悪夢
「…けて。たすけて…シャンクス…」
エレジアの古城の地下にある牢屋で一人の少女が拘束され震えていた。
その少女はウタ。四皇シャンクスの娘『だった』女だった。
父にこの滅びた島に置き去りにされゴードンに世界一の歌手にすると言われ音楽の勉強を12年に渡り続けさせられたが全てに裏切られた彼女には何も意義が見出せずゴードンもなぜか島の外のコンクールにさえ一度も出すことなく時間だけが過ぎ去っていく現実にとある村で出会った幼馴染との誓いも忘却の彼方に消えかけていた。
そんなある日一隻の小船が港にやってきた。
「まだ連絡船が来る日じゃないのに…?」
たまたま自室の窓からそれを見た彼女はゴードンに報告することを忘れて港に向かった。何もない島での生活故の好奇心だったのだろうか。
だが彼女は自らのこの行いを数時間後後悔することになる。
「…ウタ?お前ウタだろ!久しぶりだな〜!」
港に立っていた男に恐る恐る近づくと男は突然自分の名を言い出した。
なぜ自分の名を…?
ウタは混乱したが男の顔に懐かしい面影を感じた。
「もしかして…ルフィ?」
「おうッ!元気そうだな!」
「ルフィ〜ッ!」
まさかの幼馴染との再会にウタは涙を浮かべながら彼に抱きついた。
懐かしい太陽の匂い…でも何か別の…違う匂いが…?
「ルフィはなんでここに?」
ウタは違和感を感じつつもルフィがなぜここに来たのか尋ねた。なんでもシャンクスと再開した時にここで暮らしてることを知り居ても立っても居られず仲間達に無理を言って一人できたらしい。
そこまでして会いにきてくれたことにウタは嬉しく思った。
それから二人は談笑しながら古城に向かった。ルフィから聞かされる冒険譚は驚くことばかりでとても面白かった。
「ところでその箱は?」
ウタはふとルフィが抱えてる木箱を不思議に思い質問する。
「ああ!実はお前にプレゼントを用意してな!楽しみにしてくれよ!」
あの甲斐性なしがねぇ…?成長したじゃん!
弟のようだったルフィがこんな気を遣える大人になったことを自分のことのように嬉しく思ってフフッ!と微笑んだ。
彼の瞳が暗い笑みを宿してることに気付かずに…
「じゃあ俺ゴードンのおっさんと話してくるから!部屋に入ってから開けてくれ!」
古城に着いてゴードンに挨拶した後ルフィは木箱をウタに渡してゴードンと共に城の奥へと向かった。ウタは幼馴染のプレゼントの中身が楽しみにしながら部屋に向かった。
結構重たいな?まさか海賊らしく宝石の山とか?珍しい工芸品かな?
色々と想像しながらウタは自室にたどり着いた。
部屋に入るとベッドの上に乗っかり箱を置いた。
箱の中身はなんだろな〜♫即興で作った歌を歌いながらウタはカギを差し込み…蓋を開けた。
部屋に腐臭と血の匂いが充満した。
「ウグッ⁉︎えっ…な…何これ…?い…イヤアアア⁉︎」
突然の異臭に驚き口元を服の裾で押さえながら箱を覗き込むと…
男の顔と目が合った。
「ヒッ⁉︎ア…アア…なに…何これえええ…⁉︎」
いたずらにしては明らかに度が過ぎてる。少し時間が経ち落ち着き出した時ウタはあの顔に見覚えがある気がした。
恐怖に震えながらもう一度箱の中身を覗き込む…
「ウグッ…ウゥ…っえ?」
その顔には見覚えがあった。赤い髪。無精髭。そして左目の三本の傷跡…
「シャン…クス…?」
それは紛れもなくかつて自分が愛し自分を捨てた父シャンクスの顔だった。
「アア…ア…イヤアアアァアアアアアッ!!!???」
城中にウタの悲鳴が響き渡った。
「イヤアアアッ⁉︎シャンクス…!シャンクスぅ⁉︎」
ウタは泣きながら冷たくなったシャンクスの頬に触れる。開いた瞳は何も光を宿してなかった。自分の名を呼ぶこともなかった…
「なんで…なんでなんでなんで⁉︎どういうことルフィ…⁉︎」
幼馴染の名を呼んだ時に今ルフィがゴードンと共にいることを思い出し血の気がひいた。
ウタは震えながらも慌てて部屋を飛び出しゴードンを探した。ルフィの影に怯えながら食堂の扉を開けるとテーブルの奥でゴードンが座っていた。
「ゴードン…!大変なの⁉︎シャンクス…シャンクスがぁ…!」
ウタが泣きながらゴードンの広い肩に飛びついた。その瞬間。
ガターンッ!
ゴードンの身体は床に崩れ落ちた。彼の首はあり得ない方向に曲がり息をしていなかった。
「イヤアアアァアアアアアッ⁉︎イヤアアアァアアアアアァアアアアア!!!!」
あまりの異常事態にウタはその場でへたり込み頭を抱えて泣き叫ぶしかできない。
彼女の後ろから忍び寄る影に気付かず…
「ウ〜タッ♫」
その声が聞こえた瞬間彼女の意識は途絶えた。
そした気がつくと冒頭の牢屋に入れられていた。手錠がされており近くにいたルフィに恐怖を感じながらもウタはなぜシャンクスをそしてゴードンを殺したのか問いただした。するとルフィは悪気なく答える。
「ああ!お前が言っただろう?どれくらい強くなったか試してやるって?今シャンクスって四皇なんだ知ってたか?どれくらい強くなったかわかりやすいと思ってな!ゴードンのおっさん?ああシャンクスのこと話してウタを連れてくって言ったらうるさくってなぁ…」
と屈託のない笑顔を自分に向けた。
その答えにウタはポカンとした後体の中に湧き上がった怒りと殺意をありったけルフィに怨嗟の声を上げてぶつけ続けた。それを素知らぬ顔で交わし続けるルフィに業を煮やし歌で眠らせようとした。だがいくら歌ってもルフィは眠ることはなかった。
「ああ無駄だよ?これ海楼石って能力者の力を封じる石が仕込まれててな?手錠の内側についてるから俺は大丈夫だけど…」
「ヒッ…⁉︎いや…来ないで…!人殺し⁉︎」
全ての抵抗を封じられたウタは近づいてくるルフィに牢屋の石壁まで後ずさるしかなかった。
「人殺し?」
「ヒッ⁉︎ごめ…なさ…」
彼を怒らせたと思いウタは震えながら謝ってしまう。
するとルフィは
「なっはっはっはっはっ!」
と大笑いし出した。
「おいおいウタぁ?お前がそれ言うか?思わず笑っちまった!」
「え?」
何を言ってるかわからず呆気に取られると
「なんだお前知らなかったのか⁉︎全くあのおっさんもシャンクスも何やってたんだが…」
ルフィは二人の名を憎々し気に言うと牢屋の隅に置いていた映像記録電伝虫を持ってきてウタのリボン状にまとめてる髪を引っ張った。
「イヤァッ⁉︎痛い…!痛い!やめてぇえええ⁉︎」
ウタは恐怖と痛みで泣き叫ぶ。
「おっと悪いウタ⁉︎ほらいいもん見せてやるよ?」
ルフィはウタの方を抱き寄せ電伝虫を操作した。
「え…?」
牢屋の壁に映し出された映像を見てウタは言葉をなくす。まるで怪獣映画のような怪物が街を蹂躙する映像が流れそれを止めるために戦う父シャンクスたち。そして…
「あのウタという少女に気をつけろ!あの子の歌は世界を滅ぼす!!」
「わた…し…?」
自分の名を言われた途端ウタは『あの日』忘れた記憶の鱗片を思い出した。
そうだ…
あの時…古びた楽譜を見つけて…
どうしても歌いたくなって歌った途端…
ウタは気づいた。思い出してしまった…
自分がこの国をここに住んでた国民をゴードンを除いて皆殺しにしたことを…自分が怪物だとということを…
ウタの中で何か大切なものがガラガラと全て崩れていく音がしたと同時に彼女の瞳から光が消えた。
「シャンクスから聞き出した時は驚いたよ…まさかお前をこんなところに置き去りにするなんて…ゴードンのおっさんもお前をこんな島に12年も閉じ込めるなんて…酷いやつらだな…もう一度殺してやりてえ…!」
ルフィがウタを優しく抱きしめ怒気を纏いながら話しているがウタは彼が何を言ってるか理解できない状態だ。
「でも大丈夫だ…」
ルフィは歌の耳元で優しく囁きだす。
「俺はお前を一人にしねぇよ…!」
その言葉はまるで毒のようにウタの体に浸透していった。
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一週間後
「みんなただいま!」
「遅えぞルフィ!急にどっか行ったりするしその次はまたどっか行ったりしやがって!な〜にやってんだよ!」
ウソップが帰りが予定より遅かったルフィに文句を言う。
「ごめんなさい…!私が引き止めちゃって!」
「おっ⁉︎可愛い娘ちゃん♡ってルフィ誰だその子?もしかしてお前が言ってた幼馴染か?なんでこんなところに?」
「ああみんな紹介するよ!俺たちの新しい仲間だ!」
ルフィに肩を抱かれウタは微笑んだ。
その瞳に深い闇を宿しながら…
終