思わぬ再会

思わぬ再会


トゥールの先導で、花畑の奥にあるという地下遺跡の入り口を目指す。明日に予定されている国王軍の調査を待つという選択肢は、ゾロにはないみたいだから。病の原因もきっと地下にあるだろうことを聞いても彼は、そっちはチョッパーがなんとかするだろって笑ってみせた。

そんなゾロに、今日同行できないことをキュロスは何度も謝っていて、スカーレットにもトゥールにも半ば呆れたようにフォローされていた。それも大切なお役目のためなのに、本当に真面目で誠実な人ね。

地理をよく知る人が一緒でないのは少しだけ問題になるかもしれないけれど、むしろ心は軽いくらい。叶うことなら私も、街から離れたこの花畑でひっそりと、でも間違いなく幸せに生きている素敵な家族を暗いところに連れて行きたくはなかったから。

「ここだ」

そんな私達を迎えてくれたのは、立ち入りが禁止されていたにしても驚くほど状態の良い遺跡だった。

この旧い王墓は、リク王家の歴史が始まって以来の禁足地。もしかすると、その理由には世界の隠された歴史が関わっているのかもしれない。

階段を下りた先、壁面に刻まれた逆さ吊の秘文字に心が騒ぐ。

たしかにこれは、彼ら狩人の領域ね。

「止まりなさい」

「あ?」

はたして人の出入りが禁じられているはずの遺跡で、すぐにその人影は現れた。

けれど残念。今回の事件の首謀者達とは関係がなさそうだわ。

「オマエは…」

「ドレスローザまで戻って来ていたんですね…ロロノア」

2年前、アルバーナで見た顔をこんな所で拝むことになるなんて。

少しは腕を上げたのかしら、女海兵さん。

「ゾロ、彼女とは知り合いなの?」

「………」

「なんでもかまわねェが…こんなトコに海兵が一人で何してる?」

フランキーの問いには答えず、彼女は大きな十手を背負ったまま鯉口を切った。私達にもそこまで時間があるわけじゃないの。少し眠っていてもらおうかしら。

「待ちたまえ」

「その装束…!まさかあなたは…」

「狩人だ。そして彼らは此度の協力者…ここは通してもらおう」

私達の間をすり抜け狩人証を取り出して見せたトゥールに、眼鏡をかけ直した彼女が歩み寄り指先に顔を近付けた。結構な近眼だったのね。あなた。

「…どうやら本物のようですね」

「ほう、判別ができるのかね?良い目をしている」

「刀の鑑定の要領ですので」

「結構な目であることには変わらんさ。なんにせよ、話が早くて助かるのは同じだ」

帽子の影で口角を上げたトゥールに、彼女は素直に警戒を押し込めた。

彼ら狩人の立場が特殊であることは知っていたけれど、"政府の管轄下にない"組織の仕事が海兵の任務に優先されるなんて。あまつさえ彼は、大物賞金首を協力者として連れてすらいるのに。

「私にあなたのお仕事を妨げる権限はありません」

「では…このまま通してくれるという認識でよいかね」

「…いいえ」

再び眼鏡を押し上げた彼女は、私達に正義の二文字を負う背中を向け、遺跡の奥に臨んで言った。

「私も同行します」


「なんでコイツまで連れてくんだ!!」

「彼女には彼女の任がある。我々の目的を妨げぬのであれば、人手はあって困らんだろう」

「ドレスローザに来たばかりのあなたたちは知らないかもしれませんが、ここは特殊な場所です。そもそも大きな衝撃を加えるようなことがあれば、地上に位置する花畑や街ごと崩落する危険性もある」

「そりゃ国の地下一帯に広がる遺跡で暴れた日にゃ、とんでもねえことになるわな」

「その点に関しては、十分に気を配ってくれたまえよ。君たちの目的は刀を取り返すこと。ただそれだけなのだから」

「私からもお願いしておくわ。こんなに良い状態の遺跡なんて、なかなか見つからないもの」

全員に畳みかけられて、ゾロは不服を隠しもしないまま口を閉じた。何か起こる前にこの話ができて良かった。あなた暴れる気だったのね。

「刀を取り返すって…!どうりで二振りしかないわけだ…一体どんな刀を盗られたんですか!?」

「あなたには関係…」

「秋水だ」

私の言葉を遮って、ゾロははっきりと答えた。

「秋水!?秋水って、あの…?は、早く取り戻さないと!!!」

「おい!おれの刀だぞ!!」

剃を使ってるみたいな勢いで走り出した彼女を、一瞬あっけにとられたゾロが追いかけていく。

私が思っていた以上に、あの二人にはお互いに思う所があったのね。なんだか少し、不思議な気分。

「…賑やかなことだ」

「早ェとこ追っかけねえと、ゾロが途中でどっか行っちまうぞ」

「それもそうね。まだはぐれていないか、少し見てみるわ」

足音と子供みたいに言い合う声が消えていった先の天井に、先んじて目を咲かせる。

二人は、まだ見えない。

「…また人が居たわ」

「海兵か?」

「いえ、ただ…急ぎましょう。この構造なら、こちらから近道できるはず」

こうした旧い地下墓地の構造は似通っている。脇道に見える扉から橋を渡れば、二人に追いつけるはず。

「流石だな。狩人にも、遺跡を十全に知る者は少ないというのに」

「誉め上手ね」

咲かせた腕で扉を押し上げるのと、回り道を走って来た二人が通路に辿り着いたのは同時だった。そしてその先に、手配書で見た顔の男が一人。

「海賊に海兵、おまけに狩人とは、随分と奇妙な道連れだ」

「誰だてめェは」

「バジル・ホーキンスですよ!!あなたと同じ"最悪の世代"の一人!!!」

海賊同盟の話題は新聞を賑わせていたけれど、その彼がどうしてここに。

今までの情報から考えれば、他の同盟相手も一つの国に留まって問題を起こしたがるようなタイプではないはず。

臨戦態勢を取った私達をよそに、目の前の彼は落ち着き払った態度で宙に浮かべたタロットカードを眺めている。

「なんだ、やんねェのか?」

「"突破"確立…10%」

「おれ達を目の前にして占いたァ、なかなか肝の据わった野郎だぜ」

戦う気は、無いのかしら。

不気味な沈黙が、燭台の白い炎に照らされた通路を満たした。

「こっちは急いでんだ。道を空けろ」

「駄目です!!!!」

刀を抜いたゾロの前に、同じく刀を構えて立ちふさがったのはあの海兵さん。

突然の行動にひるんだ私たちをおいて、彼、ホーキンスはまだタロットに指を這わせている。

「あの男は…バジル・ホーキンスはワラワラの実の能力者!!この一本道をたった一人で守っているということは、きっと誰かの命を身代わりに宿している!!!」

必死で叫ばれた声に、変わらずカードを眺めていた男がようやく顔を上げた。

「その通り。そしておれが宿しているのは…」

ゆったりと腕を降ろした彼の言葉に、ゾロに向き合ったままの彼女がひどく悔し気に顔を歪ませる。

「お前たちが嗅ぎまわっていた、"避難船を待たず消えた子供たち"の命だ」

顔色を変えず言い放った男のその奥で、蠢く影が通路を覆っていた。






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