恥ずかしい記録
穏やかな快晴の中をゆくサニー号、クルーが各々自分の時間を満喫する中、ウソップはダイニングで電伝虫をいじっていた。
「なんだそのクソデカイ電伝虫?サニー号にそんな大きさのヤツいたか?」
キッチンから今晩の仕込みをしながらサンジが問いかける。
ウソップの手元にあるそれは、通常の電伝虫と比べてもかなり大きく、両手で抱えるようなサイズであった。
「いや、コイツは昨日エレジアの海岸でチョッパーと見つけたんだ。カラの調子が悪いみたいだから、このウソップ様がカラを修理をしてやろうと思ってな」
「ふーん、しかし大きさといい形といい見たことないタイプだな」
「こいつは多機能型で、通話以外にも録音や録画ができる優れモノなんだぜ、こいつの調子が戻ればウタやトトのライブを映像付きで保存できるようになるぞ」
「何!ってことはウタちゃんやトトちゃんのダンスがいつでも見れるってことか!?いや、ここはナミさんとロビンちゃんに加わってもらって……」
妄想の世界に入り込んでしまったサンジを横目にウソップは修理を続ける。
………それがこの後の大騒動を引き起こすとも知らずに。
夕食を終え、しばらくたった夜半、ようやく作業の手は止まった。
見物客はキッチンにいるサンジだけでなく、金具を動かすカチャカチャという音につられてやってきたウタ、チョッパー。
ウタとチョッパーを愛でつつ読書をするナミにロビン。
夕食後の晩酌をしながらウソップの手元を眺めるジンベエとゾロ、一味の大半がそこには集まっていた。
「……できた」
ウソップは、ふう、と満足そうに額の汗をぬぐうと、電伝虫を台座に置いた。
ぼーっと作業を眺めていたウタとチョッパーも一気に覚醒し、電伝虫の周りに集まる。
「できたのかウソップ!おれにも見せてくれ!」
「さっすがウソップ、器用だね!」
「まてまてお前ら、まずは録画、再生の機能をチェックしてからだな……」
「あ、これかな?」
「っておい!聞けよ!」
ザーザーという音とともに映像が展開される。
ノイズとともにそこに映っていたのは、トトであった。
いや、トトではあるのだが、普段の彼女の姿ではなく、トットムジカとしての姿であった。
音も聞こえず、映像にもノイズが走る上に彼女の全体を映しているためか、戦っている相手はわからない。
だが、その戦いの苛烈さは伝わってくる。
しかし。
「んー、なんだかトト寂しそう」
「え゛」
「暴走している、というわけではないのね」
「うん」
「ちょっとウタそれホント!?」
「2年前のおれのモンスターポイントみたいになってるんじゃないのか!?」
映像の様子を見ると、チョッパーたちの感想は的を射ているように思える。
しかし、ウタにはどうしてもそう思えなかったのだ。
「自分を歌ってほしい、自分の歌を聞いてほしいって泣いてるみたい」
「そこまでわかるもんなのかいウタちゃん?」
「うーん、感覚みたいなものだけどね」
そう言って唇に人差し指をあてて考え込むウタ。
なんとかして一味のみんなに伝えられないものだろうかと、映像に目を凝らす。
「あ、ココ。ここなんか周囲の人をつかんで自分の歌を聞かせようとしてる」
「わかるか、ジンベエ?」
「すまんサンジ、ワシにはさっぱりわからん」
「あとここ。な゛ん゛て゛き゛い゛て゛く゛れ゛な゛い゛の゛ー!って泣いてる」
「泣いてない」
「いや泣いてるって、ほらここなんか手までふって駄々っ子みたい」
「駄々っ子じゃない」
「いや、お姉ちゃんの私が言うんだからホントだって!」
思ったような反応を得られず、もう!とウタが振り返ると、そこには真っ赤になって拳を震わせるトトがいた。
すでに一味は壁際に退避済みのようである。この薄情者どもめ。
「やっぱ泣いてるって」
「ぶっ壊す!!!」
この後サニー号では電伝虫をもって逃げるウタと、電伝虫を破壊しようとするトトの追いかけっこが夜が明けるまで続いた。
「いいからそいつを置いてけ!逃げるなウタ!」
「なんで!?可愛いじゃない!大事に記録しとこうよ!」
「絶対にゴメンだ!!!」
「んで、結局泣いてたんだろ?」
「しししし!おう、よくわかったなゾロ。あれは泣いてる。」
「俺も我慢してるときに限ってバカバーグに当てられてたのを思い出すぜ」
「私の観察眼もまだまだですね。目、ないんですけど。ヨホホホホ!」
「「お前ら和んでないで止めてくれ~~!!!」」