思い出す
※怪我描写あります
ハルトと付き合ってかれこれ半年が経った。ハルトの今いるパルデアはあたしのいるキタカミと違ってなんというか…こうハイカラなイメージだ。
付き合って半年経ったある日ハルトと鬼が山に出かけた。 オーガポンと出会った場所 そしてハルトとあたしが結ばれた場所……そんな思い出深い場所だった。
半年付き合った記念でハルトから貰った2人の写真入りロケット。あの日あたしは気分が舞い上がってたのだろう。 ロケットを手に持ってルンルン気分でスキップしてると急に現れたムックルが私のロケットを脚で掴み取って飛び去っていった。
あっ!…
そう思った時だった。ハルトが咄嗟に飛んでムックルの足に捕まってロケットをムックルの脚から引き剥がそうとしていた。
ハルトの力のかいもあってかどうにかロケットはムックルの脚から引き剥がすことができた。
がしかし
それと同時にハルトはムックルに蹴り落とされて山の草原の斜面を転がり落ちて行った。
スマホロトムを出そうにも片手のロケットがあるがために出せずそのまま
ズザザザザ ザザザッ ザザズザッ…ドゴッ
最後は鈍い音でハルトが木の幹に身体を打ち付けるのだけが見えた。この一瞬の出来事を脳は理解しようとしなかった。いや、理解したくなかった。
「はぁっ……はぁ……はぁ……ハルト…?…」
「ウソ……」
気が気でなかった。あたしは滑り落ちるのすら厭わないほど急いでハルトの元へ駆け寄った。
そこには草原でぐったりしてるハルトの姿があった。
ハルトがぶつかった木の幹には痛々しい衝撃の跡が打ち付けられている。
パニックになったあたしはとりあえずポケモンセンターに電話した。
五分ぐらいでイキリンコタクシー何匹かと救護運搬用のアーマーガー部隊が駆け付けてきてくれた。
急いで搬送されたハルトは病院で安らかな顔で眠っている。
医師曰くあれほどの怪我を負って命に関わってないのは奇跡だがいつ目が覚めるかは分からないそうだ。
「良かった……」
初めに出たのは安堵の声だった。ハルトが生きていてくれて良かった いつ目覚めても良い…生きてくれるならそれで嬉しかった。
それと同時に激しい後悔があたしを襲った。
あたしがロケットをカバンに入れておけば……ハルトはこんなことにならなかったのに…
そう思うと急激に鼓動が早くなって行くのが分かった。
「ハルト………ごめん…ごめんなさい……」
目が覚めない彼に向かってそう泣くしかできなかった。
ハルトが目が覚めたのは3日後だった。
その頃には家族やパルデアのハルトの友人などもみんな吉報を聞き付け飛んできた。
「ハルト!心配したんだよ!」
「お前は昔から無理しすぎちゃんだぜ!」
「アギャッス!!!」
代わる代わるやってくる見舞人相手に
「もう気にしないでよ」
「これでも全然違和感ないんだよ!あの時はちょっと危ないかもって思ったけどさ!」
ハルトは思ったより元気そうだった。
良かった。 本当に良かった……
そうやって一安心したのも束の間ハルトの口からあたしを絶望へ誘う言葉が発せられた。
「それよりもさ…ペパー あそこにいる女の人誰…?」
あたしを指差してそう言った。
ハッキリ聞こえた 何回も脳の中を嫌というほど反復した。ガンガンとハルトの言葉が内面からあたしを殴りつける。
「ハルト…覚えてないのか?…」
「覚えてるも何も…初めましてですよね…」
ガバッ「ハルト…お前っ…!」
あたしは彼が何か話すのを聞かず病室を飛び出した。わけも分からなかった。理解できなかった。それでもどうにかして現実を受け止めようとしたのか脳はこう言う結論を叩き出した。
あぁ天罰なんだ あたしが彼を怪我させる原因を作ってしまったから…!
涙が止まらなかった。 初めてだった。何があっても気丈に振る舞える あたしはそれくらい強いとそう勝手に思ってた
思いたかった!
でも…好きな人に……忘れ去られて…半年間の楽しかった思い出が音を立てて割れていくような感覚だった。
「ハルト…………」
その日は食事が喉を通らなかった。
翌日、ハルトは記憶に異常が無いかどうかを調べるということで脳の検査を受けた。
結果、記憶に異常は見つからなかったが終ぞあたしの事は思い出さなかった。
先生はエスパータイプのポケモンや、どっかの地方にいるポケモンに技を思い出させるおじさんまで連れて来て彼の中の
”かつての恋人”の記憶を呼び戻そうとしたが戻ってくることは無かった。
もう無理かもしれない…彼の病室を出た後ハルトと看護師の会話が聞こえてきた。
「看護師さん……」
「どうしたの?ハルトくん」
「今日僕のお見舞いに来てくれた綺麗なお姉さん…また来てくれるかな…ちょっと前髪クロスしたあのサラサラの髪の人…」
「……えぇ…きっと来てくれるわよ。」
記憶が無くなったとしても好みのタイプは変わってないようだった。
そういえばいつもハルトが褒めてくれた髪も今日はあまり手入れ出来てなかったかも…
翌日、担当の医師からハルトと思い出の地を巡るのはどうか?って言うことを提案された。
幸いにもハルトの身体は完治していて私の記憶だけがすっぽり抜け落ちている。
もう外を出歩いても問題無いしリハビリついでにどうか?との事だった。
願ったり叶ったりな話だったが本当にそれで記憶が戻らなかった時はあたしはもうショックで立ち直れないだろう
翌日から一週間かけてあたしとハルトは思い出の場所を巡った。でもそれはデートなんてみたいなものじゃなくてただの観光案内みたいにどこか距離を感じるそんな2人でのお出かけだった。
かつてのデートした場所全てを巡ったがやっぱりハルトはあたしの事を思い出すことは無かった。
最後に来たのはハルトがあたしに告白してくれた場所(正確にはほとんど告らせたようなものだけど)
そこに来てもハルトは
「うわ〜眺めが綺麗…!」
位しか言わなかった。
あたしは最後の希望にかけてハルトに何か思い出してないか聞こうと振り向いた時だった
カラン……カランコロンコロン……
という音ともにあたしのポケットから彼の足元までロケットが転がって行った。
「あの…お姉さん…これ落としましたよ」
そう言ってハルトがそれを拾い上げた時だった。
ロケットは落ちた衝撃かパカッと開いて中のツーショットが彼の目の中に入った。
すると急に彼は震え出してその場に蹲り出した。
「うっ……あぁ……うぁ…………」
「大丈夫!? 何かあったのハルト!!」
これ以上ハルトに何かあったらもう終わりかもしれないそう思って彼の元へ急いで駆け寄った。
すると彼は身体を震わせて泣いてるようだった。
「……………た………………と」
何か言ってるようだったがあまり聞き取れなかった。
「思い出した……ゼイユ…僕の好きな人……」
「僕は今まで忘れていたんだ…… ごめん……ゼイユ…………」
2人の写真がトリガーになったのかハルトはあたしの事を思い出したようだった。
あたしもそれを聞いた途端感極まって大粒の涙がポロポロとこぼれ落ちてきた。
「ハルトお……今まで寂しかったんだから…………あたしのせいでこんなことになっちゃって……ごめん……ごめんねぇ……」
泣きながら彼にそう言うしか無かった。
「好き……好きだよゼイユ……今まで思い出せなくてごめん゛……」
泣きながらそう言う彼をただ抱きしめてあたしも泣くことしかできなかった。
「ゼイユの事……忘れちゃってたけどもう1回僕と付き合ってくれますか……?」
「当たり前じゃない……ずっと好きよ…ハルト…………次あたしのこと忘れたらタダじゃ置かないんだからあ゛……」
そう言ってあたしは2回目のハルトの唇を奪った。
2回目のキスは時間にすると2秒も経たない位だったけどあたしとハルトには永遠のように長く感じられた。
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「っていうのがあたしとお父さんとの恋物語よ!」
「お父さんあたしにずっとベタ惚れだったんだから!」
「え〜パパとママ熱々〜」
「…………///」
「ね!パパ!!」
そう言って振り向くと顔を真っ赤に染めたハルトの姿がそこにはあった。
机の上の写真立てにはあたしとハルト
そして可愛い娘が真ん中でちょこんと座っていた。
3つのロケットにはそれぞれ3つの写真が入れられている。