怪異ハンターシオン

怪異ハンターシオン



結論から述べるなら、シオン・エルトナム・ソカリスはアトラス院に帰還を果たした。

知られざる怪異、外なる神の巫女であったアビゲイル・ウィリアムズの奸計に囚われた彼女は、無惨に純潔の花を散らされ、無垢な幼い身体にただびとならば生涯を費やしても味わい切れないであろう快楽を刻まれ、分割思考の幾つかを神経への過負荷で焼き切りながら、それでもかの怪異が支配する異界からの脱出をついに成し遂げた。


帰還したシオンは、己の経験全てをデータとしてアトラス院に提供した。

それは新たな脅威の存在を知らしめるとともに、己の受けた凌辱、己が晒した痴態、その全てを詳らかにするということを意味するが、シオンは躊躇わずに実行した――それがアトラス院の正しい在り方だと信じて。


仮説上の脅威であった外なる神、その人型境界面たる巫女の直接観測。この功績をもってシオンはアトラス院に復帰した。

アビゲイルとの接触による物理的あるいは精神的汚染を疑う声もあったが、徹底的な検査の末にその可能性は否定された、

だが、シオンの心身に刻み込まれた傷痕は広く、深い。

日常的に発生するフラッシュバック、触手を目にするだけでシオンの幼い肢体は潤い、快楽の在り処を知った指先は自らを慰めることを止めない。

しかし、シオンはこれら全ての『後遺症』を克服できると信じている。

全ての後遺症を克服したその時こそ、忘れえぬ彼女、アビゲイル・ウィリアムズ、アビゲイル、アビーを蒐集するその時なのだと。

アビゲイルと再び対峙する己を思い描くとき、シオンの身体は我知らず昂り、熱を帯びる。

痛いほど鋭敏に、敏感になる身体がアビゲイルとの再会に何を期待しているのか。

純潔を踏みにじられたシオン・エルトナム・ソカリスとしての復讐か、アトラス院の怪異研究者シオンとしての蒐集か、それとも……。


アビゲイル・ウィリアムズは知っている。

ひとときの離別は二人の友情を深めこそすれ、分かつものではないと。

偶さかシオンが別の怪異と戯れることがあっても、二人の絆はそれによって断ち切られるようなものではないと。

そして何よりも――其の権能は門にして鍵。彼女にとって久遠の距離も不壊の境も妨げにはならない。


悪夢にうなされる夜、艶夢に疼く夕べ、夢と現のあわいでシオンは確かに感じる。

あの優しい子守唄を。火照る額に触れる冷たい指先を。求めさえすれば得られる、嵐の後の凪のような安らぎの予感を。

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