息子の恋色事情side:A ①【一部閲覧注意?】
海軍本部 Aー2『特別房』
「―――以上のことで間違いありませんね、ドロウ中将」
海軍本部のとある一室。海牢石で上下左右を固められた、窓のない部屋に女性の声か響く
火傷と切り傷を全身におった男が拘束され、地面に座り込んで・・・・否、座らせられていた
ジロリと目の前の人物を睨む中将と呼ばれた男。その肩に、正義が背中に書かれた海軍コートはすでに掛かっていない
『もはや掛ける価値もない』と判断され、取り上げられたのだ
「・・・そうだ。おれは海賊共を逃がさず殲滅するために――」
「――『周囲にいた子供たちが巻き添えを食うのも構わずに炎を放った』・・・ですよね?」
淡々と事実だけを述べるその女に、ますます男の視線は鋭くなる
海軍中将【支配の悪魔】マキマ
階級においては自分と同じ。にもかかわらず、目の前の女性は海軍本部から・・・現在の元帥であるセンゴクからも信頼されると同時に恐れられていもいると有名だ
曰く、100年を超える年月を生きる不死身の魔女
曰く、彼女の指銃一発で巨漢の海賊の半身が粉々に吹き飛んだ
曰く、革命軍とも繋がりがある
曰く、曰く、曰く―― 彼女に関する噂は事欠かず、どう考えても嘘であろうものや、信憑性が高く事実だろうものなど多々にわたる
そんな海軍の生ける怪物がなぜ自分に尋問しているのか、これがわからず彼女を睨むドロウ中将
『自分はただ、自分の正義を貫いただけだというのに 』
・・・そう目の前で反省する素振も後悔の色もなく反抗的な目を向ける彼に対してマキマ(私)は怒りを通り越し、呆れを超えて、ただただ無の感情のみを顔に浮かべていた
『自分は悪くない。周りが悪い』 目でそう言っているのがひしひしと感じられる。そもそも自分で起こした事態だというのに責任転嫁も甚だしい
よくもまあこの異常な精神を保ちながら海軍中将にまで登りつめたものだ、と一瞬思わず感心してしまったほどだ。だが、ここまで自信満々でありながらその行為には穴も多い
そもそも被害にあった子どもたちにしても、彼の中将という立場なら部下を使って穏便に言い聞かせるなり強制的に追い払うなりができたはずである
民間人を守る、海軍としての責務を放棄し、自分の行動が正しいと一掛けも疑っていないその様は見るに耐えない、否、すでにマキマの目線はドロウの監視役の海兵二人のうちの一人に向いていた。目を背けたことで僅かばかり生気の戻った目で視線の先の海兵に問いかける
「彼は捕まってからずっとこのまま?」
「はッ!何度も自分のした行為を認めるべきだと説得は行われたのですが・・・・・」
「おれは間違っていない!! 海賊を殲滅するには必要な犠牲だった!!」
「・・・・このように話にならず・・・」
年若い海兵がため息をつく
「もういいです、わかりました。」
よく理解できた、したくないが。ここまでひどい自信家(いじょうしゃ)は見たことがない。【徹底的な正義】を掲げ、苛烈なことで有名な海軍大将【赤犬】でさえもここまで異常な男ではない
あの男は出す必要のない犠牲は 極力避ける人間だ。必要ならば同僚だろうが民間人だろうがいくらでも犠牲にするのだが
ともかく、こちらと同じ『人間』だとは思いたくないとハッキリ思う、そんな人物である・・・まあ自分も純粋な『人間』ではないのだが
「彼はこちらで『処分』させて頂きます。よしなに」
「は、ハッ!!」
「御苦労様であります・・・!!」
海兵二人が顔をひきつらせ青くする。・・・・そんなにおかしなことを言っただろうか?自分が来たということは『そういうこと』と同義であるというのに
「おい、何の話をしているんだ!おれの話を聞け!!」
うるさいなァ、こっちは仕事で来ているってのに。・・・・『 残機』にしようとも思ったがやっぱりやめた、間違ってもこんなやつ自分の『一つ』にしたくない
なんというか、生理的に受け付けない
「・・・ああ、なんだ」
一度持って帰ってから、と思っていたが、『処分』はここでしてしまおう
どうせこの部屋も『処分』でよく使う一室なんだから、多少汚れても問題はない
「死体が喚いてる」
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見張りの海兵二人が青ざめた顔で歯をガチガチ言わせ震えている。・・・・・よく見たらこの二人見たことのない顔だ
あー新任の子らか、悪いことしたかなァ。でも『新世界』前の『楽園』でもこういうのはたまに良くあることだし、まあいい経験になったんじゃないだろうか
―――一応、後でメンタルケアもさせておこう、うん
・・・そんなことを考え、床に転がる『それ』に視線を向けることなく、私は部屋を後にした
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海軍本部 マキマ中将執務室
「――――――さて、」
面倒な『用事』は終わらせた。本番はこの後、『あの子』と接触したという『彼女』との対面だ
『彼女』が来るのを、今か今かと 待ち望む。こんなにウキウキした心持ちはいつぶりだろうか
恋心を自覚した時の旦那との初デート?いや、実の息子が初めて自分のことを「かーちゃ」と呼んでくれた日も捨てがたい
『あの子』が自分の作った料理を食べて初めて言った「ごっそさん。・・・うまかった」もあるし・・・・今はもういないあの子が、夢のために航海術を学び始めたときに、必要な本やペン、ノートなどをあげたときの満面の笑みと「ありがとう!!」なんかは心臓が止まるかと思ったし・・・・・
ああ、ニヤニヤ顔が止められない。早く来ないかなァ
コンコン、と扉から音が鳴る
ハッとして浮かべていたニヤケ面を必死で真顔に戻す。こんな顔、流石に他人に見せられない
コホン、と息と姿勢を整え、扉に声をかける
「どうぞー」
「ハッ!失礼いたします!」
ガチャリ、と扉を開けて入って来たのは女の海兵だった。夕焼けのような色の髪をボブカットにし、凛々しげな雰囲気を感じさせる
「ごめんなさいね、これから色々忙しいって時に呼びつけたりして」
そう彼女に詫びる。実は彼女、先ほど処理した・・・・ええと、なんて言ったっけ・・・ど、ど、どろ・・・ああもう、面倒くさいからドロ男でいいや
そのドロ男の部下であり、彼の起こした被害の犠牲者でもあるのだ。まあ後者はつい最近知ったらしいが
そのドロ男が『いなくなった』ことで彼女の今の立場は宙ぶらりん。優秀な海兵であることもあってか、どこの部署からも 喉から手が出るほど欲しい人材で、連日スカウトの嵐を受けていると聞く
「いえ・・・お構い無く。それで私にどういう・・・」
「あー、そう緊張しないで。貴女とは一度、話をしてみたいと思ってただけだから」
「話、ですか?わたしと?」
「うん。貴女と―――エースの話が聞きたいな、ってね
イスカ少尉」
「ッ?!」
思わず、と言った感じて身構える彼女に苦笑して、手をパタパタと振りながら否定する
「あー、違う違う。別に尋問とかそういうのじゃなくて、息子の近況が知りたいな、ってだけだから」
「・・・・・は?息子?」
「そ、息子。わたくしモンキー・D・マキマはボートガス・D・エースの育ての母であります」
一呼吸置いて、
「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!??」
と、ものすごく驚かれた。・・・そんなに以外?