思い出、石つみ、後悔

思い出、石つみ、後悔



「パラドー、明日の弁当にはハンバーグと赤ウィンナー入れて!」

「わかったぜ!」


最近、永夢からの弁当のおかずのリクエストが増えた。それもこれももう一人の俺のお陰…なのだろう。清長の記憶と過去の事故の記憶を改竄された永夢は以前より明るくなった。


「なあ、パラド! 今度虫取り行こうぜ!!リアルムシキングをぼくは目指したいんだ!!!」

「良いぜ!! どっちがデカいの取れるか勝負だ!」

「絶対負けないからな!!」


永夢が笑う姿は非常に心を動かされる。過ごす日々を重ねるにつれ、彼の幸福を願う気持ちが増幅する。その気持ちと同じく後悔も募っていく。

何故清長は永夢をあんな目に遭わせてしまったのか。

仕事に悩殺されていたとはいえ、何が別の手立てが、いっその事、彼を誰かの元へ預けていればあんな出来事も起きなかったのではないかとも。あの日、もう一人の私から告げられた事実が胸を突く。


「この子が車に飛び出したの全てに絶望し死にたいと追い詰められたわけでもなく、清長に対する当てつけですら無い」


「憎悪すら一欠片も無く、ただぷっつりと何かが切れて行動に移したにすぎない」

「大した理由のないまま、簡単にリセットしようとしたんだ。恐ろしいもんだ」

「清長と永夢の間に何もなかったせいで」


許せはしない。許せるものか。良き父になりたいと願ったことすら罪深い。


「なあパラドー!!! パラドって!!」

「あ、ああすまない永夢!? 考え込んでいた…」

「ふーん。何考え込んでたのか知らないけど、あんま抱え込みすぎんなよー?」

「…そうだな、永夢!!」


ふとした瞬間に、私は永夢の側に友人のように寄り添うことが出来ているか不安になる。彼に何かを感じさせられているか、幸福な時間を与えられているか。これはきっと良き父とは程遠い考えだろう。


「……パラドってさー、ホントぼくのお父さんみたいだよね」

「…え…そうか…?」

「だってさ衣食住全般面倒見てアドバイスしてくれるし…いつもぼくを優先的に考えてくれるし…昔、ぼくが事故で入院した時も真っ先にお見舞いに来てくれたよね。あの時は本ッ当に嬉しかった!!」


お見舞い。

清長は決して行かなかった。俺はその時生まれていない。だから永夢が話している思い出は、恐らくもう一人の私が永夢のためを思って植え付けた疑似記憶なのだろう。孤独の空白を埋めるための優しい記憶。


「あの時は心配させてごめんな、パラド」

「…ああ」


永夢。ホントは俺お前にそんな優しさを向けられるべき存在じゃないんだ、私はお前に何も与えなかったのだから。私はお前を見捨てたも同然だ。


そう叫びたい気持ちを抑え込み笑う。


「いつ何時も、永夢の健康と幸せが一番だからな!」


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