怪物と人間性
「実を言うとカリである俺らといつもの俺らに大した違いは無いんだ」
「そんな風には見えない?まあそうだろうな。いつもの……人間である俺らは虐殺とか嫌がるし。手段は選ばないって言ってるけど結構選ぶからな俺ら。だから人間の俺らに虐殺とか命令するのやめろよ?マスターならそんな事言わないだろうけども」
「話を戻すと俺らと人間の俺らは本質的には同じだ。ただ違いがあるとしたら俺らは人間としての記憶が記録になっている」
「家族との団欒も友との会話も従兄弟との因縁も、俺たちにとっては実感が無い他人事だ」
「だからまあ表層は変わったように見えるだろう。でも本質……俺らが人類の間引きのために作られた魔性だってことに変わりはない」
「……そんな顔しないでくれマスター。これは俺らにもどうしようもない事実だ」
「正直言うとな。人間の俺らもカリである俺らになることは嫌がっていたんだ」
「俺らを大切に思ってくれた家族がいた。仲良くしてくれた友がいた」
「……人間として見てくれていた従兄弟がいた」
「俺らはそいつらとの絆を無くすんじゃないかって思っていた」
「それでも俺らはカリになった」
「俺らにとって怪物の俺らも同じだったというのもあるし、それに思ったより人間が減らなかったからだ」
「俺らはあれでも人間が好きだったから世界の滅亡は嫌だったんだ」
「そういえば、一つだけカリになって想定外だったことがある」
「家族は泣くと分かっていた。アシュヴァッターマンは嘆くと分かっていた。ユディシュティラとアルジュナは気に病むと分かっていた。ナクラとサハデーヴァは怒ると分かっていた。……ビーマがあんなに引きずるなんて思っていなかった」
「ビーマが人間の俺らを悼むなんて思っていなかった」
「ビーマが怪物を殺すことに躊躇うなんて思っていなかった」
「……俺らにまだ情を抱いているなんて思っていなかった」
「本当に俺らの思うとおりにならない従兄弟だよ、あいつは」