悪々マヌル 後半④
「カスパー。お前はなんで勇者に協力してるんだ? マヌルが協力する理由は何となく解るが」
「彼女が神に選ばれた勇者だからですよ。私の本職は宮廷魔術師、国王陛下より勇者をサポートするよう仰せつかっています」
「そうかよ……じゃあ俺たちは国家ぐるみの陰謀に巻き込まれた訳か。冗談にしてもちょっと現実味が足りねえな、ハハ」
「こういう事は結構ありますよ。私のような魔術師がどうにか隠蔽しているだけで…………そろそろ目を閉じて下さい。あなた達の記憶を消去・捏造してパーティから追放します。決して不要な危害は加えませんし、迷惑分の補填も密かにさせて頂きます。”再利用”などもしないのでご安心ください」
「そうか。それが本当なら良いんだがな」
ケンシは鼻で笑う。
「外道ばかり働いては、こちらの精神が持ちませんので」
カスパーはそう言うと、指先に蒼い光を灯した。記憶を操作する魔術の準備だ。
観念したケンシは目を閉じ──────しかしティゴは目を閉じなかった。疲れた眼で三人を観ている。
「……どうしましたかティゴさん? 目を閉じたリラックス状態でないと、何かのキッカケで解けたりするリスクがあるのですが」
「私からも質問がある。勇者……あなたの魔王への憎しみは本物? それとも演技?」
「もちろん本物だよ。魔王は大っ嫌い」勇者は答える。
「…………そっか」
ティゴは苦笑いを浮かべて目を閉じた。別に相手を許した訳ではない。『自分が知る仲間の姿は、全くのウソではなかった』と安心を得ただけだ。
二人の額に指が触れた。
※
マヌル視点
今、僕は勇者ちゃんと一緒に街中を歩いている。
ケンシとティゴ周りの後片付けを終え、カスパーは国に報告しにいっていた。久しぶりに取れた二人きりの時間。
「勇者ちゃん。僕がいない間、ちゃんとバランスの良い食事とってましたか?」
「めんどくさくなってテキトー料理で済ませてた。でも良いじゃ~ん、これからしばらくはマヌルがご飯作ってくれるんだからさ」
「そりゃそうですけどね」
今日はオフ。子どもの頃、幼なじみだった僕と勇者ちゃんでフランクに語り合う──────昔の幸せだった頃のように。
昔の記憶が自然と脳裏に蘇る。
──────魔族と人間の間に生まれた僕と■■。本来なら迫害されるような存在だったが、しかし故郷の村はそれでも僕らを暖かく迎え入れてくれた。
幸せな環境だった故郷は、ある日突然襲われた。母に僕らを産ませた魔族に襲われた。襲った理由は分からない。魔族の思考なぞ考察するだけ無駄だろう。
「それよりさ、買い物に行こうよマヌル。武器がへたってきたから新しいの欲しいんだよね」
「良いね。ついでに防具も新調しちゃいましょう」
悲劇が始まったのはそれから。魔族に襲われた時、■■が家族と共に攫われていたのだ。
下手人は例の魔族。魔族は人間よりも圧倒的に強く、子供であった僕に取り返す事は不可能だった。生き残った村の大人も同様。
だから僕は、復興の為に来た兵士に頼み込んだ。『攫われた■■ちゃんを取り返して欲しい』と何度も、何度も何度も。子供だった僕にとって武器を持つ兵士は英雄も同然だったのだ。
だが実際の所、兵士は英雄などではない。魔族に攫われた女の子を取り返すことなど不可能だった。
「だね……あっ、見てよマヌル。『食べるだけで強くなるスーパーフードォ! 力のたね』だって! あれ食べようよ!」
「勇者ちゃん、勇者ちゃん。前に似たようなの食って腹壊したの忘れましたか? どうせアレもニセモノですよ」
「そりゃ憶えてるけどさ…………でも本物の可能性だってあるよ」
「ないない」