恋とはどんなものかしら
「少し休んだ方がいい。寝不足は万病の元だからね」
「…………」
首が横に振られる。無言の否定。サンソンは心の中でため息をついた。
武田晴信が医務室の住人となってから数日経つ。━━このランサーはずっとここに居るのだ。何も食べず、飲まず、一睡もせず。いくらサーヴァントでも辛いだろう。
「ライダーのことは僕達に任せて。一度睡眠を「………負傷した人間なんて、見慣れている筈なんですけどね」
ポツリと落ちる、小さな呟き。膝を抱えぎゅっと丸くなる姿は随分と幼く見えた。
「晴信に関してはどうも駄目みたいです。腹の中が見えていたり、手がもげそうになっていたりすると何も考えられなくなってしまう。先に逝かれるのが怖くて仕方がない」
ランサーが大きなため息をつく。
「サーヴァントだから、生身の人間ではないから、傷を負ってもすぐ治る。大怪我してもアスクレピオスがいるから大丈夫。何度も自分に言い聞かせました。でも胸のざわつきは大人しくならないし、最近は晴信の顔を見るだけで脈がおかしく………私は病気なのでしょうか」
「あー………」
ランサーは外見相応の情緒が発達していないとマスターから聞いている。言葉選びを間違ったら泣かせてしまうかもしれない。サンソンは慎重に口を開いた。
「ええと、先ず言っておくけどそれは病気じゃない。病気じゃないから医療班である僕達にはどうしようもないんだが……あー、君よりちょっとばかり長生きした人間として言わせてもらうと、だ………心のざわめきも、ライダーの顔を見るとドキドキするのも、彼を異性として憎からず思っているからだよ」
「……………」
「ん?」
返事が、無い。心配したサンソンが顔を覗き込むと、ランサーは頬を林檎のように染めていた。どうやら自分の想いを自覚した、らしい。