急変
その日、私はいつものように書類仕事に従事していた
ちょうどハンドアイランドの町長に発注の見積もりを依頼してから1週間目、明日には向こうから連絡が来るという日
ここ最近はグラン・セーニョ関連、そしてゼフ関連の案件に注力していたが、何もそれしかしていなかったわけではない
劇団の興行やテゾーロのライブ、電伝虫放送にウタの指導
ここに投資関連の資料の確認や視察、担当者との打ち合わせと、目が回る忙しさというのはこのことだ
とは言え、その分稼がせてもらってるのだが
最近はグラン・セーニョのドッキング作業に伴い、これまで定期的に行っていたテゾーロの他島での遠征ライブ等を休止しているため、本当であれば収益はその分減る
しかし、数年前の海軍の誘致による治安の改善の効果か、テゾーロの歌がそれほどに魅力的なのか、態々船でこの島まで奴の歌を聞きに来る客が増えている
おかげで島の観光客は去年より28%増、それに伴い外食、宿泊、レジャー、商業などあらゆる業界が例年以上の売り上げを見せている
結果としてこの島は今、久々の好景気に沸いていた
そして何を隠そう。この島の資本は全体の43%を私が握っている
観光客たちの目当てがテゾーロ、ひいては我が劇団であることも含めて、島の収益のおおよそ25%が私に流れてきているのだ
労力に見合った報酬は十分に受け取っているという訳だ
そのせいか最近では裏の世界で私のやっかみ半分のよくない噂が流れているそうだが、まぁそんなものは今に始まったことではない
気にするだけ時間の無駄だ
い今はそれより、溜まり始めている仕事を何とか処理することを考えなければならない
不意に、デスクの上の電伝虫が鳴きだした
着信の合図だ
まぁ今は仕事中、電伝虫など先ほどからひっきりなしにかかってきている
是もまた、どこかでトラブルがあっただとか、そういった連絡だろう
電伝虫の受話器を取り、応答する
「もしもし」
『…○○さんかい?』
「…!その声、ココロか?」
電伝虫の相手はトムの秘書、白魚の人魚ココロだった
彼女は若いころ、私と共に船大工として腕を鳴らしていたころのトムをしたって一人魚人島からやってきた
そしてそのまま押しかけ気味にトムの造船会社、トムズワーカーズの秘書、あいや、美人秘書として収まった
ちなみに既婚者で、W7の一般男性との結婚し息子を一人儲けている
…そういえばこの間連絡した時に、近く孫が生まれるとも言っていたな
う生まれたら祝いの品を送らせてもらおう
まぁその前にこの連絡の目的だが、見当はついている
「連絡をくれたということは、トムの判決が出たか
で、どうだった?」
今日は10年越しにトムの判決が下る日
海賊王の船を造ったという罪を、海列車開通という偉業をもって覆す日
本当は私も現地で祝福したかったが、さすがにこの忙しさでは『…ちまった』
…何?
「…すまないココロ、よく聞こえなかった
もう一度言ってくれるか?」
いや、違う、聴こえなかったのではない
聞き間違いだと、そう思った
だって、そうでなければおかしい、そうでなければ、あいつが、トムが…
『…トムさんが、エニエス・ロビーに連れててかれちまった』