抱えられているぬいぐるみに入れ変わればどうなるのか……そんなことは明白でぬいぐるみが唐突に重くなって腕の中を見たシャチと至近距離で見つめ合うことになる。
「えっ?あっ?へっ?」
「いやっこれはそのあの……」
シャチも状況が呑み込めていない様子で顔を赤くしてテンパっている。なんだこれめちゃくちゃ恥ずかしい事をしてしまったんじゃないか?
「ごっごめん」
「いや謝らなくていいですけど……えっとどうしたんです?」
少し落ち着いたらしいシャチが俺を下ろして話を聞く体制になってくれる
「何か役に立ちたくて……能力の練習をだな……それで成果を見せたくなって……」
怒られている子供のように段々と小さな声になる俺とは対照的にシャチはその笑みを深める
「俺たちローさんが来てくれてとっても助かってますよ?」
「えっ?」
予想していなかった言葉に首を傾げる。一体何が出来ていただろうか?
「ローさんが来てくれたおかげでキャプテンの放浪癖が減りました。いままで何処にいるか分からなかったのがローさんの周りを探せばよくなりましたから」
「放浪癖……」
確かに以前の俺も“ロー”も気になった所には1人で出歩くことが多かったがいざそう明言されると少し恥ずかしい
「それに眉間のシワと隈も2割くらい減りましたよ。診察の合間のお喋りがいい息抜きになってたみたいで」
「でもそれも最近は減っただろ……」
「あ〜」
結局あまり役立てていない気がして少し俯きそうになる。シャチは何故か苦笑しながら顔をこちらの耳に近づけてくる
「言っちゃダメですよ?それ実はペンギンに怒られたからなんです」
「?」
「キャプテン結構な頻度でローさんの部屋に行ってたでしょ?お喋りが盛り上がって2人して食事に顔出さなかったり寝る時間が遅くなることも……それでこの間ペンギンがキャプテンはともかくローさんの生活リズムまで崩さないでください!ってそれで控えてるんだと思いますよ?」
(そんなに頻繁にお喋りしていただろうか。自分同士好みも性格も一緒な事もあり確かについつい話しすぎることはあったが……)
お小言の内容につい苦笑を漏らしつつでも自分の健康を思ってくれてのことだったことに胸が少し暖かくなる
「さてとじゃあこれ他の奴にも仕掛けに行きましょ?」
「は?」
「だって俺だけ恥ずかしい思いするの不公平じゃないですか。それにローさん寂しかったんでしょ?じゃあそれ思いっきり表現してやればいいんですよ。寂しいなんて言えないくらい構い倒されますから覚悟しといてください」
“シャチ”を抱え直したシャチが満面の笑みを浮かべ俺の手を引く
「あぁ」
俺も笑顔を返しながら次のターゲットを探しに向かった
「よし……俺が合図したらすぐシャンブルズしてくださいね」
廊下にぬいぐるみを設置し終えたシャチが俺にハンドサインを出しながら指示を出す
(昔と逆だな……)
そんなことを考えながら待っていると
「あれ?ローさんの部屋のぬいぐるみだぁ。何でこんなとこにあるんだろ?ふふっ“シャチ”ふわふわ」
明るい声がしてくる。見なくてもわかるベポだ。GOサインをだすシャチに頷いてシャンブルズする
「わぁっ“シャチ”がローさんに変わっちゃった。ふふっローさんガルチュー」
嬉しそうにガルチューをしてくるベポに擦り寄り返しながらシャチに渡されていた悪戯成功の紙を見せる
「シャチにさそわれて、驚かしたな」
「ううん俺嬉しいよ。ローさんの心が悪戯出来るくらい回復したってことだもんね」
(あぁ悪戯心も心か……)
ベポの言葉にそんなことをしみじみ思う。それはおそらくこうして一緒に馬鹿をやってくれるこいつらのおかげに他ならないのだが
「次はペンギンに仕掛けに行くぞ。ベポも手伝えよ」
「あいあい」
「ふふっまだやるのか?」
「「もちろん!」」
悪戯っ子のような笑みを浮かべる2人にこちらも楽しくなってくる
(スワロー島にいた頃みたいだな)
そんなことを思いながら作戦会議をする二人の間に座り込んだ
「シャチ、ぬいぐるみの設置場所はそこじゃダメだ。ペンギンは絶対不審がるそれより資料室の机の上に設置して読みたい本と入れ替えたことにしよう」
「お?やる気になってきました?」
「ベポお前の見聞色だよりだからなミスるなよ?先に見つけられたら大目玉だ。確実にぬいぐるみを抱えるようにシャチは資料室で誘導係な」
「「あいあいローさん!」」
誰かに指示を出すのなんて久しぶりだがいざやってみると案外覚えているもんだ。またひとつ昔の自分を取り戻したようで自然と上がる口角を隠しながら持ち場に着いた。
「ペンギンが資料室に入ってきたよ。今シャチと話してる」
そっと息を殺してペンギンが“シャチ”を抱えるのを待つ。心臓がドキドキしてるのが生きていると実感して妙に心地いい
「持った今だよローさん!」
「シャンブルズ」
ベポの指示通り入れ替わると目の前にはペンギンの顔にっと笑い悪戯成功の紙を見せる
「…………」
しかしペンギンからの反応はなかった
「あれ?えっとペンギン?あのほら……悪戯……」
「…………………………はぁ」
長い沈黙の後に返ってきたのはため息ひとつで今更怒られる可能性に冷や汗が出てくる
「ペッペンギンあのほらローさんは俺の悪戯に乗ってくれて」
「知ってる」
慌ててシャチがフォローに回ってくれるもペンギンの声色は変わらなくてこれは本格的にマズいと感じた
「こんなことローさん一人で思いつくはずないし、この部屋に入ってからやけにシャチがぬいぐるみ持たせようとしてるなとは思ってた。合図役はベポだろ?」
会話を続けながらペンギンが歩き始める。下ろしてくれる気は無さそうだ
「ベポ、その壁の影にいるな?お前もこい」
「あい……スイマセン……」
ベポを捕まえてもまだ歩いていく。どこまで行く気だ?
「ローさん」
「ひゃいっ」
しまった。余計なことを考えてる時に声掛けられたから変な返事になった
「いいですか?貴方の能力は便利ですが、体力の消耗も激しいです。そして今貴方はまだ患者だということをわかってますか?」
「はい……」
「体力の戻りきっていない患者が無理にトレーニング量を増やしたらどうなると思います?」
「体調崩します……」
「そうなると療養期間が伸びることや俺達やキャプテンが悲しむことはもう分かるでしょう?」
「うん……」
「でもローさんは元々なにか手伝いができないかと思って能力の練習をしたんであって悪戯に」
「シャチは黙ってろ。後でしっかりお説教だからな」
ペンギンに一蹴されてシャチが黙り込む。ベポはずっとオロオロしてるが……一瞬シャチが笑った気がして首を傾げる
「役に立とうとしてくれることは嬉しいですけどそれはローさんが完全に元気になったらいくらでも頼みますから」
「……?元気になってもいていいのか?」
「「「は?(へっ?)」」」
あくまで治療の為に乗っている身だ。患者で無くなれば当然船も降りる事になるだろうと思っていただけにペンギンの言葉に首を傾げてしまう。3人は揃って目を丸くしていた
「あんたまさか船降りる気だったんですか!?」
「何で!?何でそんな発想になった!?」
「ローさんどっかに行っちゃうの!?」
3人が3様に詰め寄ってきてちょっとギョッとする
「いや……治療の為に載せてもらってるだけだから……治ったら降りると思ってて……それまでになにか恩返しできればなと……」
「「「はぁ」」」
「あんたそういう変なとこで本当にキャプテンと一緒だな。あのですね?さっきは患者って言いましたが俺たちはローさんを治療の為“だけ”に乗せてるなんて思ってません。あんたはもううちにとって大事なクルーなんです。ローさんがやりたい事があるから船を下りるって言うなら考えなくは無いですけど……いやそれでも嫌ですけど考えますよ。でもそれ以外の理由でこっちから船を下ろすなんて有り得ませんから!」
「バカっあーもうなんというかほんと……バカっじゃああれか!?あんたの部屋にぬいぐるみ以外の私物がほとんどないのって」
「いつかあの部屋も返さなきゃなぁと思ってたから荷物は少ない方がいいだろ?ぬいぐるみは皆大事にしてくれてるしそれぞれに引き取ってもらったらいいかと……」
「そんなこと気遣わなくていいの!あの部屋はもうローさんの部屋なの!たとえ空いたとしてもずっとローさんの部屋!」
「わっ分かった」
手伝わせて貰えないから受け入れて貰えてないなんて馬鹿な考えだったとこいつらの様子を見て思う。受け入れてくれてるからこそ今はいいから早く元気になれとこいつらは言ってくれて居たのだ。拗ねていた自分がなんだか子供のようで恥ずかしい
「あーもう誰かさんのせいで言おうと思ってたこと全部吹っ飛びましたよ全く。とにかく!能力で悪戯するのはつぎで最後ですからね!」
「あぁ……ん?次?」
勢いに押されて返事を返したが今次って言ったな?そういえばずっと抱えて歩いてたが一体どこに向かって……周りを見渡してあぁとなるなぜならここは船長室に向かう手前だ。なら次のターゲットは“ロー”以外にないだろう。ペンギンを見るとにぃっと笑われた。そうだったこいつもスワロー島の悪ガキ悪戯っ子で無い訳がなかった
「キャプテンはまだ気づいて無さそう。言い合い聞こえてなかったみたいだね良かった」
「じゃあ俺部屋の前に設置してくるな」
ベポもシャチもいつの間にかいつも通りに戻って悪戯の準備をしている。さっきの笑みはそういう意味か。なら教えろよ
「行くぞ……」
部屋の前にぬいぐるみを置いたシャチが小声でいいドアをノックして急いで戻ってくる。部屋から出てきた“ロー”は“シャチ”を見て怪訝な顔をしたあとそっと持ち上げた。
「シャンブルズ」
今だと思い能力を発動した瞬間“ロー”が口角を上げたのがわかる。あっと思った時には遅く手は離されていて俺は盛大に床に尻もちを着く羽目になった
「随分と元気そうだな?俺に能力で悪戯を仕掛けようなんて」
同じ能力なんだ。当然よく知っている“ロー”が気づかないわけはなかった。浮かべている笑顔が自分と同じ顔ながら凶悪でひぃっとなる
「やべっバレた!」
「作戦失敗だ逃げるぞ!」
「ローさんこっち急いで!」
失敗を悟ったペンギンとベポが俺を気遣いつつ逃げ出す。シャチはコチラに手を伸ばしてくれていて俺も直ぐさま立ち上がりその手を取る
「こら!逃げるな。お前ら俺にかなうと思ってるのか?」
「絶対無理でも一応逃げるのが悪戯のセオリーでしょ!」
船内に楽しげに走り回る音が響く。案の定すぐに捕まり俺とベポは正座ペンギンとシャチはバラされて並べられて説教を受けているが皆の顔は笑顔だ
「またペンギン達が怒られてるぞ?」
「えっ!ローさんもいる!?」
説教風景を見た他のクルー達がザワザワし始める
「ちょっとおにぎり作ってくるっ」
「ローさんの部屋から“ベポ”取ってくるわ」
「日当たりいい所に寝椅子出しとく」
こうしてキャプテン宥めセットなるものが揃えられるまで説教は続いた
「あー今回は長かったぁ」
「そりゃあローさん巻き込むからだろ」
「でも楽しかったね。ローさんも楽しかった?」
ベポが俺の顔を覗き込んで尋ねてくる
「あぁ楽しかった……お前ら悪戯に付き合ってくれてありがとな」
「それはこっちのセリフでしょ」
満面の笑みで返せばシャチたちも笑顔を返してくれる。それが嬉しくて……この場所を大切にしたいと改めて思った