思い出のにおい

思い出のにおい


ハッピーバースデーコラさん(思いっきり遅刻)

コラさん関係の話を書きたいなって思った結果のちょっとした話

ハッピーバースデーって言ったけど何一つとしてハッピーじゃない

ちょっとだけ嘔吐表現あり

手を出されてる世界線なので、直接的な描写はないけどされてはいる表現がほんのりあるので苦手な方は回れ右でお願いします





「コラソン、煙草ってそんなに良いのか?」

「何だ?お前にはまだ早ェよ。まァでもそういうの憧れる歳だよな、分かる分かるぞ。でも大人になってからな」

「ちげーよ!コラソンが毎日バカみたいに大量に吸ってるからってだけだ!!第一ンな体に悪いもん好き好んで吸いたいなんて思わねェよ。それに……どうせ近い内に死ぬんだ、大人になんかなれやしねェよ」

「おまっ!何て事言うんだ!!」

「うわっ!急に持ち上げんな!」

「良いか!?お前の病気は絶対に治る!!んで大人になるし、しわくちゃの爺さんになるまで生きるんだ!!分かったな!?ロー!!」





懐かしいな、あの頃はまだコラさんって呼んでなかったな

それに治るって、大人になるって言われるの本当は凄く嬉しかったんだ



(あれ?)


何だ?懐かしいにおいがする

良いにおいって訳じゃないけど、凄く安心するにおいだ

何だっけ、昔何度も嗅いだにおいなんだけど……


そうだ、煙草のにおいだ


コラさんがいつも吸っていた煙草……




「ッ!!?コラさん!!?」


飛び起きて今自分がどこに居るのか分からずに辺りを見回すと、ベッドの上に寝ていた事、そしてベッドの縁にドフラミンゴが座っていた事に気が付いた


「ッあ……」


気が付いて血の気が引いた

ドフラミンゴの前でコラさんの事を呼ぼうものなら何をされるのか分からない。折檻と称して目的も無く拷問される事もあればクルーの遺品を傷つけられる事もある

遺品を傷つけられるくらいなら拷問であれ

そう思っていたが


「何だ、そんなに縮こまって。今日は怒りゃしねェよ」


どういう訳か今の俺の行いはドフラミンゴの逆鱗には触れなかった

普段なら問答無用でベッドから引きずり降ろされて部屋から連れ出されて、折檻という名のう拷問にかけられていただろうが、一体どんな心情の変化だ?


訝しみながらドフラミンゴの手元を見れば、火の点けられた煙草がいた


「それ……」

「フフ、やっぱり気付いたか。そうだ、コラソンが吸っていた銘柄だ」


それはにおいですぐに分かった、だが気になるのは煙草なんか吸わないドフラミンゴが火の点いている煙草を持っている事だ

だがその答えはすぐにドフラミンゴ自身の口から語られた


「今日はコラソンの誕生日だからな」

「……」


日付の感覚はおろか昼夜の感覚すら狂っているから全く分からなかったが、そうか、今日はコラさんの誕生日なのか


「生きていたら41だったか。フッフッフ、あの時の俺と同い年だな」


あの時、そう言われてすぐにいつの事か分かった

ドレスローザで俺が負けた日

何人も死んだあの日

あれからこの地獄は続いている

俺が無言でいるとドフラミンゴは煙草を火の点いたまま、傍にあったサイドテーブル上の灰皿に置いた


「なァロー問題だ、五感の内最も記憶に定着しやすい感覚が何だか知っているか?」


突然の話に一瞬何を言っているのかと固まったが、それでもその問いに答えを返す


「確か、嗅覚…だったと思う……」

「そうだ。ま、でなけりゃお前はこの煙草が誰の吸っていた銘柄かなんて分からなかっただろうからな」


懐かしい夢を見たのも煙草のにおいを嗅いだからなんだろうな、なんて1人で納得した


「もう一つ問題だ。良い記憶と悪い記憶、残りやすいのはどっちだ?」

「えと、悪い記憶……確かネガティブバイアスとか何とか……」


何だ?

さっきから話の意図がよく分からない

何で突然そんな事を言い出してきた?

何だ?

さっきから何か、得も言われぬ不安感が背筋を伝っている


何かある、直感がそう言ってきて俺はすぐにベッドから降りようと体を動かした

しかしそんな俺の、まだ動かし始めの足をドフラミンゴに掴まれてあいつの方に引っ張られた

大して力の入らなくなった体じゃろくな抵抗なんか出来ずベッドの中央に引き戻された


さっきから嫌な汗が止まらない

どうしようもない程に嫌な予感が、へばりつくような不快感と共に付いて回ってくる


「最後の問題だ。煙草のにおいが満ちたこの部屋で、お前の記憶を上書き出来ると思うか?」

「は?」


それは問題か?

いや、そんな事はどうでも良い

問題なのはこいつが煙草のにおいがコラさんの記憶に結びつかないようにしようとしている事だ


咄嗟に逃げようとしたが片足を掴まれていたせいで逃げられない、それどころかドフラミンゴの方へ引き寄せられた

こちらに手を伸ばして来ると、俺は咄嗟にその手を払った。が、今度はその腕を掴まれてベッドに縫い付けるように押さえ付けられ、その上で更に服を無理矢理剥ぎ取られた


「止めろ!!ッ!!やめ、離せ!!」


何とか抜け出そうと暴れるが、元々体格差があるのに加えて、細く弱くなった体で抵抗したところで片手で押さえられてしまった



嫌だ


止めろ


何度も叫んだ


だけどその内言葉らしい言葉が出なくなった

出るのは悲鳴に近い声だけだった





(コラさん……)




気が付いた時にはいろいろな事が終わった後だった

いつ寝た、っていうか気絶だなこれは。そんな事を考えながら辺りを見回せば、部屋の中には俺1人だった

ふと、ベッドの傍のサイドテーブル、その上に置かれている灰皿と煙草、ライターが目に入った

気怠い体を無理矢理動かしてサイドテーブルに手を伸ばして、置かれている煙草とライターを掴んだ


「コラさん…大丈夫、大丈夫な筈だ……」


ドフラミンゴに散々好き勝手された。だが一晩だ、一晩だけでどうにかなるとは思わない

ケースから煙草を一本出して咥え、苦戦しながらライターで火を点けた

俺は煙草は吸わないから火を点けたまま灰皿の上に置いた


コラさん、嫌な事があったんだ

だからコラさんの事を思い出して忘れたいんだ

どんな思い出でも良いから、楽しかった事を思い出させて



脳裏に浮かんだ記憶はコラさんと過ごした時間





…じゃ、なかった


「ロー、ほらそんなに暴れるな」


「嫌?その割には随分とヨさそうだけどなァ?」


「フッフッフ、あァだらしのねェ顔してんな」




大した物が入っていない胃の中身が一気にせり上がって、ベッドの上である事も気にせず俺は全部吐き出した


「うぉえ!!うっ、ぅぷ……おえっ……ッは、はー、はー……」


何で?

何でコラさんとの記憶じゃない?

ほんの一晩で書き換わる程、俺にとっては嫌な事だったのか


嫌だと思わなければ良かったのか?

いや無理だ、そんなの不可能だ


「……や、だ…………」


何でここまでされないといけない

捕らわれて、ここに繋がれて、仲間も皆奪われて、でも必死に耐えて

だからせめて、思い出すのくらいは俺の好きにさせてほしかったのに、何でそれすら制限されないといけないんだ


「コラさん……」


コラさん

もう、俺はもうあんたの声が思い出せないんだ

あんたの顔も上手く思い出せなくなってきてる


煙草のにおいを嗅いだ時の夢じゃハッキリあんたの声が聞こえた、顔もしっかり思い出せたのに、もう全部書き換えられた


コラさん


助けて


助けてよ……


あの時みたいに、俺を連れ出して……


コラさん……


ごめんなさい


俺のせいで死んだあんたに助けを求めるのが間違ってるのは分かってる


でも

それでも


(助けてコラさん……)


願うくらいは好きにさせて



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