恋とは
娘ちゃん(7歳ぐらい)出ます
また、ルフィ子の初恋がシャンクス、ローの初恋がシスター、娘ちゃんの初恋がキッド概念をお借りしてます。
恋とはどんな味かしら?
「えー? ……しょっぱい味、かなあ」
海の味。涙の味。
母様の初恋の人からはいつも海の匂いがしていて、その人が自分のせいで海で左腕を失くしたときの海の味と、涙の味を覚えているんだって。
「それにほら、わたしもトラ男も海賊だし!」
父様も母様も海賊で、ふたりとも泳げないけどふたりの側にいつも有る海の味。父様がプロポーズしたときに母様は嬉しくてわんわん泣いちゃって、そのときの涙の味。
「ヤキモチ妬いちゃうかもだから、シャンクスのことはトラ男には内緒ね」
だから、母様にとって恋とはしょっぱい味。
恋とはどんな色かしら?
「……白」
白い国。白い病。
父様の、もうなくなってしまったらしい故郷の色。父様を襲ったらしい病気の色。それを父様は覚えているんだって。
「“この世に絶望などない”、“救いの手は必ず現れる”……あの人の言う通り、おれはこうして生き延びて、あいつとお前に会えた」
父様の心を掴んで離さない、誰よりも自由で、月のような父様を照らし続けるきらきら光る白い太陽。
「拗ねると面倒くさいから、あいつにはシスターのことは黙ってろよ」
だから、父様にとって恋とは白い色。
恋とはどんなものかしら?
「からくてつらいもの」
ワノ国の言葉では、つらいとからいには同じ字を使うらしい。ファッファッファッと笑いながら、キラーおじさまがそう教えてくれた。
キッドとキラーおじさまの初恋の思い出はカレーうどん。だからからい。初恋の人は死んでしまったらしい。だからつらい。
「……へんなこときいちゃってごめんなさい」
「ファッファッファッ! 気にするな」
隣に座るわたしの頭をなでてくれるキラーおじさまのお顔はマスクに隠れて見えないけれど、じっとヴィクトリア・パンク号を見つめるその目はきっと優しいものだと思う。
「おいガキ」
「あっ、キッドだ!」
赤い髪のその人が近づいてくるのが見えて思わず駆け出した。その顔目掛けてぴょんと飛びつけば、深いため息をつかれてしまった。ひどい。
「お前そういうとこ本当バカザルそっくりだな……」
「もう! また母様のはなしする!」
「ファッファッファッ! 相変わらず好かれてるなキッド」
「嬉しくねえよ、親馬鹿ルガーの視線が怖いのなんのって」
私を引き剥がそうとするキッドのことをじっと見る。
初恋はかなわない。
ナミお姉ちゃんがいつだかにそんなことを言っていた。父様も母様も、初恋はかなわなかったことをしっている。
でも。
「キッド」
「あん? なんだよガキ」
「えへへ、だいすき!」
ぶちゅ、とキッドのほっぺたにちゅーをした。ファッファッファッ! とキラーおじさまの笑い声がする。
「……キラー」
キッドがそっとわたしを下ろしてキラーおじさまの方を見た。
「ああ、トラファルガーがすごい勢いでこっち来てるな。そろそろシャンブルズしそうだ」
「あークソッ、ひとまず逃げるぞ! おい、またなガキ!」
「またきてねー!」
わたしにとって恋とは、とても楽しいものである。
※このあと父様がめちゃくちゃシャンブルズ乱発して捕まえたキッドと喧嘩した