悔い、杭、報い

悔い、杭、報い



朝方、珍しく永夢が弁当を忘れた。仕方なく病院近くにワープでひとっ飛びして行くと、途中である親子と出会した。それが、良くなかった。


「大した事なくて良かったな」

「うん!! えへへーお父さん大好き!」

「コラコラ…急に抱きつくなよ…。お父さんもお前が大好きだよ。さあ早く帰ろう。今日の晩御飯はお前の好きな肉じゃがだからな」

「本当!? じゃあ家まで競争ねー!」

「ああコラ待ちなさい…! そんなに早く走ったらまた怪我をするぞ!」


 目の前を過ぎっていく仲睦まじい父子はどうやら病院からの帰りらしい。俺はそんな二人を前にして動けなくなった。そんな俺を不審に見ることもなく仲良しの親子は走って帰路についていった。


 幸せな親子はどうしても俺の内にある後悔を刺激する。

 後悔は杭のようだ。心の根幹を深々と貫き、抜けることは無い。それは清長が死を望んだ時から変わることはない。変わらない私は完全に不要で、消えていくはずだった。


それなのに未だにパラドックスの基盤にあり続けている。


「………幸せそうだったな……」


 二人のやり取りが頭にリフレインする。

 あれは清長が出来なかったことだ。

 ああなれなかった、そうあれれば良かった。

 後悔が急速に俺を飲み込んでいく。私は考えを止めることが出来ない。


 私はあの事故の日に永夢を見捨てた。そのことに後悔を抱いた時にはもう何もかもが遅かった。もしもあの時、清長が永夢の見舞いに行ければ…何かが違っていただろうか?


 もしも何かが違えば私はあの親子のようになれただろうか? あんな風に息子を愛してあげることが…息子に愛されることが……。


いいや。

いいや。


 そんなことは断じて無いだろう。

 何かの条件が違ったところで、きっとああはなれない。外部からのきっかけがあって、漸くあの決意が出来た私には絶対に。

 あのままの私では永夢は愛せなかったし、永夢もそうだろう。薄汚れた人間である清長には決して出来ない。

 彼に望まれた存在だからこそ、純粋に彼を愛し守ってあげられる。永夢を愛せるのも、愛されるのもパラドックスにしか出来ない。


私は誰かを愛したり愛される資格など無い。



「おーい、パラドーー!!」


 遠くから永夢の声がして我に返った。途端にあんな考えを抱いていた自分がバカバカしくなる。

 宝生清長はもういない。必要がないから、あの瞬間に自分で見切りを付けたのだから。自分自身を見限ったのに何故こうも罪深い望みを今になって抱いてしまったんだろう。



「もうとっくに終わった話なんだよな、結局……」


そう自嘲して、弁当を届けに永夢の方へ向かった。


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