優しい炎は少女を包む
思わず飛び起きた体の、震えは治まらなくて。
ベットから飛び出して。
洗面所で顔を洗い、こっそり家から飛び出した。
また夢を見た。
御巫だった頃の。
お家の人達に望まれ、縛られ続けた頃の、夢を。
―もう自由、なのに。
―もう過去の呪縛は解いたのに。
―オオヒメ様やハレ、ニニが背中を押してくれたのに、まだ私は怯えているの。
星の輝く夜空を見上げて。
震えている体を抱き締めた。
こんなに綺麗な夜なのに。
訳の分からないのない恐怖が体を包み込む。
恐怖から逃れるため耳を塞ぎ目を瞑り別のことを考えようとした。
ふっと脳裏を横切った人の名を、思わず呼んだ。
途端に脳内を埋め尽くす彼との記憶。
眼鏡を掛けた茶髪の男の子。
純粋な笑顔。
誰を助けようとするカッコイイ顔。
誰かのために、堪える顔。
自分を呼ぶ、優しい声。
嬉しいような、切ないような。
一緒にいるだけでそんな気持ちになる、彼との記憶。
「フゥリ!?」
―、え?
記憶と現実がごちゃ混ぜになって、その声がどちらか気づくのに時間がかかった。
どっち?と考えていると腕を掴まれる。
「フゥリ!」
「・・・・ギー、ク・・・・・・?」
さっきまで私の中を占めていた彼が、そこにいた。
とても心配した表情で、こちらを真っ直ぐに見つめて。
「目を覚ましたら居ないし、寝てるファイア残して探すのもどうかと思ったけど、でもフゥリに何かあったらって、」
そう一気にまくしたてるギーク
薄っすらと汗が流れてて、息も荒らげてるのを見て、申し訳なさと一緒に何かが心の中で溢れてきた。
は、と我に返って慌て謝った。
「ご、ごめん、少し散歩を・・・・」
「・・・なんだそうだったのかー、ごめん早とちりした。」
どくり、と心臓が鳴った。
安心したような笑顔を見て心臓の鼓動が速くなる。
熱い、顔が、体が。
ぽん、とギークが私の頭を撫でると隣に腰を下ろした。
つられて私も座る。
沈黙が舞い降りた。
気まずそうに頭をかいて、ギークが空を見上げる。
「綺麗な星だねー・・・・・・・」
「・・・・・ええ」
再び沈黙。
―なんでだろう。
触れそうで触れない、私たちの距離。
触れたい、と思う。
でも、触れたら逃げ出してしまいそうで。
―物凄く、胸が痛い、というか、
―ギークと居ると、変になる、心地良いような、とにかく気持ちが纏まらない。
それにギークと一緒なら哀しみも痛みも乗り越えていける気がする。
膝を抱えて縮こまった、時。
夜空を見上げたその瞳に、心配の色が走っていた。
「どうか、した?」
「え?・・・・・・うん、君じゃなくて?」
ぽかん、と口を開けて彼の顔を見つめた。
なんか震えてたから?
そう、心配で堪らないといった表情で。
「言いたくないならそれでいいよ、でも、急にいなくなるのは御免だよ」
そう言って、立ち上がろうとした。
その時、反射的にに体が動いてギークへ飛び込み、抱きついた。
うおっ!?と言いながら支えてくれるギークが、優しくて、辛い。
でも今はこの優しさに甘えた。
「怖い、夢を見てッ・・・・・!」
「・・・・うん」
「御巫だった頃の夢を見て、怖くって、」
「うん」
矛盾だらけだ。
嬉しい、切ない。
触れたい、逃げたい。
知られたくない、知って欲しい。
しがみついて。
背中に回る腕を感じて。
オオヒメ様に選ばれたのに。
支えてくれる人がいるのに。
夢でこんなに怯えるなんて。
「フゥリ、」
びくり、と体を震わせる。
呆れられた、嫌われた、なんて単語が頭に浮かんだ。
ごめんなさい、と言おうとした時だった。
「もう、大丈夫だから」
「苦しいなら僕がいくらでも話を聞くし支えるから」
「フゥリに、もう二度とあんな思いはさせないよ」
私を縛ってる鎖が切れていく感じがした。
安心したのか、睡魔が襲ってくる。
邪魔になる、退かなくては。
そう思うのに、この腕を振り切りたくない。
でも、もっと、もっと、くっついていたい。
「ギーク・・・・」
「・・・・フゥリ、僕は、」
ああ、分かったわ。
私がギークに矛盾した思いを抱える理由が。
今まで縁がなくて。
そのうえ初めての感情で、絶対とは言い切れないけれど、でもこの感情はきっと
「あなたが、・・・す、き」
「君がす・・・・って、え?」
きっと、そう。
素っ頓狂な声を聞いた気がするけれど、温もりがあまりに心地よくて。
そのまま、目を閉じた。
*-*-*-*-*-
「ふぁ~おはよう、フゥリ」
「おはようございます。ギークは・・・」
「ん、相棒かそれならまだ寝てるぞ。どうする?起こすか?」
「いえ、昨日遅くまで起きていたで・・・もう少し寝かせてあげましょう」
(ん、相棒は昨日一番最初に寝たはずだが・・・まさか相棒ついにヤッたのか)
(・・・・どんな顔してフゥリと話せばいいんだ・・・・・!!)
(私が眠ったあと家まで運んでくれたみたいだし・・・今日はゆっくりさせてあげたい)
(改めて想いを伝えるのは、また今度にしようかな。)
後書き
このお話ではファイアは二人が両片想いのことに気づいている