忠犬
シャチとロビン(見ようによってはCP?)
ワノ国に行くまでの一幕
めちゃ短いです。
「ロビンさん、ロビンさん!見てください。これ、砂浜で見つけたんです。綺麗でしょ!」
「まあ、珍しい貝殻ね。素敵」
「ここの模様がポイントです。ハートみたいに見えますよね。貰ってください」
「あら、いいの?ではお言葉に甘えさせてもらうわね。ありがとう、シャチ」
シャチから巻貝の貝殻を受け取って電球にかざしてみる。光沢のあるグラデーションは光を受けると、表面を虹の膜で覆ったように鮮やかな輝きを見せた。貝の最頂部にはミカン色の斑点がハートのように集まっていて。傾けると光を集めて一等眩しさを放った。
とても素敵、と改めて独り言を呟けば、彼は照れくさそうに帽子の上から頭を掻いた。その頬に白い砂粒がくっついているのを見つけて、能力で払ってあげる。この船の頼れる船長より一つ年上の彼だけど、無邪気な言動はいつも賑やかな自分の船長を思い起こさせる。きっと砂まみれになるのも厭わず、この貝を探してくれたのだろう。
「ウソップに頼んでペンダントにしてもらおうかしら」
「あ、いやそんな、大げさにするようなもんじゃないですよ。また拾ってきますし…でも、欲を言えば大切にしてくれるんだったら嬉しいかな、なんて」
「もちろん大切にするわ。ふふ、贈り物なんて滅多に貰わないから嬉しいわ」
贈るのも贈られるのも、麦わらの一味に出会って誕生日の人にはプレゼントをするという習慣を学ぶまではほとんど縁のないものだった。私も何かシャチにお返しできないかしら、と部屋を見まわして自分で楽しもうと思っていた野花の束が目についた。スッキリとした香りが気に入って花畑から少しだけ失敬してきたものだ。
「シャチはお花、好きかしら?」
「ロビンさんから貰えるなら道端の石でも嬉しいです!」
「ふふふ、これも大したものではないけれど…後で押し花にしましょうか。貰ってくださる?」
「マジですか、ありがとうございます!」
「ロビンさーんっ!」
「シャチ、慌ててどうしたの?」
「お昼ご飯ができたって、冷めないうちに食べましょうよ」
海中での航路で最も楽しみにしているものといえば、シャチはきっと食事と即答するに違いない。この海には千で足りないほどの島があるけれど、丸一日以上変化のない海を眺める日も長い航海の中には訪れる。特に昨日から、潜水して海上以上に変化の少ない景色が続いている。普段暇を潰すのは得意なシャチだけど、退屈が積もってキッチンに張り付いていたのだろう。今日はハンバーグだから出来立てが一番ですよ、と興奮気味に近寄ってくる。
「教えてくれてありがとう。でも、もう少しで読み切るところなの。後でいただくわ」
いつもならシャチに片腕を取られれば素直に立ち上がるのだが、今回ばかりはタイミングが悪い。このままハンバーグをいただいたところで本の続きが気になって味が分からなくなってしまうだろう。申し訳なさを滲ませて笑顔を作った。
「まじっすか…」
目元はサングラスで隠されているけれど、雄弁に語る口元が落胆を告げる。この船に乗ったばかりは、陽気な立ち振る舞いに何か裏があるんじゃないかと疑ってしまったけれど、今は彼がただの気のいい青年だと分かっている。そして同じくらい、私がどうしようもない活字中毒であることは知れているのだろう。
「…なら、俺も待ってます」
結局、迷い悩んだ末にシャチは私の隣に腰を下ろした。
「料理が冷めてしまうわよ?」
「心配無用っす。腹を空かせればよりおいしく食べられるでしょう?それにロビンさんと一緒に行けば、コックだって温めなおしてくれますよ、きっと!」
「ふふふ、私からもコックさんに頼んでみるわ」
「よっしゃ、頼みますよ」