恐怖に負けない理由

恐怖に負けない理由



「ウタ……!! もうちょっとだけ待ってろ!!!」

「絶対におれ達がお前を助ける!!!」


全身が恐怖に震えている。身体の震えを誤魔化すようにウソップは肩に乗るウタに叫ぶ。

目の前にいるのは「ドレスローザ」を支配する闇の根幹、”ホビホビの実”の能力者シュガーとその護衛であるドンキホーテファミリー最高幹部の一人トレーボル。


この「ドレスローザ」で起きている悲劇の大本を断ち、反逆の狼煙を上げるために立ち上がった「ドレスローザSOP作戦」。

外で囮となっているフランキーを除けば”自分とウタの二人”とトンタッタ族でシュガーの能力を解除させなければならない作戦。


しかし、共闘するトンタッタ族たちは既に全滅し、この場に立っている味方は自分だけだ。

相手は王下七武海の配下、しかもその最高幹部がいる。自分ではどう考えても敵う相手ではない。


「ウソ゛ランド……!!!」


地に伏したトンタッタ族の戦士レオが加勢するために身を起こそうとするが、身体が言うことを聞かない。

他のトンタッタ族も皆ウソップを信じ声をあげることしかできない。


まさに孤軍奮闘。ここにはウソップたちの助けとなるものは存在していない。

それでもウソップは必死に自分を奮い立たせ、闇を打ち払わんと武器を構える。


ウソップを鼓舞するかのように肩に乗るウタがギィギィとオルゴールの音を奏でる。


「私、その音…」


その音を聞き、シュガーは不快そうに眉を顰める。


「嫌いだわ」


「べへへへー!! 珍しく意見が一致したなァ~シュガー!!」


シュガーの発言に同意するように下品な笑い声をあげるトレーボル。


目の前にいる男は大した強さではない。自分たちの勝利は揺らがない。

そんな慢心ともとれる余裕を滲ませた笑い声だった。


そうやって勝利を確信していればいい。絶対に足元を掬ってやる。


「男には、逃げちゃいけない時がある……!!」


決意を胸に、ウソップは吠える。

成し遂げなければならない。この国で巻き起こっている悲劇を終わらせるために。


「仲間の夢を笑われた時……そして!!」


自分の嘘を純粋に信じているトンタッタ族を裏切らないために。


「苦しんでる仲間を助ける時だ!!!」


肩に乗る小さな仲間を解放するために。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「ウォーターセブン」に停泊中のゴーイングメリー号内部に麦わらの一味が揃っていた。


空島から奪った黄金を換金した3億ベリーを元手に、様々な冒険を経てガタがきていたゴーイングメリー号を修理するために一流の造船所で知られるこの場所へ寄ったのだ。

だがしかし解体屋「フランキー一家」の手により2億ベリーが奪われ、取り戻さんとしたウソップもまた返り討ちにあいボロボロになってしまった。


ルフィたちは己の不甲斐なさと仲間が信じて預けてくれた大金をみすみす奪われた悔しさに涙を流すウソップを励まそうとする。

励ましの言葉である程度立ち直ったウソップはこれから残った1億ベリーでメリー号をどのように修理するのかをルフィに尋ねた。


資金が3分の1にまで減ってしまっては、ある程度工夫しなければいけないのではないか。

1億ベリーも大金ではあるが今後の航海に耐えられるようにメリー号を補強しなければならないだろう。


そんな風に頭を悩ませるウソップにルフィは告げる。


「船はよ! 乗り換えることにしたんだ」

「ゴーイングメリー号には世話になったけどこの船での航海はここまでだ」


「?……?」


最初、ルフィが何を言ってるのか理解できなかった。

耳に入る言葉は分かるのに。言っている意味がまるで理解できないという不思議な感覚だった。


自分が2億ベリーを奪われたせいで修繕費が足りなかったのかと聞けば、そうじゃないとルフィは言う。

なら何でそんなこと言うんだ?メリーは”東の海”から”偉大なる航路”までずっと頑張ってきた”仲間”だろ?


ひょっとして金を奪われたおれに気を使ってるのかと聞けば、そうじゃないとルフィは言う。

なら何でそんなこと言うんだ?お前は”仲間”を絶対見捨てない男だっただろ?


ルフィとの会話で徐々に熱が入り、お互いに声を荒げていく。

周囲の仲間が落ち着かせようと嗜めるが、二人は止まらない。


そして、遂にルフィがその現実を言ってしまった。


「メリー号はもう、直せねェんだよ!!!」


「!!!?」


造船所の船大工にそう告げられたのだとルフィは言う。

船の魂とも言える「竜骨」の損傷により、もはや次の岸までたどり着くことすらできないのだと。



――大丈夫、もう少しみんなを運んであげる



「……………………」


信じたくなかった。いつか一緒に”東の海”に帰り、自分たちの冒険譚を故郷の皆に伝える未来を思い描いていた。

そのメリーが、ここで終わりだという現実に打ちのめされる。


だが、それと同じくらいに……


「何言ってんだお前……ルフィ」


この何処までも真っすぐで、馬鹿正直で、仲間を誰よりも大切に思っている船長があまりにも”らしくない”決断をしたことが信じられなかった。


船大工にダメだと言われた?それで諦めるような男だったのかお前は?

自分たちは船大工じゃないから正確な判断ができない?そんな妥協をするような男だったのかお前は?


おれ達の船長は……麦わらのルフィは、そんな風に行儀良く正常な判断として”仲間”を置いていくような奴だったのか?


グチャグチャになった頭でウソップはルフィにがなり立てる。

自分が何を言っているのか、よく聞こえなかった。


「バカ言え!! 仲間でも人間と船じゃ話が違う!!」


クラクラする頭にハッキリと届いたルフィの言葉に、身体の奥から煮えた熱が噴出するのを感じた。

違う?違うと言ったのかこいつは。今までずっと一緒にいたメリーに対して。


吹き上がるマグマのように一瞬で頭が沸騰する。

頭の中がチカチカと点滅しているように感じる。余りの怒りにまともな思考ができない。


「お前はッ……!!」


その荒れ狂う激情のままにウソップは叫ぶ。


「ウタを捨てろって言われたら捨てられんのかよ!!!」


「……!!!」


ウソップの叫びを聞き、目に見えてルフィの顔が強張る。

そんなルフィの変化にも気付かずウソップは捲し立てる。


「お前が言ってんのはそういうことだ!!」

「メリーだってずっと一緒にやってきたんだぞ!!!」

「『使えなくなった仲間』は切り捨てんのがお前のやり方なのか!!!」


「ウソップ!! 言い過ぎよ!!」


堪らずナミが制止の声を投げかけるが、止まらない。


「メリーもおれらと同じだ!!! 生きたいって底力がある!!!」

「なのにもう次の船に気持ち移してわくわくしてんじゃねェよ!!!」

「上っ面だけメリーを想ったフリしてよォ!!!」


「!!! いい加減にしろお前ェ!!!」


限界を迎えたルフィがウソップを地面に叩きつける。

止めようとするナミの声も今の二人には届いていなかった。


「お前だけが辛いなんて思うなよ!!! 全員気持ちは同じなんだ!!!」


「だったら乗り換えるなんて答えが出るハズがねェ!!!」


かつてない剣幕で怒鳴るルフィ。

それに負けずなおも食い下がるウソップ。


互いの怒りが燃え上がり続け、もはや当事者二人では止められないほどの勢いになってしまっていた。


「…………!!! じゃあいいさ!!! そんなにおれのやり方が気に入らねェんなら」


売り言葉に買い言葉。ウソップの言葉を受けて頭に血が上ったルフィが感情のままに口を開く。


「今すぐこの船から…」


「バカ野郎どもがァ!!!」


その言葉を言い終わる前に、サンジが強引に割って入る。

止まらない二人が纏めて蹴り抜かれ、周囲の備品を破壊しながら壁に叩きつけられる。


「きゃあ!!!」


「サンジ!!!」


ナミの悲鳴と突然のサンジの行動に困惑するチョッパーの声が聞こえる。

しかし今のサンジにそれらを気にする余裕はなかった。


「ルフィ、てめェ今何言おうとしたんだ!!! 滅多なこと口にするもんじゃねェぞ!!!」


サンジは肩で息をしながら顔を青褪めさせ、立ち上がろうとするルフィに向かって叫ぶ。

その言葉だけは言ってはいけない。たとえ何があろうとも。


ルフィを睨みつけていたサンジは同じように転がるウソップにも目を向ける。


「ウソップ、てめェもだ!!!」

「ウタちゃんが怖がってるのが分かんねェのか!! ちったァ頭冷やせ!!!」


「……!!! あ……」


サンジの言葉に、頭の一部が凍り付いたかのように冷えていくのを感じた。


自分は何を口走った?よく覚えていない。

でも、とても酷いことを言ってしまったという感覚だけは残っている。

メリーを切り捨てようとするルフィを非難する口で?

どの口が、何をほざいた?


頭の中に浮かぶ様々な感情の泡はしかし、煮えたぎる激情に押し流されていく。

腹の底から冷えていく後悔と脳内で燃え上がり続ける怒りがウソップの頭でグチャグチャに混ざり合い、もはや自分でも何を考えているのか分からない。


「…………あ、ああ……悪かった。今のは……つい」


サンジに蹴り飛ばされ頭が冷えたのか、先ほどより幾分冷静な口調で謝ろうとするルフィ。

その言葉を遮るようにウソップは声を発した。


「いや、いいんだルフィ…それがお前の本心だろ」


「何だと……!!!」


冷静な部分が「やめろ」と声を上げるが、同時に「今更引き返せない」とも言ってくる。


一度口に出してしまった言葉は取り消せない。自分は”仲間”を切り捨てようとする船長の決定に納得できず反抗した。

ならば、徹底的にやるしかない。ここで発言を翻すのはこの場にいる全員を侮辱することになる。


「この船に見切りつけるんなら…おれにもそうしろよ!!!」


生まれ故郷を狙う海賊を共に撃退したルフィに誘われて”麦わらの一味”となった。

そのルフィと意見を違えてしまうのなら、わざわざ不和を抱えてまで一緒にいることはない。


「おれは……この一味をやめる」


『!!!?』


ナミやサンジ、チョッパーの悲痛な叫びが聞こえる。ルフィとゾロは黙ってウソップを見つめている。

ウタは……


「お前とはもう…やっていけねェ……最後まで迷惑かけたな」


ウソップは、最後までウタのいる方向へ顔を向けることができなかった。



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その後に起きた大騒動とロビンを巡る世界政府との戦いを経て、結果的に自分は麦わらの一味に戻った。

ウタにも土下座をして謝った。許されることではないと覚悟していたのに彼女は許してくれた。


だが、彼女が許しても自分の中にしこりが残ってしまった。

それまではナミと二人でウタの面倒を見ていたが、その後は正式に仲間に迎え入れたロビンが代わるように面倒を見るようになった。


ウタの為の小道具を作ることは変わらなかったが、これまでより少しだけ距離が開いてしまったと感じた。

自分が割り切れていないだけだ。ウタが許しても自分が自分を許せなかっただけだ。

結局そのしこりは残ったまま、ここまで来てしまった。


だから「ドレスローザ」の真実を聞き、それとウタのことが結びついてしまった時は言葉では言い表せない感情が湧き出てきた。

ウタは、ずっと苦しんでいた?このオモチャたちのように声を発することもできない状態で、何年も?


辿り着いた真実を、同じように聞いていたロビンとフランキーの二人に話した時の反応が忘れられない。


普段冷静であることを努めているロビンは、怒りが渦巻いていることが一目瞭然なほどに荒れ狂っていた。

逆にフランキーは静かになった。しかしその静けさは今にも爆発しそうな激情を抑え込んでいるが故だと誰の目にも明らかだった。

自分の中に存在していた「この国での目的はあくまで『工場破壊』のみ」という逃げの選択肢は、跡形もなく消え去っていた。


だから、負けるわけにはいかないのだ。

この国で苦しむ全ての人、そしてウタが待っているのだ。

大切な人から忘れ去られるという地獄からの解放を。


(クソ……クソォ!)


だから頼む。おれに勝たせてくれよ。


全身に走る激痛に耐えながら動こうとするも、何かに阻まれ動けない。

余りの消耗にまともに目も見えない。自分は今どうなっている?


「少し、手こずったわね」


「べへへ……急に狙いが良くなりやがって、ヒヤッとしたじゃねェか」


シュガーの目の前にはトレーボルによって拘束されたウソップ。

その手元にはジタバタと暴れるウタの姿があった。


突如として正確無比な射撃をするようになったウソップだったが、それでもトレーボルには及ばなかった。

いや、そんなことは最初から分かっていた。土壇場で何かに覚醒しようとも自分が勝てないことなど。


目的はあくまで「シュガーの能力を解除させるために気絶させる」ことのみ。

そのために囮用の弾を使い、自分すら陽動に使い、最後はウタに秘策の超激辛”タタババスコ”を託しシュガーに直撃させようとした。


……しかし、それはトレーボルによって防がれてしまった。

如何に油断慢心に身を浸していようとも、相手は王下七武海の信頼する最高幹部にして歴戦の海賊。

ウソップに気を取られていた身体を素早く翻し、シュガーへと向かっていくウタを抑えつけウソップの作戦は失敗に終わった。


(なんでおれは……仲間を助けなきゃいけねェのに……)

(こんなにも弱ェんだ……!!!)


必死に足掻こうとするが、自分の意思に反して身体は動こうとしない。

トレーボルによる拘束がなければ、そのまま地面に倒れ込んでしまうほどの消耗にウソップの身体は悲鳴を上げていた。

そんなウソップの姿を見て、シュガーの手元で抑えられているウタが激しく身をよじる。


「『暴れないで』。あんたは麦わらの一味に対する人質にするんだから」


シュガーの一言でウタの動きが止まる。シュガーのオモチャに対する契約命令が適用されたのだ。


何故麦わらの一味に自分の変えたオモチャが紛れ込んでいたのか、そもそもいつこのオモチャが逃げ出したのか。

調べることは沢山あるが、まずは自分たちに抵抗する麦わらの一味や反抗勢力といった不穏分子を一掃するため利用させてもらおう。


大人しくなったウタと、それを抱えるシュガーを見ながらトレーボルは笑う。


「その大きさじゃ労働力にもなりゃしねェ。終わったら廃棄しちまおうぜェ~~」


「……はァ?」


その軽口にかつてないほどの不快感を覚え、シュガーはトレーボルを睨みつける。

何故そう感じたのか、理由はわからなかった。


「どうしたシュガー? お前ひょっとして…べへへー!! そのオモチャが気に入ったのかァ~~?」

「見た目通りの少女趣味だったかァ~~!!」


「…………そんなわけないでしょ」


トレーボルの揶揄う発言を受け流し、シュガーは手元にある変な匂いのするクレープを掲げる。

こいつらが自分に食わせようとしたこのクレープ。きっと毒入りか何かなのだろう。小癪なことをする。


「この毒入りクレープは返すね」


ならばこいつに食わせて悶え苦しむ姿を見てやろう。人を毒殺しようとした報いだ。

そう思いながらシュガーはウソップの口元へクレープを近づけていく。


(!!)


シュガーの言葉に、一筋の光が見える。


彼女の手元にあるのは毒ではない。いや毒より辛いかもしれない超激辛の”タタババスコ”の塊だ。

それを食わされても自分が死ぬことはない。


もしアレを食べて、自分がとんでもないリアクションをして、それにシュガーがビックリして気絶させられれば……

敵に拘束され、もはや一歩も動けない自分ができる最後の反抗。試してみる価値はある。


(来い……来い!!)


僅かに残った力を籠める。これを放出するのはクレープを食べさせられてからだ。


「あんたが食べて……死になさい」


男ウソップ、一世一代のリアクションを間近で見やがれ。


「ぎィやあああああああああああああああああああああああ!!!!」


その覚悟が実を結んだのか、あるいはそれすら吹き飛ばすほどの激辛だったのか。

口に入れられ喉元を通り過ぎ体内を蹂躙する激痛すら超越した辛さに叫ぶウソップの頭は、その判断がつかないほど真っ白になっていた。


「きゃああああああああああああああああああああああああ!!!!」


天地がひっくり返るほどの絶叫をあげるウソップの顔を至近距離で見てしまい、魂が飛び出るような叫びをあげるシュガー。

その手元にいたウタもまたギィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!と、これまでにないほどの爆音を響かせて驚愕を表現している。


「おい!!? シュガー何してる!! 気をしっかりもてェ!!!」


トレーボルが焦りを隠さず叫ぶ。

その叫びも虚しく、シュガーの意識は遙か彼方へと飛んでいった。


「気絶したァ~~~~~!!!」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「……キュロス義兄様!!」


走り去るその背中に、奪われていた記憶が重なる。


愛する姉スカーレットの伴侶。この国で最強の剣闘士。

そして、レベッカの実の父親。


「ああ、ああ……!! 全部、思い出しました!!」


彼は世界から忘れ去られても、娘のそばにいて守り続けていたのだ。

その事実に涙が溢れてくる。義兄はなんと強い男なのか。


同時に自分たちから彼の記憶を奪い去り、同じ苦しみを民に撒き散らしているドフラミンゴへの怒りも燃え上がっていった。


「麦わら、急いで…!!」


昂る感情のままにルフィに叫ぶ。今こそ全てを取り返す時なのだ。

しかし、その叫びに返ってくる声はなかった。


「……麦わら?」


ヴィオラは反応のないルフィを訝しむ。

如何に自由気ままな男とはいえ、今の状況で他人を無視するとは思えない。

何かあったのだろうかとルフィへ視線を向ける。


「…………………………」


先ほどまでの賑やかさは何処へ行ったのか。

そこには目を見開き、これまでに見たことがないほど険しい形相で虚空を睨むルフィの姿があった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「うそっふ……うそっふ!!」


遠くから声が聞こえる。呂律が回っていない声。

聞き慣れない声だが、不思議とずっと一緒にいた仲間の声だと確信できた。


「あいかとお!! あいかとお!!」


ウタ、戻れたんだな。ようやく声が出せるんだな。

喜びが胸に溢れる。ウタの声に応え、その姿を見たいと思ったがボロボロな身体はどちらも果たしてくれそうにない。


「ウソップ!!」


どうにか動こうと苦心していると、ロビンの声が聞こえてきた。

ああ、そうだ。おれはあいつのことも忘れていたんだな。


「!! あなた、ウタなの!?」


「うん、うん!! ろひん!!」


オモチャから戻り、傷ついたウソップに近付くロビン。

その前にウソップの傍らに座り込み声をかけるボロボロの衣服を纏った少女がいた。


間違いない。彼女がウタだ。


「わっ……」


溢れ出る感情のままにロビンはウタを抱きしめる。

力を籠め、けれど壊さないよう慎重に。


「えへへ……あったかい」


「……ッ!!」


身体で感じる温もりにウタは顔を綻ばせる。

その声にロビンの目から涙が溢れ、抱きしめる腕に力が入った。


だがいつまでもこうしているわけにはいかない。すぐに味方を撤退させ、再び戦いを始めなければ。

ロビンは温もりを感じているウタから名残惜しげに身体を離し、倒れるウソップとウタたちを移動させる準備を始める。

そうしていると少し離れたところから声が届いた。


「ウソランド~~~~!!! やったれすよ!! 「SOP作戦」成功れすよォ!!」


大粒の涙で顔をグチャグチャにしたトンタッタ族のレオたちがウソップに向かい叫ぶ。

伝えきれない感謝と、諦めず立ち向かったその勇姿を讃えるために声を張り上げる。


「銅像を建てるれすよ!!! 傷ついて…ぼくらの為に戦った英雄の!!!」


あなたは語り継がれる偉業を成し遂げた。ぼくらは決して忘れない。

少しでも、この感情の一片でも偉大なる英雄に届くように。


「やっぱりウソランドは……ほ゛く゛らのヒーローれす!!!」


その声にウソップは震える身体に鞭打ち、親指を立てサムズアップする。


「全て゛…計算と゛お゛りら…」


『本当れすか~~!!? カッコイイ~~~~~~~!!!』


やり遂げた。自分はやり遂げたのだ。

仲間を救い、この国の闇を払った事実を誇らしく掲げウソップは笑っていた。


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